地球の状況をより正確に、リアルタイムで把握できるようになってきた現代。より良い環境保全のために。そして、私たちの生活を良くするために。世界中の研究機関で、驚きの技術開発が進んでいる。
本記事では、日頃から世界のソーシャルグッド事例をウォッチするIDEAS FOR GOODが2023年に注目した、「技術(テクノロジー)」に関するユニークなアイデアをまとめてご紹介していく。
世界のテクノロジー事例7選
名だたる研究機関が進める、新発想の技術開発
気候危機や海洋プラスチックの問題が待ったなしで迫る今日。2023年は、気候変動の要因の一つとなるメタンを大量に食べてくれるバクテリアが発見されたり、肥満を防ぐのに効果的な成分がカニなどの甲殻類から検出されたりと、良いニュースも多かった。事態を改善するために動く研究者は常にいる、そして日々研究は進んでいる、ということがささやかな希望を持たせてくれる。
以下は、海外の大学の研究機関による「ありそうでなかった」技術開発事例だ。
01. 廃熱を使った暖房。夏の「暑さ」を冬の「暖かさ」へ
カナダのマックマスター大学エネルギー研究所の研究チームが、夏に使うエアコンの廃熱を収集・貯蔵し、寒い時期に住宅やオフィスの暖房として供給する技術ソリューションを開発した。
寒い冬に、発電によって新たに熱エネルギー作り出そうとするのではなく「廃熱をエネルギーとして有効活用」する発想だ。熱源から貯蔵所、貯蔵所からユーザーへ熱を循環させるための埋設パイプなどの新しいインフラが必要になるため初期の設備投資には費用がかかるものの、将来的には、数十年にわたって費用が回収されうる仕組みとなるという。
- 国名:カナダ
- 団体(企業)名:マックマスター大学エネルギー研究所
02. 新たな再エネ?身近な「空気」をエネルギーに変える開発
オーストラリアのメルボルンにあるモナシュ大学の研究チームが、私たちの身近にある「空気」をエネルギーに変える酵素を発見したという。
大気中の微量の水素を電気に変換するこの酵素は「Huc」と呼ばれ、スメグマ菌という土壌細菌から抽出されたことが、科学誌Natureには書かれている。このとき消費するのは大気のわずか0.00005%の水素だけと、非常に効率的だ。今はまだ研究段階にあるものの、今後、太陽光や風力に並ぶクリーンエネルギーの一つとなっていくかもしれない。
- 国名:オーストラリア
- 団体(企業)名:マックスプランク知能システム研究所
03. 水中を漂い、海洋プラスチックを回収してくれるロボット
ドイツのマックスプランク知能システム研究所(MPI-IS)が開発した「クラゲロボット(Jellyfish-Bot)」。自ら海を漂いながら、進路上のプラスチックごみを巻き込んで拾ったり、海底に蓄積された海洋プラスチックを回収したりできる。
この水中掃除ロボットは、「クラゲ」の名の通り、クラゲの生態、特に泳ぎ方や捕食方法からインスピレーションを得たものだ。従来の水中ロボットとは異なり、コンパクトでエネルギー効率が高く、騒音がほとんどないことが特長であり、水中生物に影響を与えることなく掃除を行うことができる。
- 国名:ドイツ
- 団体(企業)名:マックスプランク知能システム研究所
04. 水不足対策に。海水から飲料水を作る装置
2023年9月、アメリカのマサチューセッツ工科大学と中国の上海交通大学の研究者が共同で、海水から飲料水を作る装置を開発した。
太陽光を用い、外部電力を全く使わない完全なるパッシブデザインとなっており、「水道水よりも安く」飲料水を生成できると見込まれることが特徴だ。研究チームによると、この装置が最大で1メートル×1メートル程の大きさになれば、1時間で最大5リットルの飲料水を作れるという。
日々の生活の質を上げてくれるテクノロジー
ここからは、民間企業によるQOL向上のためのテック活用事例を紹介する。
05. トイレの便器に取り付けるだけで日常的に尿検査ができるデバイス
フランス発のヘルステック企業であるWithings(ウィジングズ)は、2023年1月、自宅のトイレの便器に取り付けるだけで尿検査ができるデバイス「U-Scan」を発表した。尿に含まれる3,000以上の代謝物のデータから、体内の水分バランスや栄養状態を日常的に知らせることで、人々に健康づくりの意識を高めてもらおうとしている。
デバイスは専用アプリと連携しており、「コップ8杯の水を飲みましょう」「これを食べて、より多くのビタミンCを摂取しましょう」といったアドバイスも提供するようだ。
- 国名:アメリカ/フランス
- 団体(企業)名:Withings
06. 視覚障害がある人が歩きやすくなる振動ナビゲーション
株式会社Ashiraseは、視覚に障害のある人々が道順を確認する苦労から解放され、周囲の安全確認に集中して外出できるように、足への振動によって道案内をするデバイス「あしらせ」を開発した。道順の伝達において、視覚障がい者にとって重要な聴覚を必要としないため、聴覚を周囲の安全確認のために使えるのがポイントだ。
デバイスは靴に取り付け、専用アプリと連動させて使う。視覚障がい者の人に安心感を与え、彼らの「出かけたい」という気持ちを後押しするテクノロジーとして期待される。
- 国名:日本
- 団体(企業)名:株式会社Ashirase
07. AIが家計を助ける?低予算レシピを考案するウェブサイト
「インフレ・クックブック」は、食材宅配サービス会社のSkip The Dishesが立ち上げたサイト。AIが全国80か所以上の店舗、400種類以上の商品をチェックして、「家計を助けるレシピ」を提案してくれる。
自分の住んでいる地域、世帯の規模(大人、子どもの人数)、1週間の食費を入力する。すると、アスパラガスが35パーセントの大幅プライスダウン、芽キャベツが7パーセント……というように、今まさに価格の下がっている食品が10種類提示される。そこから、美味しいレシピの作成までしてくれるのだ。
- 国名:カナダ
- 団体(企業)名:SkipTheDishes
まとめ
日々、研究と開発が進む環境分野。私たちの知らないところで、世界中のさまざまな研究者が新たな技術を考えつき、試行錯誤しながら世の中に発表している。
テクノロジー全体のトレンドで考えると、2023年は生成AIの利用が大きく広まった1年間だったと言える。元々、このトピックへの検索流入量は2021年から2022年にかけて3倍に増加してはいたが(※)、今年はそれがChat GPTや、他のチャットサービス、AIイラストなど、見える形で多くの人の手に渡ったのだ。北欧デンマークでは、AI主導の政党「Det Syntetiske Parti(人工党)」も誕生した。
日々発展を遂げるテクノロジーは、私たちの生活をどう豊かにしていくのか。AI倫理の問題やサイバーセキュリティなど課題は多いものの、今後の取り組みに期待したい。
※ McKinsey Technology Trends Outlook 2023
【関連記事】Chat GPTをソーシャルグッドに使う、世界の事例
【関連記事】生成AIが、子どもたちに与える影響とは
【関連記事】IT先進国スウェーデン、学校で「紙と鉛筆のアナログ教育」に戻る計画を発表