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自然環境の危機から生物多様性の危機、食料の危機、安全保障の危機、人権の危機まで……さまざまな危機をもたらしている気候変動。この問題に立ち向かうためには、人々をワクワクさせる創造的なアイデアや、人々に新しい視点を提供する創造的な表現とコミュニケーション、デジタル技術を活用した創造的なビジネスモデルの創出といった一人ひとりのクリエイティビティ(創造性)が必要なのではないだろうか。
そうした想いから、IDEAS FOR GOODは株式会社メンバーズとのシリーズ「Climate Creative」をお届けしている。今回は、2003年創業の米国オレゴン州ポートランド発のアウトドア・フットウェアブランド「KEEN(キーン)」を展開するキーン・ジャパン合同会社(以下、KEEN)のヒルダ・チャン氏に、KEENファンが多い理由や、社会貢献活動「KEEN EFFECT」、理念である「Do the right things(正しいことをする)」について話を伺った。
※以下は、株式会社メンバーズ萩谷氏・中村氏によるヒルダ・チャン氏へのインタビュー。
話し手プロフィール:Hilda Chan(ヒルダ・チャン)氏
キーン・ジャパン合同会社 リージョナルマネージングディレクター・日本法人代表。香港出身、カナダ育ち。カナダ・バンクーバーのブリティッシュコロンビア大学で学士号を取得し、リバプール大学でMBAを取得。また、ケロッグ経営大学院とスタンフォード大学で製品と成長企業戦略を習得。前職のASICSでは、スポーツシューズ・アスレチックウェアを展開するASICSをはじめ、アウトドアアパレルブランドHaglöfsなどの大中華圏マネージングディレクターを務める。2022年10月より現職。
質の高さや履き心地の良さだけでない。KEENファンが多い理由とは?
Q. はじめにKEENについて教えてください。
KEENは2003年にアメリカでアウトドア・フットウェアブランドとして誕生し、今年でちょうど20周年を迎えます。日本法人は2013年に設立されました。「天井のないところすべて」を愛するブランドとして、「世界をよりすばらしいカタチで未来に残していく」という理念を掲げています。
事業展開においては3つの柱があります。1つ目がアウトドアシューズ、2つ目がライフスタイルシューズ、3つ目がワークシューズで、いずれもデザイン・生産・販売を手掛けています。また、アパレルやアクセサリーの商品開発や生産も行っています。
Q. さまざまなお店でKEENのシューズを見かけます。KEENファンも多い印象ですがいかがですか?
おかげさまで多くの店頭に置いていただけるようになりました。日本ではアウトドア系の靴だけでなくライフスタイルシューズも人気で、実はライフスタイルシューズの人気は本国のアメリカよりも日本で顕著です。
また、私は着任して半年ほどですが、入社してKEENファンのロイヤルティの高さに驚きました。家族ぐるみで靴を購入される方もいます。
Q. コアなファン獲得の要因はなんですか?
1つは、シューズ自体のクオリティの高さだと考えています。「KEENの靴はクオリティが良く長持ちする」だったり、「履き心地がよいうえ、アウトドアシーンでもシティでも使えて汎用性がある」という声をよくいただきます。
また、 KEENは野外フェスなどを通じて音楽のカルチャーを広げ、強いコネクションを持ち続けてきました。ミュージシャンを長年サポートしてきたという歴史もあり、音楽ファン、野フェスファンからの強い支持をいただいています。
さらに、KEENの社会貢献活動「KEEN EFFECT」などを通して社会貢献に積極的に取り組んでいることや、さまざまなコミュニティとのつながりを持っていること、また、その活動を多くの方が支持してくださっていることが影響しているのではないかと思っています。
平等や多様性、インクルージョンの理念を持つ
Q. 品質以外にも優れた顧客体験の提供がファン獲得の要因なのですね。「天井のないところすべて」というのもとてもユニークです。
通常、アウトドアといえば山や海をフィールドと考えると思いますが、KEEN の創業者が「天井のないところはすべてアウトドアのフィールド」と広く定義しました。「天井のないところ」では「誰の上にも雨もふれば、風も吹く。気持ちのよい晴天もある」と、平等や多様性、インクルージョンの理念も含まれています。
そんな理念を持ったKEENの靴は、シーンを限定せずさまざまなところで使えるものが多いのも特長です。例えば「ニューポート」というサンダルは、ウォーターフロントでの利用を想定していますが、海や川はもちろん、山や街中でも使えます。いろんな場所やシナリオで幅広く使えるのも、KEENの靴が愛される理由かもしれません。
「ニューポート」は、もともと指を守るサンダルがないことに課題に感じ、つま先を守るサンダルとして誕生した靴です。サンダルとしては変わった見た目であることに注目し「世界で一番ブサイクなサンダル」というメッセージを発信し成功したシューズでもあります。確かに、一部の人はブサイクと思うかもしれませんが、それが逆に良さでもあります。
Q. それぞれの靴に特別な価値観・ストーリーがありますね。
それが商品の特性となり共感されているところもあると思います。「ユニーク」というシリーズの靴も日本で人気ですが、商品自体にストーリーがあります。「ユニーク」は、それまでは布という面でカバーしていた「アッパー」をコードで形成するという、これまでになかった靴の発明であるだけでなく、フィット感も抜群な唯一無二な商品です。これは「ニューポート」を発明した創業者Rory Fuerstの長男Rory Fuerst Jr.が手掛けたものですが、「常にオリジナルであれ、革新的であれ」というのが私たちの社是であり、創業当時から今なおKEENのDNAとして引き継がれています。
欠かせない重要なDNAである「KEEN EFFECT」
Q. KEENの社会貢献活動「KEEN EFFECT」ついて教えてください。
「KEEN EFFECT」は、「地球と人にやさしいツクリカタ」「地球を守ろう」「みんなで世界をポジティブに」という3つをキーに掲げ、「天井のないところすべて」を愛するブランドとして、世界をよりすばらしいカタチで未来に残していくための取り組みです。
Q. KEENの取り組みを知れば、多くの方が共感し、活動の輪が広がりそうですね。
はじめは数人だった日本の社員も、今では店舗スタッフも含めて100人を超えるような会社になりました。全社的に社員が「KEEN EFFECT」に取り組むのはもちろん、直営店やオンライン、登録会員を巻き込んでやっていきたいと思っています。
活動の始まりは、2004年のスマトラ島沖地震でした。震災が起きたとき、ちょうどその翌年のマーケティング予算1億円(当時のレート)の使途を議論しているところでした。PR会社との打ち合わせに向かう移動中に「このお金をこのままPRに使っていいのだろうか?」という話になり、スマトラ沖地震の災害支援に使うことがその場で決まったのです。それが2003年に設立したばかりの小さな会社としてはとても大きな出来事であり、DNAとなり今に至っています。
Q. 社会を良くしていきたいと心から思っているのですね。
社会貢献活動は、会社のDNAとなり文化となっています。もともと「KEEN EFFECT」 には、創業者から社員へと良い影響を与え、私たちが活動していくことでその影響を広げていきたいという想いが込められています。社員にとどまらず、代理店なども含めその輪がどんどん広がっていければと思っています。
活動は「Do the right things(正しいことをする)」の表れである
Q. ウクライナ難民への支援や自然環境、子ども支援などさまざまな活動をされていますね。
2022年2月にウクライナ侵攻がはじまったとき、3月には難民支援団体への活動資金とウクライナ難民の方々への靴の提供を合わせ150,000 ユーロ (約1895 万円)相当の寄付をいち早く表明しました。また、10月にはウクライナカラーのチャリティサンダルを生産・販売し、売り上げを100%寄付するなど、継続的に支援を続けています。
また、世界自然遺産に登録された西表島での文化・自然を継承するための活動「US4IRIOMOTE」も行っています。チャリティーグッズの売り上げをもとに基金を作り、「ツーリストに向けたエシカルな旅の啓蒙活動」「動物・自然保護団体の支援」「ドキュメンタリー映画の制作」と主に3つの活動を行っています。人口2500人ほどに対して、観光で西表島に訪れる年間29万人(2019年)を超えるツーリストが現地に与える影響は大きく、ツーリストに向けた啓蒙に力を入れています。
ドキュメンタリー映画「生生流転」は2021年にKEEN公式YouTubeチャンネルで無料公開し、10万回再生されポジティブな反応をいただいています。
そのほかには、設立初期よりホームレス状態にある方の社会的自立を応援する「The Big Issue(ビッグイシュー)」の販売者さんに靴を提供したり、災害支援のボランティアネットワーク「OPEN JAPAN」と連携し、災害支援を各地で行なっています。
また、児童養護施設に暮らす子どもたちの生きる力をサポートする「みらいの森」の支援もしています。大自然にアクセスできるチャンスは、すべての子どもたちに与えられるべきだと私たちは考えています。一方で、児童養護施設に暮らす子どもたちはアウトドアを楽しむ機会が少なく、この団体のサポートを続けています。先日、私も子どもたちと一緒に雪の中のアウトドア・アクティビティを体験してきました。
世界で広げるパートナーの輪
Q. 取り組みは、NPOなどの団体と一緒にされることが多いのでしょうか。
KEENはそこまで大きな会社ではありません。ですので、自分たちだけで活動を続けるよりも、さまざまな団体とパートナーを結び、私たちも参加者の1人となってシナジーを起こし、社会への影響を広げていくことを重視しています。そのため、団体に寄付するだけでなく、自ら活動に参加しています。
Q. パートナー団体とはどうやって共創がスタートするのでしょうか?
パートナーの1つである「Leave No Trace(LNT)」は環境のダメージを最小限にアウトドアを楽しむ方法を提唱する団体ですが、もともとはKEENアメリカ本社が長年サポートしていました。日本でもその考え方を広めるべきだと考え、日本でLNTを広める活動をされている方を探し出し、2015年より一緒に活動をスタートしました。 また、2021年にはLNT Japanの設立のお手伝いをさせていただきました。
知名度のあるNPOを支援するほうが簡単だと思いますが、私たちは小さくても本当に大事だと共感した団体に対して、バックアップするから一緒にしよう、とスタートすることが多いです。私たちの理念である「Do the right things(正しいことをする)」が活きているのかもしれません。
また、私たちは「Make a Movemet」、つまり、世界の考え方や行動を変化させていきたい、という想いを持っていますので、一緒に進める団体を探し、共に活動しているとも言えます。
理念は商品に閉じ込められている
Q. 製品づくりについても「Do the right things」の理念は反映されているのでしょうか。
KEENは2003年の創設当初から、自然環境への負荷をできる限り抑えるモノづくり「Consciously Created(地球と人にやさしいツクリカタ)」という理念を実践し続けてきました。代表的なものでは、PFASという、撥水加工に多用される有害な化学物質を使用しない製品づくりがあげられます。PFASフリーにできるまで時間はかかりましたが、他メーカーもフリーにしていくべきとの考えから、PFASフリーを実現するためのすべての情報を公開しています。
また、シューズの消臭に使われる殺生物剤はバクテリアを排除しますが、同時にハチなどの生物も殺してしまいます。KEENでは、防臭加工プロセスから殺生物剤を100%排除し、代替えとして天然微生物で防臭するプロバイオティクス技術を全てのインソールに採用しました。これによって、環境中に排出される有毒物質を毎年7トン削減しています。そのほかにも、環境に配慮したLWG認証レザーやリサイクルP.E.Tを製品づくりに積極的に取り入れています。
気候危機に対応する動きも意識しており、近い将来、店舗や音楽フェスなどで再生エネルギーの使用を実現できればと模索しています。
Q. 取り組む社会課題はどのように決めているのですか?
環境やダイバーシティ、社会支援、震災など多岐にわたりますが、アウトドアと紐づくところには親和性があると感じています。
小さいときこそ自然教育が大事だという科学的根拠もあるなか、特別な国や環境で育った子どもたち、例えば貧困層やハンディキャップがある方々は、なかなか屋外にでる機会が少ないという現状があり、彼らがアウトドアへ一歩踏み出せるようなサポートしたいと考え、子ども支援を行っています。
災害支援などはまさに天井のないところですし、現場では釘が出ていたりチェーンソーを使ったりすることもあり、丈夫な靴・安全な靴が役立ちますので、KEENとしてやる意義が高い活動だと感じています。
「自分が正しいと思ったこと」を日々やっていくことが大切
Q. 海外と比べて、日本の消費者の社会課題に対する意識はいかがですか?
日本はアジアのなかでは圧倒的に成熟している国であるのにもかかわらず、環境など社会課題への意識が消費者にはまだまだ浸透していないと感じています。日本は自然環境にも恵まれていますので、日本がアジアのリーダーとなってそれを海外に輸出していけるような形になるといいですよね。
西表島ではまさにその意識の向上が課題となっているからこそ、訪れる方々への意識の変化を促すような活動に重点を置いています。
Q. 最後に将来の脱炭素社会に向けてメッセージをお願いします。
環境負荷を抑える原材料の調達は意識していますが、脱炭素に向けて取り組むというよりは、ほかの課題も含めてより複合的な対応を考えています。
そして、社会課題が山積する今こそ必要なのは「Do the right things」だと考えます。
地球が壊れはじめているのは、この地球に住んでいる私たちの行動の積み重ねの結果です。だからこそ、地味ではありますが、まず自分からできることをすることが必要なのです。
自分たちの行動を変えることが変化のための着実な一歩であることに気づき・行動できる人がどれだけいて、いかに次世代に教育していくことができるかが、未来をつなぐうえで大事だと感じます。西表島に行き実際にプラスチックが流れ着く現場をみて、本当にそう考えるようになりました。
改めて、自分が正しいと思ったことを日々やっていこう、「Do the right things」、これが皆さんへのメッセージです。