【タイ特集#6】木を使用しないオーガニックでエコな紙。驚きの原料に隠された3つのメッセージとは?

Browse By

自然界から生まれるものに無駄はない。動物の排泄物だって、立派な資源である。その一例として、以前IDEAS FOR GOODでは、牛のフンから作るTシャツをご紹介した。

タイのチェンマイには、象のフンを原料とした紙作りを体験できる施設がある。それが、「Elephant Poopoopaper Park」(エレファントプープーペーパーパーク)だ。創業者は、カナダ出身のマイケルとチェンマイ出身のツン夫妻である。今回マイケルに、象のフンから作る紙を通して伝えたいメッセージや、自然環境の保護とビジネスを両立する際に大切にしていることなどについて話を聞いてきた。

Elephant Poopoopaper Park

理想のライフスタイル、自然保護、ビジネス。すべてを実現するための紙作り

エレファントプープーペーパーパークで販売されている紙には、一切木が使用されていない。環境に悪影響を及ぼすといわれる化学薬品を使った漂白もせず、象のフンとサトウキビやバナナなど植物の繊維、商品にはできない紙の端切れ、そして食べられる着色料を混ぜ、ほとんどの工程で機械を使わず手作業で紙作りをおこなっている。

さまざまなものに加工できる紙

マイケルはどうしてタイに来て、象のフンを使った紙を作るアイデアを思い付いたのだろうか。

1980年代にカナダのバンクーバーで働いていたマイケルは、当時経済が急速に発展していたアジアでビジネスをしたいと思っていた。アジア全土を回ったのち、経済発展しつつもリラックスした雰囲気が残るタイを気に入り、チェンマイ出身の女性と結婚。そのとき、人生でなにがしたいのかを二人で話し合ったという。

「『誰かの下オフィスで働きたくない』、『カナダにいる家族に会いに行きたい』、『旅行もしたい』などといろいろな条件が出てきました。」

Elephant Poopoopaper Park 共同創業者・マイケル

Elephant Poopoopaper Park 共同創業者・ツン Image via Elephant Poopoopaper Park

もともとカナダで輸出業の経験があったため、地元の市場でチェンマイの特産品を仕入れ輸出することは難しくはなかった。しかし、現在では誰もが世界各地に赴き、商品の品定めをし好きな物を買うことができる時代である。そこで、誰かの作った商品の輸出だけではなく、自分たちでなにかを作ろうと考え、未経験の製造業に挑戦することにした。

本当に好きなものひとつに絞ろうと、妻になにが好きか聞いたところ、「紙」という回答だったという。「ほかの人と違うことをやりたかった」ことと、「タイには多くの象が生息しているという地域の特異性を利用する 」ことが組み合わさった結果、象のフンで作る紙のアイデアが生まれたのだ。

緑で囲まれたパーク

最初は製紙業をメインとし、北米にある国立公園や動物園、水族館など環境に関連する施設やお店などを中心に商品を輸出し販売していた。しかし、観光地であるチェンマイの立地を生かし、象のフンから作る紙のおもしろい製紙過程を観光客や地元の人に説明できる場所を持ちたいという想いから、2012年に体験型施設であるエレファントプープーペーパーパークをオープンさせた。

今日では、世界中からの観光客だけではなく、学校の校外学習や家族旅行として地元の人が遊びに来たり、大使館や国際会議、グローバル企業の視察場所として著名人が訪れたりしている。

一貫したメッセージをクレイジーなアイデアで届ける

カナダの大自然のなかで育ったマイケルは、小さい頃から自然もビジネスも大好きだった。ビジネスで利益を出しながら、地球や地域に良い影響を与えたいという想いから、サステナビリティをミッションにしたソーシャルビジネス(社会的企業)をはじめることにした。

この、動物の排泄物を利用するというクレイジーに見えるかもしれないアイデアのなかには、まじめなメッセージが3つ含まれている。それは、「サステナビリティ」、「クリエイティビティ」、そして「インスピレーション」だ。

自分のクリエイティビティを引き出してくれる場所

「象のフンで作る紙は、自分たちのメッセージを伝えるのに本当に良いアイデアだと思ったんだ。ポジティブなメッセージが驚くような変わったアイデアと一緒になって届くと、人の記憶に残る。そして人は教訓を得たり、メッセージを吸収しやすくなるんだ。」

そして、こう続けた。

「象のフンからこんなにも美しい製品が生まれ人を喜ばせることができるのなら、私たちはなんだってできるって思ってもらえるでしょ。私たちの商品を手に取った人に、ほんの小さな前向きな変化でも良いから、人生で実現するのが難しい、無理だと思っていることに挑戦する気持ちになってもらいたい。」

色とりどりの紙

とはいえ、利益、環境、社会、すべてのバランスを取るのは簡単ではないはずだ。マイケルがソーシャルビジネスを運営するうえで大切にしていることはなんだろうか。

「環境に関する問題は、ビジネスがソリューションの一部になればより解決しやすくなる。同時に、自分たちのメッセージがきちんと伝わるように、ビジネスのすべての要素が3つのメッセージと一貫するようにしている。」

サステナビリティについて説明するマイケル

たとえば、商品を販売する際に使われているプラスチックのパッケージ。創業当初、パッケージレスで販売しようとしたが、お客さんが触るため、汚れたり曲がったりして商品として売ることができなかったという。それでも少しずつ改善しようと、生物分解できる適切な代替品を探しながら、パッケージなしの製品を店頭でテスト販売している最中だ。また併設のカフェでは、プラスチックではなく廃棄された植物繊維から作られたストローを提供している。

「日々なにかを選択する状況に直面するたびに、利益ではなく自分たちの原理に基づいて決断しているんだ。」

財布や扇子、ブックマークなどさまざまな商品になる紙

一方、すかさず次のように付け加えた。

「もうひとつ言いたいことは、自分たちはより良いビジネスをしていると思うけど、完璧ではないってこと。問題解決の一部にはなっているが、常になにか改善したいと思っている。たとえば、商品を輸送するには燃料を使うでしょ。生きていくのに輸送をやめることはできないけど、より良いものに替えることはできるはず。現代の便利な生活と自然環境とのバランスを考えないとね。」

意外にシンプル?100%オーガニックな紙の作り方

ここでは象のフンを用いる製紙工程を簡単にご説明しよう。

象の主食は草や野菜、果物など植物であるため、フンはほとんど匂わない。フンをきれいに洗ったあと、バクテリアを殺し柔らかくするため水で茹でる。1、2日間太陽のもとで乾燥させたフンは、ほぼ植物の繊維からなり、まるでわらのようだ。馬や牛などのフンからも繊維は取れるが、消化工程の違いから繊維の大きさが異なる。

象のフンを茹でて柔らかくする

わらのような、乾燥した象のフン

紙の原料の約80%を占める象のフンに、紙の耐久性を高める役割をするバナナやサトウキビ、ココナッツなどほかの繊維や、穴があいていたり薄かったりするため商品として販売できない紙の端切れ、植物由来の着色料を混ぜ合わせる。次に、紙の原料を竹と糸でできた漉き簀(すきす)という道具のうえに広げる。そして太陽光で数時間乾燥させると、100%オーガニックな紙が出来上がる。

すべてを混ぜ合わせる。紙の原料を絞ると、透明な水が出てくる。

紙の原料を均等に広げる作業は難しい

カラフルな紙の出来上がり!

編集後記

多くの物や情報が溢れているなか、伝えたいメッセージを人の記憶に残る方法で届けることは簡単ではない。だからこそ、多くの企業がマーケティングや広報に苦戦している。

そんななかマイケルたちは、人の好奇心をくすぐるアイデアと一貫したメッセージで、多くの人を惹きつける。そして、小さなことでも常に改善を忘れない姿勢から、メッセージがより明確に伝わってくる。

実際にオフホワイト色のノートを手に取ると、触り心地はスムーズで匂いもしない。繊維や着色料の配分量の違いから、柄や色合いは紙ごとに少しづつ異なる。それが逆に、ひとつとして同じものはない自然界に対する愛おしさや尊厳さまで伝えてくれている。

気になるあの人への想いから、今年達成させたい目標、象のフンを超えるほどの驚きと感動を与えてくれる将来のビジネスモデルの種まで、ノートになにを書くかはあなた次第。エレファントプープーペーパーパークは、エコなだけではなく、クリエイティブになるヒントがたくさん詰まった場所である。

【参照サイト】Elephant Poopoopaper Park

東南アジア漂流記に関連する記事の一覧

FacebookTwitter