近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。
ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。
前回は、「サステナブルなイベント」をテーマに、活気を取り戻した各地のフェスなどで見られるサステナブルな取り組みを紹介した。今回のテーマは「エシカルなカフェ」。ヨーロッパを旅行する際にぜひ訪れてほしい、各地のこだわりが詰まった店を見てみよう。
【イギリス】ロンドン初・カーボンネガティブなコーヒーショップ「Kiss the Hippo」
ロンドンに5つの店舗を構える「Kiss the Hippo」は、コーヒーの分野におけるファーム・トゥ・テーブル(農場から食卓へ)のムーブメントの先駆者であり、事業をすべてカーボンネガティブになるよう運営している。つまり活動によって生み出されるCO2よりも多くのCO2を環境から取り除いているのだ。
彼らのサステナブルな取り組みは、フェアトレードの仕組みの導入や、店舗での100%再生可能エネルギーの使用にとどまらない。廃棄されてしまう食品を割安で提供するプラットフォームToo Good To Goと協力して売れ残った商品を地元の慈善団体に寄付したり、コーヒーかすをバイオ燃料に変換する企業bio-beanにコーヒーかすを送ったりと、他団体とのコラボレーションを通しても行われている。
Kiss the Hippoのコーヒーはすっきりとした味わい。サワードウやアーモンドバタートーストなどのパンもぜひ味わってみてほしい。
【参照サイト】Kiss the Hippo
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【オーストリア】おばあちゃんの手作りケーキが大人気。高齢者の社会生活を支援するカフェ
ユネスコの無形文化遺産にも登録されている独特のカフェ文化を持つウィーン。そんなウィーンの4区にある「Vollepension」は、ほかとは少し違う特徴のあるカフェだ。ここではスタッフの半数が65歳以上の高齢者で構成されており、提供するケーキ類は、そこで働くおばあちゃんの手作りだ。
カフェは「子供の頃に食べたおばあちゃんの手作りケーキを出すお店」という創設者のアイデアのもと2015年にオープン。スタッフ募集の際は、お店で出すケーキをおばあちゃん世代に焼いてもらおうと、年金生活者などの高齢者を対象とした。すると多くの応募があり、面接を通じて年金生活者の多くが生活に十分な年金を受給していないことが判明。カフェは、こうした高齢者へ年金の足しになる収入を得られる場を提供するとともに、少ない収入で外出もままならず孤立する人たちへ、仕事を通じて同世代や若者と交流してもらおうとスタートした。
Vollpensionの内装は「キッチュ」がテーマ。カラフルなミスマッチ家具に、食器類はヨーロッパのおばあちゃん世代からゆずりうけたような懐かしい花柄のものばかり。そして、おばあちゃん・おじいちゃんが店を訪れた若い世代と談笑しながら、忙しく動き回る店内。オープン以来大人気でいつも満席だ。そのコンセプトは大きな注目を集め、2019年には市内の大学内にブランチをオープンした。
【参照サイト】Vollepension
【ドイツ】客室乗務員が経営するカフェ「Nomad Heidelberg」は、多くの人が集う家
ドイツ南西部のハイデルベルクに、3店舗を構えるカフェ・レストラン「Nomad Heidelberg」。カフェの経営者は、スナさんとエリスさん。スナさんは、ルフトハンザ航空の客室乗務員でもある。世界中のカフェを訪れてきたスナさんは、「私はいつも旅先で、なにか特別なものを提供する小さなカフェや、小さな路地にあるオーナー経営店舗などにたどり着く」と語る。
二人は、厳選した小規模生産者との長期的なパートナーシップが重要だと考える。可能な限り、オーガニック認証、または世界で最も認証基準が厳しいといわれるドイツのオーガニック認証の一つ「デメター認証」を受けた製品を調達。果物や野菜は、市内の農園から調達し、公式サイトでそれぞれのサプライヤーも公開している。
Nomad Heidelbergは、「単なるカフェではなく多くの人が集う家」。そうオーナーの二人は考えている。最近は、コンサートなどのイベントのほかに、市内の川辺でのヨガ教室・同店でのブランチのパッケージを頻繁に提供している。
店内で排出されるごみの抑制にも取り組んでいる。ドイツでは2023年1月から、持ち帰り用の食料・飲料品を販売する一定規模以上のレストラン・カフェ・ケータリングなどに対し、リユースカップ・容器を顧客に提供する選択肢を設けることが義務付けられている。同店はそのはるか前の2017年に、リユース容器を導入した数少ない飲食店の一つだ。ハイデルベルクを訪れた際、さまざまな想いがつまったNomad Heidelbergを訪れてみてはいかがだろうか?
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【参照サイト】Nomad Heidelberg
【オランダ】生産の地と愛飲者をつなぐ「Uncommon」で旅をするようにコーヒーを味わう
オランダ・アムステルダムのおしゃれな若者で賑わう地区アウド・ウェストの一角に、ひときわセンスが良く居心地が良いカフェがある。「Uncommon Amsterdam」だ。
その空間だけでなく、提供されるコーヒー生豆にもこだわりがある。8割から9割がオーガニック認証や同等の認証を受けたもので、すべてのコーヒーの味や育て方などにストーリーがあり、これらを伝えることが、農家とコーヒーを飲む人々をつなぐ、というのがUncommonの考え方だ。
ここでは、同じくオランダに拠点を置くコーヒー生豆のオンラインマーケット「TYPICA」から仕入れをおこなっている。TYPICAは小規模生産者とロースターをつなぐことで直接取引を可能にし、コーヒー生産者の収益性確保と、高品質なコーヒーのサステナビリティ向上を実現するプラットフォームだ。アムステルダムにいながら、コーヒーの生産の地について知り、まるで旅をするように楽しむことができる空間にぜひ足を運んでほしい。
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【参照サイト】Uncommon Coffee
【関連記事】産地とつながるダイレクトトレード。コーヒー生豆流通のDX「TYPICA」
【フランス】サステナビリティ評価で最高得点に。地元で愛されるパティスリー「Emma Duvere」
パリにあるパティスリー「Emma Duvere」は、100%手作りの高品質なケーキやパンを提供する洋菓子店兼カフェだ。創業者のエマさんは、顧客の健康と環境に責任あるサービスをモットーとして2015年に店を立ち上げた。季節の素材やオーガニック中心の地元素材を使った製品は、健康のために砂糖の量を抑え、適正な価格で提供している。
Too Good Too Goアプリを利用した食品ロスの削減や、持ち込み容器やリターナブル食器の活用で廃棄物の削減にも努めている。2021年にはその功績が認められ、ミシュランガイドの環境版ともいわれるフランスの「ecotable」から最高得点を得た。
アフタヌーンティーセットでは、高品質でオリジナルなオーガニック紅茶専門店「Thé Vérantis」の紅茶、または、共同焙煎所も提供するエシカルコーヒー専門店「The Beans on Fire」のコーヒーと、オーガニックジュース専門店「Le coq toque」のフレッシュジュース、そして、すべて手作りのパンやケーキ、クッキーなどを楽しむことができる。パリの地元住民から愛され、多数メディアでも絶賛されているEmma Duvere。有名な観光地のバスチーユ広場からも近く、パリ観光の休憩にぜひおすすめしたい。
【参照サイト】Emma Duvere
編集後記
容器やフードロスといった飲食にかかわる規制が進むヨーロッパ。それらを制限とは捉えず、積極的に取り込んでいくことで人々から愛されるお店になっているところも多いようだ。また、お店で過ごす時間が誰かの生活に役立っている、心の支えになるかもしれないと思うと、何度も足を運びたくなるのだろう。
旅先で疲れてひと息つきたいとき、せっかくならその地元にしかないこだわりのカフェに行きたい人も多いのではないだろうか。その店が、環境に配慮した素材を使い、地元の人々の暮らしに貢献できるような場所だったら、きっと旅の思い出のひとつになるはず。次の旅行で、ぜひ実際にお店を訪れてみては。
Written by Megumi, Yukari, Ryoko Krueger, Kozue Nishizaki, Masae
Presented by ハーチ欧州
ハーチ欧州とは?
ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。
事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact
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