「つながり」を取り戻す教育。バリ島にある、竹でできた学校「Green School」

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インドネシアのバリ島には、世界中から大人気のインターナショナルスクールがある。それが「Green School」(グリーンスクール)だ。創立者はカナダで生まれ育ち、20代の頃にバリへと移ってきたJohnである。自然や人との「つながり」をコアバリューに掲げるグリーンスクールは、竹林の中にあり、竹でできた壁のない教室で、生徒と先生、親、地域コミュニティを巻き込む授業内容が特徴だ。

今回同校を訪ね、教育内容やグリーンスクールが目指している未来、竹の建築などについて話を聞いてきた。

学校での学びと現実社会を「つなげる」授業

バリ島の人気観光地ウブドから、車で1時間ほど走ったところにある、グリーンスクール。キャンパスには、幼稚園から高校まであり、35カ国以上から400人を超える生徒が通う。多くはインドネシア国外からの子どもたちで、現地出身者は10%弱くらい(2019年4月取材当時)。

グリーンスクールの教育内容はすべて、「コネクション(つながり)」というキーワードに基づいている。この言葉には、自然とのつながり、人とのつながり、どちらも含まれる。

グリーンスクールの正面玄関

グリーンスクールの正面玄関

そんなグリーンスクールのカリキュラムには、数学や言語などの通常の科目に加え、起業家精神を養うための授業が含まれている。グリーンスクールに通う生徒にインタビューしたところ、授業の一つに、友だちとグループになり、いまは世の中にないが、あるといいと思うものを考えるビジネスクラスがあるそうだ。欲しいものを生み出すには、どういった素材が必要なのか、どのくらいの時間やお金がかかるのかなどを調べ、学校にあるゴミを使ってプロトタイプを作り、クラスでプレゼンをし、フィードバックをもらうことで、改善を重ねる。

ほかにも、現地で採れる材料でチョコレートを作って味をアレンジし、学校内にあるファーマーズマーケットで売る授業もあるという。このファーマーズマーケット自体も、先生にやらされるのではなく、生徒たちやその親によって自主的に運営されている。クラス全体で、会計、料理、マーケティング担当などを決め、自分が貢献できるところで活躍する。

これらの授業を通して生徒たちは、先生や親、地域の人々とつながりながら、世の中に新しい価値や製品を生み出している。

校内にあるファーマーズマーケット

校内にあるファーマーズマーケット

さらに、起業家マインドを育む授業だけではなく、校舎というハード面と授業内容というソフト面の両方から環境に配慮した学校作りになっている点も特徴の一つだ。ドイツの大学やパリの会社等と協力し、学校全体でオフグリッドを目指したり、コンポストトイレを設置したり、ガーデンで育てた米を収穫し調理したりと、自然と調和した生活を目指している。

食べ残しやバナナの葉などに分別して入れられるゴミ箱

食べ残しやバナナの葉などに分別して入れられるゴミ箱

これらのカリキュラムは、フィンランドのメソッドをベースにし、膨大なリサーチに基づき決められている。「何を教えるか」という”What”の部分だけではなく、「どう教えるか」という”How”を大事にし、授業で学んだことを毎日の生活の中で実際に適用できるような仕組みになっている。

大学に行くことを目的とするのではなく、世界は自分でコントロールできるということをわかってもらうために、子どもたちに好きなことを好きなように学ばせる。それが彼らの幸せにつながると考えているからだ。

制約の中からクリエイティビティを生み出す建築デザイン

グリーンスクールは、教育内容だけではなく、学校の外観でも多くの人を惹きつけている。竹で作られた教室には壁がなく、ホーリズムを実践する場所として最適だ。

壁のない竹でできた教室

壁のない竹でできた教室

これらをデザインしたのは、バリ島のデザイン会社Ibukuだ。その創業者Elonaは、グリーンスクール創設者Johnの娘である。彼女は長年勤めてきたニューヨークのファッション業界を離れ、バリ島からサステナブルデザインを世界に広めようと生まれ育った地でデザイン会社を創業した。

彼女が主に使う素材は、「強さ」「美しさ」そして「柔軟性」を備える竹だ。世界で最も早く育つ植物の一つで、吸収した二酸化炭素を内部に貯めておけるので、環境にもいい。昔から短期的な建築のみに使われてきた竹だが、新しい処理方法を適用することで、より長期的に耐える素材となる。

竹林の中にある学校。遊具も竹でできている

竹林の中にある学校。遊具も竹でできている

竹という素材そのものだけではなく、収穫、トリートメント、そしてデザインにいたるまで、一つひとつにこだわりがある。竹は、インドネシアのバリ島とジャワ島の村や山から適切に選び、農家から購入する。その際、成熟した竹のみを採取するように、農家に指導している。竹を入手したら、シロアリなど虫から守るため、ホウ素を使用し内部のグルコースを抑えるトリートメントをおこなう。そして、人を驚嘆させるデザインは、「竹」という素材の制約があるなかで、「なぜドアは長方形なのか?丸いのはダメなのか?」と既存の概念に疑問を投げかけ、新たなものを創り出す工程で生まれている。

丸いドア

丸いドア

同じマインドを持つ人々が集まる「Green Village」

グリーンスクールを作ったことで、周りに家やレストランが建ち、その一帯がコミュニティ化した「Green Village」(グリーンビレッジ)も出現した。森と川に囲まれた静かな環境にそびえ立つ、竹でできたヴィラやハウスには、現代社会のストレスから逃れ、サステナブルで快適な生活を求める世界中の人々が住んでいる。

川沿いにある家

川沿いにある家

キッチンやトイレ、机など、ハウスの内装や家具もほぼすべて、竹や自然素材でできている。

グリーンビレッジにある家の内装

グリーンビレッジにある家の内装

自然に囲まれて快適な生活を送りたい人におすすめしたい。

「つながり」が切断された人々が向かう先とは?

生徒が自ら考え、自分の生き方を決める。そんな教育方針を掲げ、自然や人との「つながり」をコアバリューにしているグリーンスクール。

グリーンスクールとグリーンビレッジが持つ「つながり」や「コミュニティ」というコンセプト、そして、自然の中に開かれたデザインである竹の建物に、世界中から多くの人が惹きつけられる。

実際に訪れてみると、竹でできた巨大な建築物の美しさに息を飲む一方、ウェブサイトだけからでは決してわからない現実についても、知ることとなった。グリーンスクールもグリーンビレッジも、見学ツアーを行っており、連日ほぼ満員なほど、日々多くの観光客が訪れている。

また、グリーンスクールには、ローカルとの強い「つながり」を保つため、学生の20%はバリ出身者にする方針があるが、実際は10%未満である。グリーンビレッジにある18棟すべても、海外出身者が所有し、うち現在住んでいるのは2棟だけで、他はレンタルされており、ビレッジ自体にあまり人の活気を感じなかった。観光客が多いことや地元出身者が少ないことが悪いと言いたいわけではないが、より多くの地元の人に通ってきてもらったり住んでもらったりするという点では、もしかしたら課題があるのかもしれない。

理由の一つとして筆者が考えたことは、きっとバリ島の人にとって、竹でできた家も、自然や人と「つながり」のある生活も、目新しいものではないのだろう。日本の田舎で暮らしていても、自然や地域コミュニティとの「つながり」は自然発生し、それなしには生きていけない。都会で生活し、便利になった暮らしと引き換えに、そういった「つながり」を失ってしまった人こそ、そこに再び価値を見出すことができる。

「つながり」や「コミュニティ」を仕組みとして意識的に作り出さない限り、取り戻すことができない社会になってしまった今、人は再びその「つながり」を世界中のどこかに求め続けていくのだろう。「つながり」をコアバリューにしたグリーンスクールが海を越えて世界中からこんなにも人気なのは、「つながり」を失った人々が多い現実を映し出しているのかもしれない。

【参照サイト】Green School
【参照サイト】Green Village
【参照サイト】Ibuku
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