ジェンダー不平等
ジェンダー不平等とは?(What is Gender Inequality)
ジェンダー不平等とは、社会的・文化的な性別(ジェンダー)にもとづく偏見や、男女の雇用・賃金格差といった経済的な不平等に関する問題を指します。
ジェンダー(gender)とは、生物学的な性別(sex)に対し、社会的・文化的役割としての性別を意味します。男性・女性であることにより期待される役割はもちろん、性別による機会の違い、男女間の関係性などもジェンダーに含まれています。
たとえば、「料理や子供のお迎えは母親がするのが当たり前」「男は泣いてはいけない」「女性は男性をたてるべき」「リーダーはやっぱり男性がいい」といった社会通念により規定される性は、ジェンダーだと言えるでしょう。イギリスのロンドンでは、私たちが持つ無意識のジェンダーバイアス(性に基づく偏見)を問う広告が出されるなど、問題視されています。
世界には、ジェンダーに基づいた偏見や不平等が多く存在しているのが現状です。本記事では、ジェンダーの不平等の問題点や、数字と事実、不平等が起こる原因、解決策などの情報をわかりやすくまとめました。
目次
ジェンダー不平等に関する数字と事実(Facts & Figures)
日本のジェンダー不平等の現状に関する数字、そして世界のジェンダー不平等の事実をまとめています。
日本
- ジェンダー・ギャップ指数(GGI):日本の数値は0.647、ランキングは125位/146か国 (2023年/男女共同参画局)
- ジェンダー不平等指数(GII):日本の数値は0.970、ランキングは19位 / 191か国(2022年/UNDP)
- ジェンダー開発指数(GDI):日本の数値は0.083、ランキングは19位/191か国(2022年/UNDP)
※ ジェンダーギャップ指数(GGI):各国の男女格差を数値化したもので、スイス非営利財団世界経済フォーラムが2006年から毎年発表している指標。「経済」「政治」「教育」「健康」の4つの分野のデータから作成されており、0が完全不平等、1が完全平等を示す。
※ ジェンダー不平等指数(GII):リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、エンパワーメント、労働市場への参加、という3つの側面における達成度から、女性と男性の間にある不平等を映す指数。0が完全平等、1が完全不平等を示す。
※ ジェンダー開発指数(GDI):人間開発の成果におけるジェンダー・ギャップを表した指数。人間開発の3つの基本的な側面である健康、知識、生活水準における女性と男性の格差を測定している。
- 国会における女性議員の割合 日本は150位(2023年/グローバルノート)
- 男女の幸福度 日本では女性の方が男性より8.6%幸せだと感じている(2021年/朝日広告社調査)
- 女性賃金が男性賃金に対して何パーセント低いかを示す「男女間賃金格差」が、日本は24.5%。OECD加盟国の中では2番目に高い(2021年/世界経済フォーラム)
- 日本では、結婚したことのある女性のうち10人に1人が身体的暴力の被害を受けたことがある(2021年/政府広報オンライン)
世界
-
- OECD諸国の男女間の賃金格差の平均は11.9%(2020年/OECD)
- 男女差別に基づいて失われている所得は、世界全体で6兆米ドル、対GDP比7.5%に上る(2019年/OECD)
- サウジアラビアでは、2018年6月にはじめて女性の運転が解禁された
- サウジアラビアでは、女性は海外旅行、銀行口座開設などを一人で行うことができない。すべて男性親族の「後見人」の承認が必要(2019年に法改正があり、「後見人制度」は一部緩和された。)
- 世界では、約7億5,000万人の女性と女の子が18歳未満で結婚しており、そのうち3人にひとり以上(約2億5,000万人)が15歳未満で結婚している。(unicef)
- 児童婚の程度は国によって大きく異なるが、児童婚を経験した女性と女の子の42%が南アジア、26%が東アジアと太平洋地域、17%がアフリカで暮らしている。(unicef)
- 中央アジアのキルギスタンやカザフスタンなどの国々、ジョージアの一部の地域、アフリカのエチオピアやスーダンなどの国々で、男性が求婚する女性を誘拐する風習「誘拐婚(略奪婚)」がある(2023年時点)
- 男女の教育格差が世界で最も大きい国の一つイエメンでは、初等教育の純就学率が男子85%に対し女子65%、成人識字率は男性76%に対し女性39%(独立行政法人国際協力機構<JICA>)
- 宗教上の理由から、女児が女性器切除などの手術を受ける地域もある。
日本は、UNDPが発表する「人間開発指数(ジェンダー開発や不平等指数)」においては20位以内にランクインしていますが、ジェンダーギャップ指数およびジェンダー・エンパワーメント指数の順位においては、先進国の中で特に低く評価されていることがわかります。
ジェンダー不平等が起こる原因(Causes)
ジェンダー不平等が発生する原因は様々ですが、主な要因としては下記が挙げられます。
- 宗教の決まり
- 伝統的な社会構造・風習
- 男女間の経済的格差により、女性から男性への経済的依存が高まる
- 法的・制度的な障壁
- 健康へのアクセスの不平等
- 労働市場の不平等
- 政治的代表性の欠如
- 教育の不平等
- 家庭内・家庭外での教育の欠如
- 社会的なステレオタイプ
- 広告やTVなど、メディアによる「性の役割」の強調 → それが社会的に広がり人々の当たり前になり、ジェンダーバイアス(性に基づく偏見)につながる
これら基づいた考え方や行動が、ジェンダーの不平等や偏見を引き起こしています。
日常に潜むジェンダーバイアス
ジェンダーバイアスとは、人や社会が無意識のうちに性差や男女の役割について固定的な思い込みや偏見を持つこと。今日の社会では、男性が女性よりも優位であるという偏見から男性が優遇措置を受けることが多く、女性が男性よりもジェンダーバイアスの影響を受けやすいことが明らかになっています。以下は、日常的に見かけるジェンダーバイアスです。
色のジェンダーバイアス
男性は青や黒、女性は赤や紫など色が性別の判断材料になっています。例えば、トイレのピクトグラムでは男性が青、女性が赤で示されていること。iOS絵文字の男性が着用している服は青、女性が着用している服は紫。※現在はニュートラルカラーのグレーが追加されています。
形のジェンダーバイアス
男の子は星、女の子はハートやリボンなど形が性別の判断材料になっています。例えば、織姫と彦星のイラストでは、織姫はリボンを身に纏い、彦星は星を付けている場合が多くなっています。
おもちゃのジェンダーバイアス
男の子用には車や恐竜をモチーフにしたおもちゃが多く、女の子用には人形やキッチンセットが多いといった、おもちゃのジェンダーに基づく分類があります。
スポーツのジェンダーバイアス
サッカーや野球は男の子のスポーツ、バレエやフィギュアスケートは女の子のスポーツというようなステレオタイプがあります。
美容や体型のジェンダーバイアス
女性は身だしなみを整える一貫として、化粧をすべきだという固定観念があります。また、体型に関しては、女性は細く、男性は筋肉質であるべきという関するステレオタイプが存在します。
仕事のジェンダーバイアス
男性はエンジニアや医者に向いていて、女性は看護師や秘書に向いているといった職業に関するステレオタイプがあります。また、職場での役割として、男性はリーダーシップを取るべき、女性はサポート役であるべきという期待をされることがあります。
言葉のジェンダーバイアス
Google翻訳で「彼は看護師です。彼女は科学者です。」と英語入力し、代名詞に性別がないジョージア語やトルコ語に変換し、翻訳後の文章を再度翻訳して英語に戻すと「彼は科学者です。彼女は看護師です。」と翻訳されるなど、言葉にもジェンダーバイアスが含まれています。
以下のCMでは、さまざまな年齢の子供たちに「女性のように走ってみてください」と指示。男女問わず、小学生高学年くらいの年齢から“女性らしい”イメージを再現することや、逆にバイアスに触れる経験の少ない小さな子供たちは思い切り走るなど、ジェンダーバイアスを明らかにする興味深い実験です。
ジェンダー不平等はなぜ問題なのか?(Impacts)
ジェンダー不平等はなぜ問題なのでしょうか。主な問題点としては下記が挙げられます。
- 政治・経済共に重要な意思決定への女性の参加率の低さ → これにより、一部の属性の人々により重要な決定がされること
- 男女の賃金格差
- ジェンダーと社会的役割に関する偏見(差別・マイクロアグレッションなどにつながる)
- セクハラ・モラハラ問題
- 男性優遇・女性優遇制度(“ピンク税”やレディースデーなど)
日本での男女格差、ジェンダー不平等を語る際によく使われるのが、ジェンダーギャップ指数。この指数は「教育」「医療」「政治」「経済(働き方)」の4つの分野で評価をします。日本は、そのうち「政治」と「経済(働き方)」で低い評価を受けています。
政治活動においては、国会における女性議員の割合が著しく低い日本。そして企業でも幹部のほとんどは男性が占めるなど、重要な意思決定に女性が参加できる機会が少ないです。経済活動においては、賃金格差も見られます。OECDのデータによると、日本は2017年時点で、G7の中で最も「主要先進国におけるフルタイム労働者の賃金」の男女格差がある国にランクインしています。
では、女性の幸福度が高いのは?働く女性が増え、仕事によって女性も自己実現ができる時代になってきてはいますが、政治・経済活動への参加が、必ずしも多数の女性の幸福に結び付くというわけではないのかもしれません。
そして、社会的役割について。現在でも、男だから立派に働かなくてはならない、女だから家事はすべてこなさなくてはならない…… など自分自身や周りから性別によって「すべき」行動が決められてしまったり、将来の可能性を狭められてしまったりすることもあります。これが意思に反しているのであれば、生きづらさにつながります。
日常生活の中で繰り返されるマイクロアグレッションやマンスプレイニング、マンタラプティング、トーンポリシングなどの行為は、この不平等をさらに強化しています。
マンスプレイニングは、男性が女性に対して、女性が既に知っていることや経験していることを教えようとする行為を指します。これは、女性の知識や経験を過小評価するものであり、ジェンダーに基づく偏見の一例です。また、マントラプティングは、男性が女性の意見やアイディアを盗んで自分のものとして発表する行為を指します。トーンポリシングは、意見そのものではなく、意見を表現する際の言葉遣いや態度を批判することで、発言者の声を小さくしようとするものです。
これらの行為は、ジェンダー格差を是正しようとする努力を邪魔し、女性の社会的地位向上を妨げています。
ジェンダー不平等の是正を試みる世界の制度
ジェンダー不平等の是正は、世界中の多くの国で重要な課題となっており、さまざまなアプローチが試みられています。ジェンダーパリティとは、男女が社会のあらゆる分野で平等に参加することを目指す統計的な尺度であり、賃金や、暴力被害を受けた人の数、国会議員の比率など、特定の指標で男性と女性の「数」の違いを明らかにし、改善していくことで公正な状態を目指します。
例えば、インドではクオータ制が導入され、女性の議会への参加を促進することで政治的なジェンダーパリティを推進しています。クオータ制とは、特定の数の議席を女性に確保することで、従来の社会構造を変革し、女性の意思決定への参加を拡大するものです。
一方、スウェーデンは「フェミニスト政府」を掲げ、政策決定のすべての段階でジェンダー平等を考慮に入れることを約束しています。これには、女性の経済的自立を支援し、家庭と職業の両立を促進する政策、そして性別に基づく暴力を根絶する取り組みなどが含まれます。
また、オーストリアの首都であるウィーンでは「ジェンダー主流化のまちづくり」が推進されています。これは、公共空間や交通機関、住宅政策に至るまで、ジェンダーの視点から都市計画を再考するものです。例えば、街灯や公共トイレ、歩道の設計において、女性の安全や利便性が考慮されます。これにより、女性が公共空間を自由に、安全に利用できる社会が実現されつつあります。
これらの取り組みは、ジェンダー不平等の是正を目指す世界的な努力の一部です。各国が採用する方法は異なりますが、共通の目標は、すべての人々が平等に権利と機会を享受できる社会の実現にあります。ジェンダーパリティの達成は、持続可能な発展のための基盤を築くことにもつながるのです。
ジェンダー不平等に関する国際団体(Organization)
ジェンダー平等の是正に取り組む国際的な団体としては下記が挙げられます。
ジェンダー不平等を解決するアイデアたち(Ideas for Good)
IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなデザインでジェンダー不平等の問題解決に取り組むプロジェクトを紹介しています。
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