子どものサステナブル意識を育む、ヨーロッパのユニークな教育プログラム【欧州通信#32】

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近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は「ヨーロッパの選挙にまつわる工夫」をテーマに、思わず投票に行きたくなるような各国の取り組みを紹介した。今回の欧州通信では「教育」を切り口に、各国のサステナビリティに関する教育事情を取り上げる。

【フランス】若者の声が環境政策に影響を与える、環境教育プログラム

フランスでは、多くの学校が国際的な環境教育プログラムである「エコ・スクール」に参加し、リサイクル活動や植樹プロジェクト、地域社会との環境プロジェクトなどの実践型学習を推進している。

その中でも、議論を通じた学びを重視するフランスで高く評価されているのが、Young Reporters for the Environment(以下、YRE)だ。YREは、11歳から25歳の若者が、地域の持続可能な取り組みや環境保護の実践例について取材し、ジャーナリズムを通じて問題解決に貢献する。

学生たちは、動画、記事、ポッドキャストなどで取材成果を発表し、国内外のコンテストで評価される機会が与えられる。また、YREを通じた若者の声は、地域メディアや教育機関で取り上げられ、フランスの環境政策にも間接的に影響を与えている。

 Teragir

Image via Teragir

過去の取材例には、有機廃棄物の回収や都市コンポストの取り組みの取材に基づいた、地域での効果的な解決策の報告や、ホームレス状態の人々が直面する気候変動の影響に関する調査から生まれた、支援団体やコミュニティの活動の報告、また、地元産の食材を使ったパン作りを紹介した、地産地消のメリットや環境保護についての報告などがある。自由で活発な報道文化を持つフランスと、YREの親和性が高いこともうなずける。

【参照リンク】Près de 600 jeunes reporters pour l’environnement s’emparent du développement durable !

【イギリス】生徒・保護者・教員による『平等チーム』が学校をさらにインクルーシブな場所へ

イギリスの多くの中学校は、カリキュラムや課外活動、集会などを通じて、生徒が自分自身を見つめ、固定観念を見直す環境づくりに積極的だ。

さまざまな科目に多様性などに関するトピック(人種・宗教・LGBTQ+・障害・メンタルヘルスなど)を取り入れる一方で、保護特性のある著名人を紹介する展示ボードの設置、平等性や自己表現の重要性についてのゲストと生徒のディスカッション、多様性に関する書籍の配架など、学校生活全体を通じて生徒に幅広い視点を持たせる工夫がされている。さらに、生徒一人ひとりに対して適切な支援を行えるよう、教員やスタッフは、包括的な言語の使用や保護特性を持つ人々とのコミュニケーション方法に関する研修を受けている。

Image via Shutterstock

国内外のインクルージョン促進イベントも積極的に支援しており、例えば、反人種差別デー「Wear Red Day(※)」には教員と生徒が赤い服を着て登校したり、プライド月間には校内でファンドレイジング・イベントを開催し、集まった資金を慈善団体に寄与したりする。

さらに、イギリスのインクルージョン教育をよりユニークなものにしているのは、一部の学校が取り入れている「平等チーム(Equalities Team)」だろう。生徒や保護者、教員などで構成されるチームが、多様な視点を取り入れながら学校をより包括的な場所にするための取り組みを行う。平等チームに参加している生徒は「自分たちが学校に変化をもたらしている」「活動が貴重な経験になっている」と充実感を感じており、学校の発展のみならず個人の成長にも貢献する意義がある。

すべての生徒が平等性や多様性を完全に受け入れているわけではないが、多くの生徒や保護者が学校と一丸となり、個人の違いを尊重し、価値を認めることに積極的に取り組んでいるという印象を強く受ける。このように柔軟な思考を育む環境づくりこそが、インクルーシブな社会をつくっていくのではないだろうか。

Show Racism The Red Card: Wear Red Day 2022(Inclusive Employers)

【オランダ】4歳から徹底的に実践学習をおこなうオランダ。重要なテーマは「サーキュラーエコノミー」

オランダは水害リスクが高く、環境問題への対応が国の最優先事項だ。Rijkswaterstaat(国土交通省)DuurzaamDoorなどの政府機関が教育に関わり、幼少期からの環境意識向上を推進している。

2005年から「エコ・スクール」プログラムが導入され、学校ではエコ委員会を通じてリサイクルやエネルギー削減が進められてきた。さらに、全国300以上のNatuur en Milieu Educatie(自然環境教育 以下、NMEセンター)では、「サーキュラーエコノミー」「エネルギー」「生物多様性」の3本柱を掲げ、4歳からの体験型学習を通じて幼少期からの一貫した教育が行われている。

中等教育(12〜18歳)では、「Jongeren Adviesbureau(青少年アドバイス局)」プロジェクトが有名だ。生徒たちは地域の企業や政府機関に対し、サステナビリティの取り組みについて提言を行う。これにより、理論的学習と実社会での実践が結びつき、環境問題への意識が高まる。2016年に政府が2050年までのサーキュラーエコノミー移行を目指す方針を打ち出して以来、資源管理や再生可能エネルギーに関するプロジェクトはさらに拡充された。

2018年には「Het Groene Brein」が教育機関と連携してサーキュラーエコノミーの教材を提供。2023年にはNMEセンターでサーキュラーエコノミーに関わるプログラムがさらに拡充。小学生向けのアップサイクルワークショップや廃材を使ったプロダクトデザインコンテストといった、実践的な活動が益々重要視されるようになっている。

【参照サイト】Nature and Environmental Education Centers
【参照サイト】Jongeren Adviesbureau

【ドイツ】森の幼稚園は人口5万人の街に1つ。週に1日森で学習する学校も

現在、ドイツには1,500以上の「森の幼稚園」がある(※1)。5万人あたり、森の幼稚園がおよそ1カ所運営されている計算だ。

森の幼稚園は、北欧で1950年代に始まったとされる。子どもたちは森の中で一年中過ごし、植物・動物・自然について学ぶ。森の幼稚園のコンセプトについて、「森林教育は自然教育の一形態で、森の幼稚園の目的は、実践的な経験と学習を通じて森林と自然における生態学的・社会的つながりについて総合的理解を提供すること」だと紹介されている(※2)

ハイデルベルク市近郊の筆者が住む人口約3万人の街にも、森の幼稚園が約10年前に創設された。近所の子どもたちは、毎日泥がついたズボンで森の幼稚園から帰宅する。 

森

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学習カリキュラムに野外学習を採用する学校もある。生物・自然現象・テクノロジーの授業の一環として、5年生時に1年間、週に1日森の中で学習する。同校はいわゆる進学校で、自然の中で学ぶ大切さを社会が認識していることを示している。同取り組みは財団から表彰され、資金も提供された。

こうした教育施設での取り組みに加えて、家庭でのレクリエーションもサステナブル教育において重要だと筆者は考える。ドイツでは、多くの家族が毎日もしくは週末、散歩などを通して身近にある豊かな自然を楽しむ。この習慣には、「自然と景観の保護」「開かれた自然やレクリエーション」などに言及する連邦自然保護法が貢献している。

※1 Waldkindergarten: Was Sie über Waldpädagogik wissen sollten
※2 Bolay, E. & Reichle, B. (2013): Waldpädagogik. Handbuch der waldbezogenen Umweltbildung. Teil 1: Theorie. Forst BW: Schneiderverlag Hohengehren. S.24.

編集後記

今回の欧州通信では、ヨーロッパ各国が進めているサステナビリティ教育の先進的な取り組みをご紹介した。気候危機の深刻さが増し、複雑に絡み合う社会課題も数多くある中で、幼少期からサステナビリティへの意識を育て、実社会と結びつけた実践的な学びの重要性が、年々増している。

フランスの「Young Reporters for the Environment」やオランダのNMEセンターの事例では、若者が環境問題に積極的に取り組み、社会に影響を与える力を養っている点が印象的だった。これらのプログラムは、単なる環境保護を超え、地域や政策にも影響を与える可能性を秘めている。こうした教育モデルを地域単位で取り入れ、次世代を育てていくことが、今後の重要な課題となるだろう。

Written by Masae Tago, Kotoko Allan, Kozue Nishizaki, Ryoko Krueger
Presented by ハーチ欧州

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

ハーチ欧州の事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact

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