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ジェンダーバイアスとは・意味

ジェンダー

ジェンダーバイアスとは?

ジェンダーバイアスとは、人や社会が無意識のうちに性差や男女の役割、そして性的マイノリティなどの人々について固定的な思い込みや偏見を持つことである。

今日の社会では、男性が女性よりも優位であるという偏見から男性が優遇措置を受けることが多く、女性は男性よりもジェンダーバイアスの影響を受けやすい。ジェンダーバイアスに気付かずにいることで、相手を傷付けたり、自分自身を大切にできなかったり、キャリアに影響を及ぼしたりなど様々な影響がある。

日常生活の中のジェンダーバイアス

ジェンダーバイアスの存在は日常生活においても多く見受けられる。下記、日常生活の中のジェンダーバイアスの一部を紹介する。

    • 色のジェンダーバイアス

男性は青や黒、女性は赤や紫など色が性別の判断材料になっている。例えば、トイレのピクトグラムでは男性が青、女性が赤で示されている。iOS絵文字の男性が着用している服は青、女性が着用している服は紫となっている。※現在はニュートラルカラーのグレーが追加された。

    • 形のジェンダーバイアス

男の子は星、女の子はハートやリボンなど形が性別の判断材料になっている。例えば、織姫と彦星のイラストでは、織姫はリボンを身に纏い、彦星は星を付けている場合が多い。

    • 言葉のジェンダーバイアス

Google翻訳で「彼は看護師です。彼女は科学者です。」と英語入力し、代名詞に性別がないジョージア語やトルコ語に変換し、翻訳後の文章を再度翻訳して英語に戻すと「彼は科学者です。彼女は看護師です。」と翻訳されるなど、言葉にもジェンダーバイアスが含まれている。

ジェンダーバイアスを連想させる言葉には下記のようなものがある。

  • リケジョ
  • 女子力
  • 女性起業家
  • 女子アナ
  • 女性運転手
  • 女性パイロット
  • 女流棋士
  • 女子会
  • 女子旅
  • 大黒柱
  • イクメン
  • スイーツ男子
  • 美容男子
  • 草食系男子
  • 料理男子

日本においては「ビジネスマン」は「ビジネスパーソン」、「看護婦」は「看護師」という言葉が多く用いられるようになり、「男性名詞」と「女性名詞」の廃止が進んでいる。

ジェンダーバイアスは何が問題なのか?

ジェンダーバイアスは、個人的な能力を活かしたり、専門的なキャリアを追求したり、人生について選択する機会を制限するといった問題を生じさせる。「責任ある仕事は男性がすべきである」「保育士や看護師は女性の仕事である」といったジェンダーバイアスは、個人の可能性や仕事の選択肢を狭めてしまう。

ビジネスにおける問題

例えばビジネスにおいて、女性はジェンダーバイアスの悪影響として「低賃金」という待遇を受けることがある。アメリカ合衆国労働統計局(Bureau of Labor Statistics、BLS)のデータによると、2020年の女性の年収は男性の83%以下だった。

起業家もまたジェンダーバイアスに直面している。世界有数の銀行および金融サービス機関HSBCプライベート・バンキングが1,200人以上の起業家を対象に行った調査によると、アメリカの女性が確保した資本金は男性の同業者に比べて平均8%少なかった。

2023年3月6日の日本経済新聞でも、女性創業のスタートアップが男性創業より資金調達額が少ない傾向にあることを記している。加えて、金融庁の政策オープンラボの報告書がジェンダーの偏りを明らかにしている。

報告書によると日本の起業家(個人事業者も含む)に占める女性比率は34.2%(17年時点)、うち会社化しているのは14.2%(21年時点)。さらに新期上場企業に占める女性社長となると、比率はわずか2%(21年時点)だ。

起業家を支援するキャピタリストにもジェンダーの偏りが生じている。一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会が2022年に行った調査によると、キャピタリストにおける女性比率は16%にとどまる。

同記事には女性起業家が業界関係者から受けたマイクロアグレッション(「(受賞対象に)女性だから選ばれたんだよ」など)の事例や、性別をネガティブ視するキャピタリストの言葉(「資金調達後に妊娠するなんてありえないよね」)なども記されていた。

さらに悪いことに、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行が、ジェンダーバイアスによる悪影響の是正に向けた進展を阻害した。BLSによれば、2021年2月の女性の労働力率は、55.8%にとどまった。これは1987年4月と同じ割合だ。

出産や育児、解雇、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行などのさまざまな圧力が、ビジネスにおけるジェンダーバイアスがいかに一般的であるかを露呈している。

学校など教育の現場における問題

擁護、教育、研究を通じて女性と女児の公平性を促進する非営利団体・全米女子大学協会(The American Association of University Women 、AAUW)は、上記の例にもあるように多くの職業がいまだに性別に大きく左右され、女性の職業が低賃金の分野に偏っているのは、早期教育におけるジェンダートラッキング(性差による決めつけ)が原因である、とウェブサイトにて述べている。

一般的に、女子生徒と男子生徒は異なる扱いを受け、異なる方法で行動することが求められる。「be a good girl(いい子にしなさい)」や「boys will be boys(男の子は男の子らしく)」といったメッセージは、女子生徒の従順な行動を強化したり、男子生徒の攻撃的な行動を許容したりと、それぞれの性別に適した行動様式があることを子どもたちに伝えてしまうことになる。

代表的なメッセージとして「女の子は男の子に比べて数学が苦手だ」というコメントが挙げられる。女の子も男の子も特定の科目が得意という考え方が早い段階から定着しているが、実際には教育の大半を通じて、数学と科学の分野で女の子も男の子も成績は同等である。だが、AAUWは女の子が小学校の早い時期からこれらの分野から遠ざかる傾向にあることを記している。

ジェンダーバイアスが生まれる原因

ジェンダーバイアスが生まれる原因は生物学的なものではない。

神経科学者のリセ・エリオットは著書『Pink Brain, Blue Brain(ピンクの脳、ブルーの脳)』の中で、長年の研究成果をもとに、幼児の脳は非常に柔軟であるため、親や教師や仲間、そして文化全体がジェンダー・ステレオタイプ(ジェンダーの固定観念)を知らず知らずのうちに強化することで、生まれたときの小さな違いが時間とともに増幅していくと主張している。

人々の赤ちゃんとの接し方は、生物学的な根拠がほとんどない性差に関する思い込みに基づいており、それは最も早いソーシャリゼーション(社会化)の一部でもある。

もちろん遺伝子やホルモンは男性と女性の違いを生み出すのに一役買っているが、それはほんの始まりにすぎない。エリオット氏は著書の中で、妊娠から思春期までの最新科学を紹介し、男性と女性の違いに焦点を当て、有害な固定観念を抑制している。著書にある例には、男の子は「数学が得意」なのではなく、ある種の空間的推理が得意なこと、女の子は男の子より感情移入しやすいのではなく、自分の感情を表現することが許されている、などがある。

職場のジェンダーバイアスの根源

アメリカ中西部の主要な新聞であるシカゴ・トリビューンは「The roots of workplace gender bias(職場のジェンダーバイアスの根源)」という記事を掲載している。

同記事によると、学術雑誌Administrative Science Quarterlyに掲載された論文で、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ニューヨーク大学、ユタ大学の研究者が、結婚構造が男性の職場における女性に対する態度、信念、行動にどのような影響を与えるかを調査している。

5つの異なる調査を実施した結果、非正規雇用や専業主婦の女性と結婚している男性には、次のような傾向があることがわかった。

  • 職場に女性がいることを好ましく思っていない
  • 女性従業員が多い組織は円滑に運営されていないと認識している
  • 女性リーダーのいる組織は比較的魅力的でないと認識している
  • 資格のある女性従業員の昇進の機会を、他の既婚男性従業員よりも頻繁に拒否する

この研究の著者の一人である組織行動学者のスレダリ・デサイは「このようなジェンダーバイアスは無意識のうちに潜んでいることが多く、人々は自分たちがその作用に関わっていることを意識していない可能性もある」と述べている。デサイ氏は「思うに、このような男性のほとんどはとても素敵な父親であり夫であり、『男性はリーダーとなり、一家の大黒柱となる』というジェンダーバイアスに気づいていないだけである」とも述べた。

5つの異なる調査を行ったことで、研究者たちは一貫したパターンを見出し、その結果に信ぴょう性を持たせた。既婚男性に「男性だけが家計を支えるべきか」という質問をしたときの回答の内訳はこのようになった。

  • 夫婦ともにフルタイムで働いている場合、「はい」と答えた男性は29%
  • 妻がパートタイムで働いている場合、「はい」と答えた男性は37.3%
  • 妻が働いていない場合、「はい」と答えた男性は57.1%

男性が稼ぎ手であるべきという固定観念が、男性の上司や管理職が女性を雇用したり昇進させたりする際にどのような影響を及ぼすかは想像に難くない。

ジェンダーバイアスを解消する取り組み

ジェンダーバイアスは男女の不平等関係の表れであり、社会における女性の進歩を妨げている。下記、女性へのジェンダーバイアスを解消する取り組みの一部を紹介する。

  • ベクデルテスト

1985年にアメリカの漫画家アリソン・ベグタル氏が作ったジェンダーバイアスをなくすための映画作品の基準。作品の中で女性を2名以上採用し、その女性同士が男性の話題に触れずに会話をするなど、作品の内容が男性中心に偏らないようにできたテストとして話題を集めている。

  • #HeForShe

UN WOMENのジェンダー平等の志を持つ男性に対し呼びかけるキャンペーン。現在ではジェンダー平等には様々な性別の人々の参画が不可欠であることからすべての人が参加できる。

  • #TIMESUP

#MeToo運動をきっかけに生まれた運動。世界中の女性が職場で経験する体系的な不平等に対処することを目的としている。

  • #HeyUpdateMyVoice

ユネスコと#HeyUpdateMyVoice運動は現在及び将来世代の仮想教育に貢献することを目的としたムーブメント。バーチャルアシスタント(SiriやAlexaなど)に共通していることは、標準的な女性の名前かつ女性の声であることだ。女性であることから暴言を吐かれたり、悪用されたりすることも多くAIにまでジェンダーバイアスがかかっている。

他にも、世界で最も貧しい女性たちが潜在能力を発揮することを妨げる障壁を打ち破ることを目的とした#POVERTYISSEXISTや世界中の男女が社会に変革を起こすために行進して訴える#PowerToThePollsがある。

先で紹介したノースカロライナ大学チャペルヒル校、ニューヨーク大学、ユタ大学の共同研究では、職場におけるジェンダーバイアスを解消する取り組みとして「多様性への責任を確立する」ことを推奨している。これには、多様性に関する委員会や特別チームを設置することや、多様性目標に対する説明責任、ちょっとした偏見や否定的な固定観念がどこにあるのかを認識することへの促進などが含まれる。

また、上記研究に関する記事を執筆したシカゴ・トリビューンの記者がいうように、個人個人が、自分自身の潜在的なジェンダーバイアスを自覚することも重要だ。例えば、採用や配属管理に携わる中で、「ジェンダーの問題で、自分はある方向に傾いていないか?」「私はあらゆる側面に適切な配慮をしているだろうか?」「ある性別に対して思い込みをしていないだろうか?」と自問自答してみるだけでも参考になる。

ジェンダーバイアスを乗り越えた先に

社会にはジェンダートラッキング(性差による決めつけ)が存在するように、人々が無意識のうちに抱いているジェンダーバイアスにより、それぞれの選択肢が限られていることがある。男女共同参画社会と共に可能性で溢れる社会を実現するために一人一人がジェンダーバイアスを知り、意識して行動することが求められる。

性差を固定的な生物学的事実と考えるのではなく、性差がどのように生まれるのかを理解することができれば、すべての人が最大限の可能性を発揮し、男女間の悩ましい格差を解消することができる。

最後に、ある広告を紹介する。2015年に行われたアメリカ最大のスポーツイベント「スーパーボウル」のために作られた一般消費財メーカーP&Gの生理用品「Always」のCMだ。

「WHAT DOES IT MEAN TO DO SOMETHING “LIKE A GIRL”?(『女の子みたいに』何かをするってどういうこと?)」という問いかけに、子どもたちが答えていく。

「『女の子みたいに』走って」「『女の子みたいに』戦って」「『女の子みたいに』ボールを投げて」と言われたとき、ハイティーンと思しき男女と若い世代の女の子ではその行動に違いが表れる。その対比の後に表示されるメッセージにはこう書かれている。

「A GIRL’S CONFIDENCE PLUMMETS DURING PUBERTY. BUT IT DOESN’T HAVE TO.(思春期になると女の子の自信は急降下する。でも、自信をなくす必要はない)」

このCMは、世間が無意識のうちに「女性らしさ」を押し付けてしまっている現実と、意識を変えていこうとする未来を同時に見せてくれる。このCMにハッとさせられた人は、「ある性別に対して思い込みをしていないか?」といった自問自答を繰り返し、社会と自分自身に潜むジェンダーバイアスについて考えてみてほしい。

そして広がりを見せるジェンダーニュートラルの考え方を取り入れる上でもジェンダーバイアスを解消する新たなアイデアに期待したい。

【関連ページ】 アンコンシャスバイアスとは・意味
【関連ページ】 ジェンダー不平等
【関連ページ】フェミニズムとは・意味
【関連ページ】ジェンダーステレオタイプとは・意味
【参照サイト】 内閣府男女共同参画局「令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究 調査結果」
【参照サイト】 内閣府男女共同参画局「共同参画」
【参照サイト】Gender Bias in the Workplace: Bridging the Gap for Women in Business.
【参照サイト】スタートアップ 脱・男性偏重へ – 日本経済新聞
【参照サイト】Gender stereotyping | OHCHR
【参照サイト】Gender Discrimination – Equal Rights Advocates
【参照サイト】Early Gender Bias – AAUW
【参照サイト】Gender Gap – Education Next
【参照サイト】Pink Brain, Blue Brain – Rosalind Franklin University
【参照サイト】The roots of workplace gender bias – Chicago Tribune




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