インドネシアの国民性を強みに。WeCare.idが挑むラストワンマイルのヘルスケア

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世界一の島嶼大国、インドネシア。インドネシアが抱える島の数は大小合わせて1万3000を超え、地域の島ごとに固有の文化や言語を持つ。そんなインドネシアが抱える課題はラストワンマイル(エンドユーザーまで届けること)のヘルスケアだ。

インドネシアでは「社会保障実施機関法」(BPJS法)が2014年より適用され、将来的には全国民と6か月以上働く外国人の加入が目指されている大規模な国民皆保険制度が敷かれている。BPJS法は医療費が原則無料になる医療給付や労働災害保障だけでなく、年金、葬儀費用及び死亡給付金を支払う死亡保障、労働者が勤続中に積み立てた資金を支払う老齢給付といった機能を有している。

2019年9月現在で加入者数が2億2100万人を超えたが、事業主と従業員の保険料によって賄われるBPJSにはまだ課題も多い。

自営業者は任意加入のため、非正規雇用者や自営業者には保険料の支払いが足かせになってしまう。また、島嶼大国であるインドネシアにはすぐに良質な医療が受けられるとは限らない状況がある。そして、増加した患者を受け入れる病院が抱える負担も問題だ。

誰もが平等に受ける権利のある医療を、住む地域や職業を問わず全ての人に提供するために挑んでいる企業が「WeCare.id(ウィーケア・アイディー)」だ。WeCare.idは、保険未加入の患者や、医療施設から遠隔地に住む貧しい患者にクラウドファンディングで医療を提供するプラットフォームを運営している。

今回は、インドネシアならではの形で取り組むラストワンマイルの医療アクセスについてWeCare.idのCEO兼CTOであるGigih Rezki Septianto(以下、ギギ氏)にお話を伺った。

BPJS法が新しく生み出した課題

もともとはエンジニアとしてのバックグラウンドがあったギギ氏。ミャンマーやフィリピンでのボランティア経験から自分の専門性を社会に役立てたいという思いがあり、医療系のバックグラウンドのある共同創業者とともに起業に踏み切った。

「アメリカのとある社会起業家に影響を受けて、人を助けるためには、身体的、精神的に良い生き方を提供することだということを学びました。」

インドネシアの医療保険BPJSは支払う金額が高いという問題もあるが、患者の住んでいる場所や経済状況を包括的に考慮しているとは言えないという。世界一の島嶼国であるにも関わらず、都市部から遠方に住む人が医療を受けに来る交通費は保険でカバーされておらず、さらに国民IDを持たない難民や保険料を払う余裕のない自営業の家族は保険を利用できない。

WeCare.id CEO ギギ氏

WeCare.id CEO ギギ氏

新しくできた医療保険が生み出したこのような課題に対し、ギギ氏はインドネシアの国民性を用いたソリューションをもって挑んでいる。

いい生き方をするためには誰かのために尽力すること

インドネシアは人のために行動する世界一の国だと評価されている。イギリス・ロンドンに拠点を置くCAF(チャリティ・エイド・ファウンデーション)が発表した2018 World Giving Index(世界寄付指数)によると、歴代一位だったミャンマーを抑え、インドネシアがボランティアや寄付をする人の割合で世界一位となった。

その理由の一つとして、世界で最も多くのムスリムが住むインドネシアの募金文化が挙げられる。収入の一部を貧困者や被災者、債務者などに寄付する「ザカート(喜捨・救貧税)」がイスラム教の義務である五行の中にあるのだ。

「最初の寄付のモチベーションは宗教のためかもしれませんが、いい生き方をするには誰かのために尽力することが大切だと理解するようになり、自然と寄付大国になっているのかもしれません。」

イスラム教

Image via ShutterStock

裕福な国とは言えないインドネシアで、イスラム教という宗教が拡大した寄付の文化。資産に対する執着を捨て、貧しい人への慈悲の心を持つことで利益が社会に分配されるシステムがイスラム教の生まれた当初からある。

東日本大震災の寄付でも200万ドル(1億6千万円)を義援金として送られていたという。インドネシアの物価からしてもかなり莫大な金額だ。

首都の移転によりスキルの分散にも期待

しかし、医療のアクセスに困っている人を支援するために使うインターネットについて、貧困地域や都市部から遠い地域にいる人々にとってアクセスが難しいのではないだろうかと聞くと、

「WeCare.idでメディカルパートナーになってもらう人は、都市部にいる人や、もともと医学の勉強や仕事で都市部にいた人たちで、彼らが各地の患者さんとコミュニケーションを取る事で、患者さんは彼ら経由でインターネットにアクセスすることもできます。また、首都がカリマンタン島に移ることで、人口やスキルの分散にもつながることを期待しています。」という。

インドネシア政府は交通渋滞や環境汚染への懸念から、2024年に首都をカリマンタン島に移転することを今年8月末に発表した。高度なスキルを持つ人が分散すれば、島嶼部のインターネットアクセスのしにくさも改善されるはずだ。

WeCare.id ホームページ

WeCare.id ホームページ

実際にホームページを見ていると寄付を求める子どもの患者が多い。これは子どもが多い国際病院とパートナーシップを組んでいるためとギギ氏は話すが、難しい点も多いという。

「ストーリー的に感動させる患者は子どもが多く、寄付が集まる傾向にあります。また、女性は自分の状況をさらけ出しにくいというのもあり、偏りがある側面があります。」

どこにいてもヘルスケアの情報にアクセスできる未来

WeCare.idの次の目標は、クラウドファンディングに留まらないヘルスケアに特化した国民の意識のボトムアップだ。まずは患者がジャカルタにいなくても相談できるプラットフォーム作りをするという。医師のもとへ出向かなくてもコミュニケーションが取れるようになれば、保険の適用の有無や居住地に関係なくヘルスケア情報にアクセスできるだけでなく、病院側も重症な患者に集中できるため負担も減る。

さらにドナーのメンバーシップをサブスクリプションとして、長期的に寄付ができるシステムも整えるという。長期的な治療が必要な患者も多く、ドナーにもメリットがある形でサービスを開発中だ。

WeCare.id CEOギギ氏

WeCare.id CEOギギ氏

編集後記

日本では保険制度に長い歴史があるものの、都市部への流入や地方の少子高齢化が加速するなか医療のラストワンマイルという観点では同じ課題を抱えている。しかし、WeCare.idは国の制度を補う形で、インドネシアの国民性や地理的な特徴を用いたビジネスモデルを展開している姿勢がとても勉強になった。日本の民間企業ではどうだろうか。

日本の寄付指数は144か国中128位という残念な結果だったが、他の日本の国民性が持つ強みを生かして日本にある課題を解決していけばいいのだ。日本の国民性が持つ強みとは、日本人だけで考えても見つからないかもしれない。当たり前に自分たちがしている得意な分野を俯瞰することが、複雑な課題を無意識のうちに解決できるヒントではないだろうか。

【参照サイト】インドネシアの社会保障制度の変遷と動向
【参照サイト】新興国等におけるヘルスケア市場環境の詳細調査 報告書
【参照サイト】Word Giving Index 2018