不完全なボトルに、「人助け」で支払うカフェ。欧州企業の“あっと驚く”消費者コミュニケーション【欧州通信#33】

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近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は「サステナブル教育」をテーマに、各国で子どものころから環境や社会のサステナビリティの重要性を認識できるように取り組まれていることを紹介した。今回の欧州通信では「消費者コミュニケーション・マーケティング」を切り口に、各国の企業がサステナビリティを訴求するために行った“一風変わった”キャンペーンを取り上げる。

【オランダ】洗剤メーカーが「色のないパッケージ」を作成。その意味とは?

2021年、オランダの洗剤ブランド「OMO」がパイロットプロジェクトとして導入したのは、斬新な「インクレスパッケージ」。このデザインは、印刷インクを一切使用しないもので、エンボス加工のみでブランド名やロゴを表現することで環境への影響を大幅に削減した。

Photo by Kozue Nishizaki

段ボール素材は再生可能であり、7~8回リサイクルできるため環境負荷が低いものの、インクを使用するとそのメリットが減少する。従来のカラフルなインク付きデザインを見直し、「White is the new green」というコンセプトで白を基調としたクリーンなデザインを実現したのだ。

このパッケージは、視覚的なシンプルさと真っ白さが「きれいに落ちる洗剤」を連想させるため、インクがなくても消費者に強いメッセージを届けることができる。このパイロット版は、OMOブランドのオーナーUnileverの公式採用ではないものの、消費者に対する神経科学的な研究結果では、欲望や信頼感などポジティブな感情を引き出し、製品に対する購買意欲が高まることが確認された。また、このデザインは2021年にPentawardsでシルバーを受賞し、持続可能なデザインの成功例として評価された。

【参照サイト】A Cleaner Pack For Cleaner Laundry

【イギリス】ホームセキュリティ会社が、地域の安全性を高めるために「人助け」で支払うカフェをオープン

ホームセキュリティ会社は、当たり前だが利用者が危険な目に遭うと業務とコストが増える。それでは、「安全な地域」をつくってしまえばいいのではないか。イギリスのRing社が目をつけたのは鉄格子でも防犯カメラでもなく、「ご近所のつながり」だった。

2022年の夏、同社はイギリス・ロンドンのハックニーという地域に「NeighbourGood Café(ネイバーグッド・カフェ)」を期間限定オープン。ここでは、飲食代を支払う代わりに「近所の人を助ける」ことを約束する。

Neighbourgood cafe

Image via Ring YouTube

カフェの商品と交換できるアクションは、大きいものから小さいものまで何でも受け入れられた。日曜大工やガーデニング、フェンスの修理、犬の散歩の手伝い……アクションはさまざまだ。

自分が提供できるアクションを決めたあとは、専用の誓約書に記入し、カフェのコーヒーや軽食と交換できる。また、軽食のメニューには、地元で生産された食材が使用され、地元の生産者と繋がるきっかけも得られるという。

根本的問題の解決に注目し、「危険ではない街」ではなく「安心できる街」を住民とともにつくろうとした、企業のユニークな事例だ。

【参照サイト】NeighbourGood Cafe
【関連記事】ご近所と繋がりたい人に。飲食代の代わりに「人を助ける」ことを約束するカフェ

【スペイン】食品の原材料を確認する消費者に賞品が当たる。植物性ミルクメーカーのキャンペーン

スペインで植物性ミルクなどを製造している飲料メーカー「Yo Soy」のキャンペーンが話題になった。シンプルな製法で作られている同社の飲料は、砂糖や添加物を加えていない。しかしその原材料覧は短いと思いきや、たくさんの文章がびっしり記載されている。

それは多くの人が目をとめない原材料覧に「この文章を読んでいる人だけが気づけるプレゼントキャンペーン」の告知を実施したからだ。パッケージに記載されたWEBサイトからアクセスすることで、トラック1台分のドリンクが当たるキャンペーンに応募することができる。このキャンペーンにより、より多くの消費者に原材料一覧をしっかり確認することを促しており、食の安全性や透明性に関心がなかった消費者の意識変革を起こしているのだ。

 

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多くの企業がたくさんの食品添加物を使用しているため、原材料覧はあまり見られたくないかもしれない。しかしYo Soyは、逆の発想で消費者の意識を上げ、食品業界全体にも食の安全性や透明性の重要さを伝えていきたい考えだ。

【フランス】「19万3,000色のワインボトルを」サステナビリティという軸で生まれる新たなキャンペーン

1912年創業のフランスのシャンパーニュブランド「TELMONT(テルモン)」は、オーガニック農法やCO2排出量の削減、そして地域の特性を大切にするテロワールを守りながら、職人による伝統的な製法で少量生産を基本としたシャンパーニュ造りを行っている。そんな同社は、2024年から”完璧な”ワインボトルを提供することを辞めると決断した。

 

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通常、リサイクルガラスを使ってワインボトルを製造するときは、ガラスを商品の色に合わせるための工程が必要となる。そのガラス製造の際には商品の色ではない、いわゆる規格外の中間色も生まれるが、これまでそれらは選別されて廃棄され、このプロセスは多くの資源、エネルギーを無駄にしてしまっていた。

そこでシャンパーニュ・テルモンは、標準の色であるグリーンにするために出てきたすべての色のガラスを受け入れることに。その結果、年間19万3,000色のグリーンからシナモン色までの色合いのワインボトルが販売されることになった。これらのボトルの85%はリサイクルガラスでできており、100%リサイクル可能である。

同社は2023年にも、市場最軽量のシャンパーニュボトルを開発している。重さは800グラムで、標準的なシャンパーニュボトルよりも35グラム軽くすることにより、輸送によるCO2排出量を減らしているのだ。

サステナビリティを軸にすることで、こうしたユニークなコミュニケーションを生むこともできる。企業の創造性が、新たなマーケットのニーズに応える形で発揮されている事例と言えるだろう。

【関連記事】仏・シャンパーニュ、新ボトルを19万パターンの緑「っぽい」色で展開

編集後記

どのような製品やサービスをどのように提供すれば良いのか……消費者の目が厳しくなり、企業側はグリーンウォッシングに加担しないよう、マーケティング戦略を練らなければいけない時代になった。さらに、そうした指摘のリスクを恐れて、そもそも情報開示を行わなくなってしまう「グリーンハッシング」という言葉も出てきている。

完璧な施策はあり得ない中で、今後重要になってくるのは直接的に商品を手に取る消費者だけではなく、生産者や周囲に住む人々、自然、動物など広い視野で多様な存在をステークホルダーと捉え、問題の「本質」を考えることだろう。商品の伝え方の工夫は、ゆくゆく人々の「視点」を変え、それが社会の大きな変化につながっていくかもしれない。

Written by Kozue Nishizaki, Megumi, Risa Wakana, Erika Tomiyama
Presented by ハーチ欧州

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

ハーチ欧州の事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact

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