近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。
ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。
前回は、「サーキュラーエコノミー法規制」をテーマに、地域や国を単位に設けられている数々のサーキュラーエコノミーに関連する法規制に対し、実際の市民の生活はどのように変化しているのかについて、ご紹介した。今回のテーマは2月14日のバレンタインデーに合わせた、「サステナブルなチョコレート」だ。プレゼントされる人と社会が笑顔になる、各国のソーシャルグッドなチョコレートを紹介する。
【フランス】消費者が全てを決める食品ブランド。アグロエコロジー農法を採用した板チョコ
2016年にフランスで立ち上げられた食品ブランド「C’est qui le Patron ?!(誰がボス?)」は、消費者が全てを決める権利を持つ、ユニークな企業だ。1ユーロを支払うと意見を言える仕組みとなっており、ブランド側は味から包装、成分に至るまで様々な側面についてそれらの出た意見をもとに、商品を作っていく。消費者を製造プロセスに巻き込むことで、質の高い製品を公正な価格で提供することを目的としている。
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原材料を供給する生産者や農家に公正な報酬を支払うことにも取り組み、チョコレートを製造する際には、森林伐採に対抗するためのアグロエコロジー農法を採用。カカオはコートジボワールで栽培され、カカオ豆はそこでカカオペーストに加工されるが、チョコレートの製造自体はフランスで行われている。ブランドの広告費はゼロのため、生産者に多くを還元できることも特徴だ。
毎年、フランス人は一人当たり平均7.3キログラムのチョコレートを消費すると言われている(※)。2021年10月には「フランスの持続可能なカカオイニシアティブ(IFCD)」が設立された。政府、産業企業、流通業者、市民社会団体、カカオおよびチョコレート産業に関わる研究機関が協力し、2030年までにカカオ産業をより持続可能なものにすることを目指している。フランスでも、業界全体が大きな変革のときにあるとも言えるだろう。
※ Chiffres clés 2021 du secteur
【参照サイト】Première année de l’initiative française pour un cacao durable
【参照サイト】Le chocolat des consommateurs !
【スペイン】身体にも、社会にもヘルシーなBean to Barを目指す「KAICAO」
カカオ豆の仕入れから商品化までを一貫し、チョコレートの製造を行うBean to Bar(ビーン・トゥ・バー)のチョコレートは、スペインでも近年人気を集めている。
すべての人の手に届くBean to Barブランドを目指し、首都マドリードの移民街に店舗兼製造所を構える「KAICAO」もその1つだ。カカオの産地、焙煎、熟成などにこだわっているが、ほかのブランドと異なるのはデーツを甘味料として使っているところ。濃厚な甘みが特徴で、食物繊維やカルシウムなど栄養価が高いデーツを使うことでよりヘルシーなチョコレートの選択肢となっている。
また、公正な価格で取引を行うことでカカオ農家の生活を支えるだけではなく、さらにサステナブルなチョコレート業界をつくることを目指している点にも注目したい。チョコレート製造には使用されないカカオの実や殻をアップサイクルし、カカオフラワーや、ジュースをつくる実験も行う。商品化できれば、農家はさらに収入を増やすことができる。ヘルシーなチョコレート業界をけん引できるのか、今後の動きに注目したい。
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【参照サイト】KAICAO: excellent bean-to-bar chocolates made in Lavapies
【オーストリア】ライフサイクルすべてがサステナブル。「Zotter」のこだわり
オーストリアのステリア地方に工場を構えるZotterは、チョコの「ライフサイクル」全体におけるサステナビリティを重視するチョコレートメーカーだ。
オーナーZotter氏が設立したこの会社は、100%オーガニック・フェアトレード認定材料からチョコレートを製造する、欧州初のメーカーとしてスタートした。また「カカオ豆から板チョコ」まで全てを自社で扱うBeαn to Barであることでも知られている。カカオは、オーナー自ら現地に出向き、質や栽培法・現地労働者の条件などもチェックした上で、カカオ農家から直接仕入れる。また、農家がカカオの品質を優先に生産できるようにとの配慮から、カカオのグローバル標準市場価格より高値で取引し、地元農家との信頼関係を築いているという。
サステナビリティへのこだわりは原料だけでなく、製造過程でも実践している。例えば、生産ラインは太陽光と地熱からの電力で稼働。カカオ豆の殻は、熱エネルギー回収や野菜用の肥料としてリサイクルする。チョコレートのパッケージには、再生可能素材を用いたバイオプラスチックを使用。会社の配達用自動車は現在オール電気化への移行が進行中だ。
こうした取り組みにより、Zotterは数々のサステナビリティ認定証を取得、その功労に対し国内外でも表彰を受けている。オーナーの目で厳選されたハイグレードなカカオ豆から作られたチョコレートは、オンラインで購入できる。工場は訪問も可能で、チョコレートがカカオの種類に合った最適な方法で製造される過程を見学しながら、テイスティングも楽しめる。
【参照サイト】Zotter
【オランダ】チョコレート産業の甘くない現実を伝え、より良い変化をけん引する「Tony’s Chocolonely」
オランダ発の「Tony’s Chocolonely」は、サステナブルなチョコレート産業の実現を目指すブランド。カカオ産業における強制労働や児童労働といった問題に対して真っ向から立ち向かうことをミッションとしている。彼らのビジョンは、「100%奴隷のいないチョコレートの世界」を実現することであり、そのために、トレーサビリティと透明性を重視したサプライチェーンを構築している。
Tony’s Chocolonelyは、カカオ農家と直接取引を行い、公正な報酬を保証することで、持続可能な農業実践を支援している。製品のパッケージにも独自性を持たせ、カラフルで目を引くデザインを採用することで消費者の注意を引く。問題提起をするとともに、チョコレートの楽しさも忘れてはいないことを示しているのだ。さらには他のチョコレート製造企業にも自らのサプライチェーンを公開することで、産業全体としての変化をけん引する。
バレンタインデーに際し、Tony’s Chocolonelyのチョコレートを贈ることは、甘いギフトを手渡す以上の価値を持つ。オランダをはじめとするヨーロッパ各国で愛されるこのチョコレートは日本でも一部の製品が販売されているため、このバレンタインデーにギフトとして贈ってみるのはいかがだろうか。
【参照サイト】Tony’s Chocolonely
編集後記
チョコレートの主原料であるカカオは、貧困、児童労働、森林破壊といった深刻な問題を抱えている。これに対し、世界各地の製菓業界は問題解決へ向けた取り組みを進めているが、サプライチェーンの透明性確保や公正な報酬支払いなど、未解決の課題もまだ多い。
Bean to Barを目指すスペインの「KAICAO」や、オーナー自ら現地に出向き、カカオを農家から直接仕入れるオーストリアの「Zotter」のように、作り手が生産地との距離を縮めることが重要であり、同時にフランスの「C’est qui le Patron ?!」のように、消費者自らが知ろうとする・声を上げる姿勢も大切だ。
身近な人に日頃の感謝や愛を伝える機会でもある、バレンタインデー。そんな日をきっかけに、贈り物で大切な人に「気付き」を与えることができたら、素敵ではないだろうか。
Written by Erika Tomiyama, Risa Wakana, Yukari Fujiwara, Kozue Nishizaki
Presented by ハーチ欧州
ハーチ欧州とは?
ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。
事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact
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