今、世界中でプラスチック問題が大きく取り上げられている。2050年には、魚の量よりプラスチックゴミの方が多くなるともいわれている。
しかし、プラスチックは本当に私たちから憎まれるべき存在なのだろうか。タイの首都バンコクにあるデザインセンター、Thailand Creative & Design Center(以下、TCDC)で開催されている”Yes, plastic! Things to rethink“という展示会は、私たち一人ひとりにその問いを投げかけている。
現地レポート:タイのプラスチック事情とは?
全世界で「脱プラスチック」の流れが加速しているが、タイ国内のプラスチック事情はいかがだろうか。まずはじめに、筆者がタイのバンコクでみた様子をレポートしたい。
筆者がタイに来て驚いたことのひとつが、街中でプラスチックフリーを掲げるポスターをよく見かけることだ。セブンイレブンやファミリーマートといったコンビニや、ケンタッキー、ミスタードーナッツ、吉野家というグローバルチェーンレストランが加盟するCentral Retaurants Group(CRG)など大手企業がプラスチックフリーに向けて取り組んでいる。
報道によると、タイのセブンイレブンは使い捨てプラスチック袋の提供を順次廃止する方向を示している。実際、2018年12月から2019年1月の一ヶ月間で約1億ものプラスチック袋が断られ、経済効果は日本円で約7千万円以上になるという。
また、まだ多くはないが、紙や竹でできたストローを提供してくれるカフェやレストランもある。
このように、プラスチック削減に向けて多くの企業が取り組んでいるのは事実だ。
しかし実際は、屋台、コンビニ、スーパーなどで、おかずや果物の持ち帰り用のプラスチック袋やカトラリーが大量に利用されている。タイ人に聞くとプラスチック問題については認識しているが、日々の生活の中での実行はまだまだ十分とは言えないのかもしれない。
生物を利用したプラスチック削減のアイデア3選
それではここから、展示会とともにプラスチック問題について考えてみよう。最初のブースでは、自然に還る素材で作られたプラスチック代替製品の展示があった。
合成ポリマーから作られるプラスチックは非常に耐久性があるため、500年以上の期間で自然界に戻らないことが問題のひとつとされている。そんななか、生物素材でできたプラスチック製品の需要が、過去100年間で600%も増えているという。主にデンプンやセルロースといったバイオマス原料が、2030年にはマーケットシェアの約10%を占めるとされている。
この展示会では、コーンやサトウキビから作り出される有機性のエネルギー資源(バイオマス)やキャッサバ、プラスチックを消化する酵素を持つ蛾を利用した3つの製品が紹介されていた。
キャッサバを使ったビニール袋は、80度のお湯に浸すと約3分で溶けてしまう。バイオマスでできたカップは生物分解が可能で、地中に埋めると土の状態によって60日から5年ほどかけて土に還る。また、プラスチック消化酵素を持つ蛾にストローを食べさせると、3日から6週間くらいで消化されてしまうという。
プラスチックの有能性に着目したアイデア3選
次のブースに進むと、プラスチックを積極的に活用している3つの分野での事例が展示されていた。プラスチックは軽量で耐久性があり、再利用や変形もしやすいことから、多様なプロダクトに使われている。
道路や飛行機など交通分野
まずは道路。プラスチックはコンクリートやゴムよりも熱や衝撃に強いため、道路にプラスチックが利用されている。オランダやガーナ、インドですでに実用化されている。道路下の空洞部のおかげで、道路にくぼみができにくくメンテナンス費用を浮かせることもできるという。
航空機も例外ではない。プラスチックはアルミニウムより軽く、強く、衝撃に強いため、約半数の最新旅客機の翼やプロペラに、プラスチックで強化された炭素ファイバー素材が使用されている。軽量化のため、飛行エネルギーも約20%削減できる。
プロダクトデザイン分野
デザインは、人の感情を動かし、製品の価値を高めるのに欠かせない。プラスチックは加工しやすいため、自分のイメージしたデザインを作るのに最適な素材だ。シームレスな椅子や、紙質に似せたカバンなどが展示してあった。
また、フェノール樹脂という合成プラスチックはパッケージデザインやアクセサリー作りに非常に重宝されている。大理石や木材、亀の甲羅、象牙、サンゴ礁を模倣した製品製作にも利用され、フェノール樹脂を使用したジュエリーは、繊細な質、強固な素材、触り心地、匂いといった面で、価値が高いと評価されている。
医療分野
医療分野においてもプラスチックが活躍している。自由に変形しやすく、自然界のものともシームレスに融合されるプラスチック製の人工器官は、人間の身体に移植しやすい。
「脱プラスチック」から「新プラスチックエコノミー」へ
プラスチック需要は過去50年間で1500万から3億1100万トンへと20倍以上増え、20年後には今の2倍になるともいわれる。リサイクルされるプラスチックは14%で、そのうち「資源の循環型システム」に戻っていくのは2%のみ、その他はリサイクル過程での品質劣化やロスとなる。
このような背景があるなか、最後のブースではthe new plastics economy(新しいプラスチックエコノミー)について説明がある。このイニシアチブでは、現在プラスチックの半分を占める包装用プラスチックについて3つの改善策が提案されている。
一つ目は再利用可能な素材でできた包装用プラスチックを20%増やすこと、二つ目は素材選択や色、形態などの包装デザインの半分は適切な分別やリサイクルができるように経済的に魅力的であること、三つ目は汎用プラスチック素材であるポリ塩化ビニル(PVC)といった埋め立てや焼却されるプラスチックは代替素材を考えたり別のパッケージイノベーションを必要とすること、である。
これだけプラスチックが私たちの生活と切り離せなくなった今、プラスチック問題を解決するためには、上記提案にあるとおり、ライフサイクルの最後にある廃棄段階だけではなく、素材の選択からプロダクトデザインといったプラスチックの生産、消費、リサイクルというすべての段階について考察する必要があるのだ。
編集後記
この展示会の入り口には、古代ギリシアの哲学者ソクラテスのある格言が書かれたポスターが貼ってあった。
“I know you won’t believe me, but the highest form of human excellence is to question oneself and others.”
(きっと私のことを信じないだろうが、人間の最も優れた点は自分自身や他人に対して疑問を投げかけることだ。)
展示のスタート地点に立った時には、なぜこの格言が飾ってあるのか理解できなかった。しかし、展示会を一周すると、その意味がわかった気がする。
つまり、プラスチック問題をとおして、既存の物事に疑問を持ち、自分の頭で考えることの大切さを説いているのではないか。プラスチックゴミが増え、自然界に溜まっていくことは問題であることは間違いない。だからと言って、プラスチック自体が悪者というよりも、それを扱う私たち人間の使い方が問題なのであって、時にはプラスチックの有能性をうまく利用することを考えていかなければならないだろう。
「○○は環境に良くない」「△△は身体にいい」とメディアで報道されると自分で調べもせずついつい信じてしまいがち。しかしこの展示会は、そんな現代人に自分の頭で考えることの大切さを思い出させてくれる。
すべてが欠点でできた人間がいないように、プラスチックにも良い面がある。今私たちに必要なのは、両面を見てうまく付き合っていく知恵やアイデアなのではないだろうか。
【参照サイト】The Ellen MacArthur Foundation
【参照サイト】New Plastics Economy
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