あなたが会社員であれば、毎日同じランチに飽きていないだろうか。会社の研修やパーティーの担当者であれば、「どんな食事を用意しようか」と頭を悩ませていないだろうか。
毎日の生活のなかで食事は大きな割合を占めるからこそ、食にまつわる悩みは尽きない。そんな悩みを解決しながら、社会にも貢献できるサービスがマレーシアで生まれた。それが「PichaEats」(前The Picha Project)だ。
PichaEatsは、マレーシアに逃れてきた難民の人をシェフとして迎え、出身地の料理を企業や個人にケータリングするサービスを提供しているスタートアップである。
今回、マレーシアの首都クアラルンプールにあるPichaEatsのオフィスを訪ね、話を聞いてきた。
難民シェフのフリーランス的な新しい働き方
PichaEatsのビジネスモデルはシンプルだ。
まず、難民の人に自宅でケータリング料理を作ってもらう。できあがった料理は、配送業者によって各家庭から直接顧客に届けられる。難民条約に加盟していないマレーシアでは、難民の人を直接“雇用”することはできないため、“パートナーシップ”という形態で共に働いている。
ケータリングビジネスの売り上げの半分がシェフに、もう半分がPichaEatsの運営費へと回る。寄付に頼ることもなく、サステナブルなビジネスモデルからすべての収入を得ている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2019年1月末時点でマレーシア国内には16万人以上の難民または亡命希望者がいる。その8割以上がミャンマーから逃れてきた人たちだ。そのほかは、パキスタンやイエメン、シリア、ソマリア、スリランカ、アフガニスタン、イラク、パレスチナなど中東や南アジア出身者である。
PichaEatsでは現在、シリアやパレスチナ、イラクなどから来た15世帯にそれぞれの国の料理を作ってもらい、銀行や保険会社、法律事務所など大小さまざまな企業のレセプションやパーティー、研修などのイベントで食事を提供している。10個以上の注文からお弁当の配達も可能だ。
顧客に喜んでもらうため、食事の味や衛生管理にはこだわっている。そのため、PichaEatsでは、食品衛生管理の基準を満たすシェフと共にメニューを考え、作ってもらっている。
顧客の反応は好意的なものが多く、応援してくれる人が多いという。なかにはシェフの出身地である中東の料理など、普段食べ慣れていない食事に驚く人もいるが、それがPichaEatsのユニークさでもある。
あなたとシェフ、どちらの食卓も彩る
PichaEatsが2016年に始まったきっかけは、創業者であるKim、Swee、Suzanneの3人が大学のプログラムの一環として難民ラーニングセンターでボランティアをしたことだった。団体名になっているPichaというミャンマー出身の男の子が、出稼ぎのためにセンターを退学しなければならない状況を目の当たりにし、「何かしなければ」と、いても立ってもいられなくなったという。
そこで、彼の家族が作ったミャンマー料理を大学の友人に売り始め、次第に現在のようなケータリングビジネスに成長した。
このプロジェクトをとおして一番達成したいことは、「おいしく質の高い食事を顧客に届けながら、難民の家族に十分な収入を得てもらうことです」と、創業者の一人であるKimは語った。さらに、マレーシア社会におけるインクルーシブネスや難民の人たちの尊厳保護を促進することも目指している。
スタートアップやソーシャルビジネスに関する国際的な賞をいくつも受賞しているPichaEats。今後の目標は、現在マレーシア国内に16万人以上いる難民の人を一人でも多く支援できるように、ビジネス規模を拡大することだ。そのため、現在外注しているケータリングの配送業務をPichaEatsが一括しておこなえるようにしたり、ケーキやビスケットなどの手軽に買える商品をデパートなどに卸したりすることが次の取り組みである。
編集後記
企業レセプションやパーティーなど、多くの人が集まる場所で利用するのに便利なケータリングサービス。多くのケータリング会社があるなか、PichaEatsは「手軽に社会貢献したい」「普段食べられない食事を試してみたい」「人とはちょっと違うことを選びたい」という人たちに特におすすめである。
家の中心にあることが多い食卓。それは、食卓が毎日の活力を提供してくれる場所だからだ。PichaEatsのビジネスが拡大することで、より多くの難民シェフの食卓が彩られることを期待したい。
【参照サイト】PichaEats
【参照サイト】UNHCR Malaysia
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