「地球沸騰」の時代、来る。ヨーロッパ流、猛暑から逃げるヒント【欧州通信#18】

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今までヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は、「オーバーツーリズム」をテーマに、コロナ明けを迎え観光客が押し寄せるヨーロッパでの、観光に対する制限の動きについて紹介した。今回のテーマは「暑さ対策」。欧州で進む暑さ対策を紹介した前回の記事から一年が経ち、今年も各地で暑さをしのぐための工夫が見られる。

【スペイン】市民が徒歩でアクセスできる“気候シェルター”

スペイン・バルセロナでは、「気候シェルター(Refugio Climático/Climate Shelter)」を設置している。空調が27℃以下に設定された図書館、美術館、市民センターをはじめとした公共施設を市民に開放。水飲み場やベンチなどがあり、暑さをしのぐためのスペースが確保されている。

シェルターはバルセロナ市内に227か所あり、平日の場合、市民の97%が自宅から徒歩10分以内にアクセスできるとされている。週末は閉館している施設も一部あるが、それでも4人のうち3人は、徒歩10分以内でアクセスが可能だ。実際、筆者の自宅から最も近い場所へは、徒歩7分で到着した。

スペインといえば、「シエスタ(昼寝)」を思い浮かべる人も多いかもしれない。もちろん、国民全員が昼寝をしているわけではないものの、14時から17時前後は出歩いている人が少ない印象を受ける。実際、この時間帯の日差しはかなり強く、出歩くのは過酷だ。酷暑の時間帯に涼しい場所にいられれば良いのだが、スペインではエアコンがない家庭も多く、屋内でも熱中症になる危険がある。その点、自宅近くに暑さをしのぐ場所があるのは安心だ。

一方でシェルターの認知度は20%にとどまっており、市民への周知が今後の課題となりそうだ。

Photo by Risa Wakana_気候シェルター入口に貼ってある目印。冬場は寒さをしのぐ場としても活用される

▶️参考記事:すべての市民に健康を。暑さから身を守る、バルセロナの「気候シェルター」

【フランス】市民が涼むために公園を夜間開放。野外映画館も

公園や樹木が身近なパリ市民にとって、心地よい木陰で涼を求めて過ごすのは夏の定番であるといえる。パリ市にある531の公園、庭園、広場のうち、4分の1にあたる140箇所が24時間営業で、夜間にも利用可能だ。そこに熱波が続く夏季期間中には、14の公園が追加で夜間開放される。

フランスの各地区の公園の営業時間はパリ市のサイトでわかりやすく公開されており、誰もがアクセス可能だ。パリ市は、公園の夜間オープンが市民と訪問者にとって適切な条件で行われるよう、特別な監視システムを設置している。

そのほかにも、パリの公園では夏の間、野外シネマなどのイベントも盛りだくさんだ。パリ19区にあるLa Villette公園は毎年夏になると、パリ最大の野外映画館となる。無料で入場可能で、25日間にわたり開催される大人気のイベントだ。映画を見ながら、芝生の上でピクニックを楽しむ市民の姿が毎年見受けられる。パリでは、暑い夏は家に籠るのではなく、自然のそばで涼しさに癒される人々が多い。

 

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【イギリス】熱波が来たらどこに避難すればいい?ロンドン市がマップを公開

昨年2022年7月、イギリス・ロンドンでは史上最高気温の40℃を記録した。多くの家は冷房がついていないため、市民は日中は学校・オフィスに移動したり、遮光カーテンを閉めて室内で過ごしたりと、異例の対応が行われた。

今年はまだそのような影響は出ていないが、来たる熱波に備えてロンドン市は「Cool Space」というマップを用意した。マップには給水所、冷房の効いた避難所(図書館・美術館など)、比較的温度が低い郊外の地域などが記されている。これは冷房のついていない家に住む人はもちろん、ホームレス状態の人々が命の危険にさらされないための対応でもある。「Cool Space」は6月から9月まで公開されている。

ただしこれは、気候変動に対する一時的な措置にすぎない。街中では「(最高気温である)40℃ははじまりにすぎない」という環境団体による警告も多く見かける。

マップのイメージ画像

Image via Mayor of London

編集後記

ヨーロッパは地球温暖化の影響を最も強く受けている大陸であり、ほかの大陸と比べて2倍の速さで気温が上昇しているという(※)。そんな変化を肌で感じるヨーロッパにおいて、公共の場を活用することは酷暑を乗り越えるのに有効な方法のひとつであるようだ。

背景にある気候変動を注視しつつ、過ごす時間や場所を工夫することで、エネルギーを大量に消費せずとも暑さを回避できるかもしれない。日本でも記録的猛暑が続くなかで、熱中症の危険性も高まっている。個人が最大限の警戒をすると同時に、地域全体で猛暑を乗り越えていく方法をシェアしていく必要がある。

Europe is heating up twice as fast as other continents

Written by Megumi, Erika Tomiyama, Risa Wakana
Presented by ハーチ欧州

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact

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