官民が協調して社会の改善に取り組む国際機関、世界経済フォーラムはこのほど「地球のための第4次産業革命シリーズ」で、ブロックチェーン技術に焦点を当てたレポートを発表した。
ブロックチェーンは、ピアツーピア・ネットワークを使った分散型台帳技術の一つだ。仮想通貨やスマートコントラクトに代表されるように、お金、グッズ、不動産といったさまざまモノを銀行などの中央機関を介さずに取引・確認することができる。
取引が発生した時点でリアルタイムに記録することや、追跡も可能だ。改ざんが難しいため透明性が高く、さらに大掛かりなシステムが不要のため、低コストで運用でき、これから世界を大きく革新していく技術になると言われている。
地球規模の課題には、気候変動、生物の多様性と保全、海洋保護、水の安全、大気汚染、災害対策などが挙げられるが、ブロックチェーンはどのような改善をもたらすことができるのだろうか。
課題を解決する、ブロックチェーンの8つの可能性
世界経済フォーラムは、現在進行中、または今後予定している65以上のブロックチェーン活用例をレポートで紹介している。本記事では、その中でも特に注目される8つの活用方法を見ていくと共に、これまでIDEAS FOR GOODで取り上げた具体的な事例を紹介しよう。
01.サプライチェーンの透明化
ブロックチェーンの特徴の一つは、記録したデータがリアルタイムにネットワーク上に共有されること。製品や食品のサプライチェーンのデータは、ブロックチェーンを介して記録することで、生産から消費者に届くまでの流れがはっきりとわかる。どのように生産されたか、流通経路はどうだったか、どこの店にたどり着いたか、などだ。
このように透明性が増すことで、食の安全性は高まるだろう。さらに需給管理を最適化し、結果的に持続可能な生産、流通、消費を可能にするのだ。
02. 分散型の資源管理
わたしたちが知っているような、大企業が独占してエネルギー供給をする中央集権型システムは、しばしば需要と供給を最適化するのに苦労する。さらに一か所で障害が生じることで、ネットワーク全体に支障をきたしてしまう可能性もある。
ブロックチェーンは、ネットワーク全体でデータを管理する技術だ。そのため国を問わないグローバルな供給システムの構築が可能で、エネルギーの直接的な売買やダイナミックな価格設定、需要供給バランスの最適化もできる。
03. 持続可能な金融の新たな源泉
国連は、SDGs(持続可能な開発目標)を達成するための資金が年間、5~7兆米ドル不足していると見積もっている。
ブロックチェーンベースの金融プラットフォームで資本のアクセスが促進されることで、環境問題を改善するためのプロジェクトに対しての小規模な融資を含む、新たな投資家の開拓を期待できる。
04. 循環経済にインセンティブを
今日、消費需要を満たすために毎年900億トンもの資源が採掘され、その量は2050年には倍増すると予想されている。また、2050年までに魚よりも多くのプラスチック廃棄物が海洋を浮遊するとも言われている。
ブロックチェーンは、天然資源を評価する方法を根本的に変え、現在は廃棄されているモノに経済的な価値をもたらす可能性を秘めている。たとえばプラスチックバンクは、海洋に廃棄されたプラスチックごみの収集と引き換えに、リサイクルトークンと呼ばれる通貨を発行しているようだ。廃棄物の積極的なリサイクルが進むことで、循環経済を実現する一歩となる。
05. 炭素市場の変革
炭素への市場本位のアプローチは、環境問題を効果的に管理する方法だという主張があるが、多くの市場ではいまだ取引の透明度の低さが問題となっている。情報の共有がされづらく、追跡もできない、さらに規制もそれぞれ違う。
それを解決しうるのが、ブロックチェーンを使用したプラットフォームだ。価値ある暗号トークンを使用して、カーボンクレジット取引を透明化し、活発化させられるかもしれない。
06. 次世代の持続可能性モニタリング
企業はいま、投資家や消費者、政府、監督当局から持続可能なビジネスモデルの実践をますます求められている。そのために重要になるのが、外部へのサステナビリティ報告だ。
ブロックチェーンは、その報告の方法を変え、今後企業が業績を管理、実証、改善する一助となる。同時に、消費者や投資家がより適切な情報に基づいて企業への投資を行うかどうかという意思決定を行えるようにもなる。
07. 防災と人道支援
自然災害の頻度と規模の増大には、一部に気候変動の影響があるといわれる。自然災害の発生に備えて、リアルタイムの救援対応と管理の必要性があるいま、ブロックチェーンはその災害の備えと、透明で確実な救援の方法を発展させる可能性を秘めている。
08. 環境管理プラットフォーム
ブロックチェーンは、地球環境に関する問題を複数の団体が管理するプラットフォームにもなりえる。たとえば海洋保全や気候変動に関する膨大なデータの照合、監視、管理などができると目され、日々研究が進められているようだ。
まとめ
上記のような多くの利点がある一方で、ブロックチェーンプロジェクトのほとんどがいまだ試験段階にあることも事実だ。
技術適用の障壁、データのプライバシーやセキュリティのリスク、法規制上の課題など、新技術により起こりうる問題も指摘されている。しかしこれらの問題を考慮しても、長期的に展望すると、ブロックチェーンが地球環境を救うゲームチェンジャーになるのは、まず間違いないだろう。