「私たちは街を、車で移動する人のためにつくっている。」
これは、Ohboy Hotelのアイデア立案から設計施工、運営までを行った建築事務所 hauschild + siegelのEllen Mendel-Hartvig氏の言葉だ。
2017年夏、スウェーデンの首都ストックホルムからほど近いマルム市の街に、駐車場がない一風変わったユニークなホテルが誕生した。「Ohboy Hotel」と名付けられたこのホテル、駐車場のかわりに自転車の貸出サービスを提供し、自転車タイヤの空気入れや自転車の洗い場なども設置している、サイクリストのためのアパートホテルなのだ。
hauschild + siegelのEllen Mendel-Hartvig氏はこう続ける。「私たちは街を車で移動する人のためにつくっているため、建物をつくるときには駐車場も必要になる。駐車場は場所を取り、コストも高い。だから私たちは、歩いたり、公共交通や自転車を使う人のための建物をつくろうと思った。」
現在世界では電気自動車などを筆頭に環境に優しい未来のモビリティが模索されているが、環境面への配慮を考えるなら、最も理想的な移動手段は自転車か徒歩である。この地球に優しい移動手段を選択する人のために作られたのが、Ohboy Hotelだ。
Ohboy Hotelは、55のアパートと部屋数31のホテルが同居する建物だ。排ガス削減のために資源を共有し、上質で快適な、環境に優しい都市生活を送ることを目的としている。
宿泊者とアパート住民がサステナブルな暮らしを送れるように、Ohboy Hotelはいくつかのサービスを提供している。自転車貸出や自転車の修理工具貸出、自転車タイヤの空気入れや自転車の洗い場の設置、共有居間スペースなどだ。駐車場がない代わりに、サイクリストに優しいことが一番の特徴だ。自転車は全ての部屋の壁に掛けられるようになっており、部屋の外にも駐輪できる。これらの設備こそがさらなる駐車場建設に代わる都市におけるモビリティへの解決策で、車のない生活への答えだとOhboy Hotelは考える。
Ohboy Hotelはアイデア立案から設計施工、そして運営までを一貫してマルメ市にある建築事務所が行った。内装も地元のデザイナーと職人で行い、建設材もスウェーデン南部でとれたものを使用するなど近くの人材と資材を使うことにこだわった。これにより運搬にかかる環境負荷を削減し、地域の活性化を促することに成功した。そして何より、その街に住む人がその街の良さや特徴を一番理解し、街の将来的発展を望んでいるのだ。
Ohboy Hotelは環境に優しい移動手段を好む人々を受け入れるだけではなく、建物自体の環境性能にも力を入れている。各部屋のバルコニーに大きな鉢植を置き、屋上や入口、そして中庭にも多様な植栽を行っているほか、建物の暖房は地面からの地下熱で行い、屋上に設置したソーラーセルで発電し、部屋に電気を送っている。
Ohboy Hotelのあるマルメ市は、車よりも自転車を使う人の方が多く、ホテルは中央駅や街の中心、そしてビーチにも近く、アクセスがいい。自転車ホテルにとって理想的な場所だ。家族連れ、サイクリスト、ビジネスマン、建設作業員などここには様々な人が泊まるという。
私たちは、公共交通機関の利便性や、買い物や勤務場所などへのアクセスの良さなどから交通手段を選ぶ。上質で環境に優しい都市生活における自転車ホテルというアイデアから生まれたOhboy Hotelは、公共交通機関の利便性の高い大都市が数多くある日本で、これから大いに参考になりそうだ。
【参照サイト】Ohboy Hotel
(※画像:Ohboy Hotelより引用)