芸術的な料理で「自然との共存」を伝える―成澤シェフの核心とは【国際ガストロノミー学会表彰式レポート】

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2018年、サステナブルガストロノミーの先駆者・成澤由浩シェフが、国際ガストロノミー学会の選定する「Grand Prix de l’Art de la Cuisine(最も食の芸術性を極めたとされる賞)」を受賞した。2018年12月17日に青山のレストランNARISAWAで行われた表彰式のようすをお届けする。

ガストロノミーという言葉は「美食学」と訳され、「料理する/美味しさを追求する」ことだと思われがちだが、そうではない。古代ギリシャ語の「ガストロス(消化器)」に「ノモス(学問)」を足してできた言葉であることからもわかるように、ガストロノミーは、芸術、歴史、科学、社会学などさまざまな領域と、料理との関係性を総合的に考察する学問のことを指す。近年は、食と環境問題とのかかわりもテーマの一つとなっているようだ。今回の成澤氏の受賞は、ガストロノミー領域において今後ますます「サステナブル」が重要なキーワードになることを示しているといえるだろう。

料理で「自然との共存」を伝える―シェフ・成澤由浩

成澤由浩氏は、ベスト・レストラン・アジアで1位、ワールドで20位に入賞するなど輝かしい功績を持つ青山の一流レストラン「NARISAWA」のオーナーである。いち早く「食×サステナブル」を形にしてきた彼の料理は、“イノベーティヴ里山キュイジーヌ”(革新的 里山料理)と言われており、里山の風景・豊かな食材、そして里山とともに生きた先人たちの知恵を美しく表現している。

成澤氏の生み出した美しい料理の数々

成澤氏の生み出してきた美しい料理

モダンな外観、重厚感のある大きな扉、ホワイトとダークブラウンで統一されたシックな店内。さすが、一流レストランというような落ち着いた店内で、表彰式は行われた。

店の雰囲気から、いかにも格式高いレストランの、かしこまった感じのオーナーシェフを想像していたが、会場に現れた成澤氏は、気さくな笑顔で明るい印象。ユーモアのある話しぶりで会場の緊張した雰囲気まで和ませてしまうような人物だった。

さらに驚いたのは、真っ白なコックコートの下が「ジーンズにスニーカー」という格好だったことだ。

表彰式での成澤氏

画像は日本ガストロノミー学会より提供

自分の足を動かす。五感でフルに感じる。

なぜ成澤氏の足元はラフなのか。その理由は、彼の話をきくうちになんとなくわかってきた。

成澤氏は「シェフの仕事は安全でおいしい食材を探し求めること」と考え、以前から様々な地方の畑、海、山に足を運び「生きている状態の食材」を見るようにしていたのだという。生きている、というのはまだ何人の手も加えられていない、そのままの状態のこと。土から抜かれ、洗われ、根っこを切られた状態では、生きているとはいえない、と彼は語る。

農家の方と話し、実際に「生きている食材」を見るうちに、彼は食材たちが育つ「土」の重要さに気づいた。土に農薬をまけば、食材にも必ず影響が出る。土の安全こそが食材の安全につながる、本当にいい食材を育てる土は食べることができるくらい安全なはずだ―そうした考えから生まれたのが、今や成澤氏の代名詞ともいえる「土のスープ」なのだ。

その後も彼は、自然にインスピレーションを得ながら「水のサラダ」「森のエッセンス」など数々の独創的な料理をつくり続け、見るものをあっと言わせてきた。

「4,50年の人生で大自然を理解できるわけがないんです。いつも、ただただ圧倒されています。何度足を運んでも、風や波の音、におい、肌に触れる感覚、色……つねにすべてに感動しているんです。」

彼のこの鋭い豊かな感性こそが、あれほど美しい、人の「内側から」自然を想う気持ちを呼び起こす料理を生み出しているのだろう。

森の風景

image via o-dan

彼は、若手の料理人に願うことは、という質問にも「キッチンから出ること」と言い切った。今どき、どんなに難しい料理技術の情報でも検索すれば簡単に手に入ってしまう。「キッチンでやることは全体の1%しかなくて、残りの99%はキッチンでは学べない。だからこそ、とにかく自分の足で自然に入っていって学んでほしい」と彼は言う。

食材や環境に私たちが合わせる―「同じ」を求めない考え方

「市場ではなく、産地へ出向く」ことにこだわり続けてきた成澤氏は、続いて「食材や環境にわたしたちが合わせていくこと」の大切さについても語った。

「日本のアワビと海外のアワビに同じものを求めるのは違う」と彼は言う。

例えば、日本の寿司を海外で本格的につくろうとしたとき。海外の漁場でとれた魚介で日本の味を再現するのは難しいため、「日本産を輸入しよう」という結論になりがちなのだという。

だが、世界中どこでも同じ味を求めるのがまず間違いなのではないか、というのが成澤氏の考えだ。

「その地でとれたものをその地の味として楽しむのが大事なこと。同じ評価基準ではないところから食材をみることの必要性を、作り手も、食べ手も理解しないといけない」

国際的フードチェーンが増えた現代。求めるときにいつでもどこでも「あの味」が食べられてしまうという現状がどういうことなのか、今一度考えをめぐらせる必要があるのではないだろうか。

今日から、わたしたちにもできること

「自分が食べようとしているものが何者かを気にすることから始めてほしい」。
「一度、食品の袋を裏返してラベルをチェックしてみてほしい。一見シンプルに見える食パンやクッキーにこんなものが入っていたのかと、きっと驚くと思います」

と、成澤氏。

多くの人は、店に出向けば、簡単に食べ物を手に入れることができる。だが、それらがどこからどういう経緯でここまで来たのか、わかっている人は少ないだろう。

よくよく考えてみれば、食べ物を手に入れるというのは本来とても危険なことだ。自然の植物のなかには毒のあるものも、正体の分からないものもあるし、道は整備などされていないので、足元を気にしながら進まなければならない。現代に生きる私たちは、食べ物を得るために必要だったはずの「警戒心」というものを忘れてしまっているということだ。

彼のように険しい山に入って安全な食材を見分けるのは難しいかもしれないが、食品のラベルをチェックすることくらいなら、今日からだってできる。買い物かごに入れる前、皿にのせる前に、5秒だけ立ち止まってラベルを確認してみてはどうだろう。

笑顔の成澤氏

画像は日本ガストロノミー学会より提供

会見の終盤にふとこぼした「食材の足をひっぱらないように」という言い回しに、彼の偽りのないまっすぐな自然への想いを感じた。

今後の成澤氏の活躍も、非常に楽しみである。

【参照サイト】NARISAWA
【参照サイト】日本ガストロノミー学会
(※画像提供:日本ガストロノミー学会)

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