社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン、IDEAS FOR GOODの編集部が選ぶ、今月の「ちょっと心が明るくなる世界のグッドニュース」。前回の記事では、ヒマラヤ山脈でごみを回収するドローンや、本の形をした読書ベンチの話題を紹介した。
日々飛び交う悲しいニュースや、不安になる情報、ネガティブな感情ばかりを生む議論に疲れたあなたに。世界では同じくらい良いこともたくさん起こっているという事実に少しのあいだ心を癒し、また明日から動き出そうと思える活力になれば幸いだ。
愛に溢れた世界のグッドニュース5選
01. スウェーデンの島で開催された「ダサい芝生」コンペが節水を促す
緑が豊かでゆっくり過ごすことができる公園といえば、寝転ぶことができる芝生は欠かせない。しかし、それを維持するためには多くの水が必要となる。特に夏場は乾きやすいため、あの広い場所全体に水をやることは一苦労だ。最近はスプリンクラーが設置されていることも多いだろう。
一方スウェーデンの離島・ゴットランド島では、欧州で進む水不足を考慮して、むしろ水やりをしなくても良いように「カッコ悪い」芝生にするコンペが開催された。地元の芝生の中で、最も「カッコ悪い」芝生を作り上げた人が優勝する。青々とした芝生を維持するための水やりを贅沢と捉え、芝生を乾燥・日焼けさせ、自然がみずから再生していく過程に任せるという取り組みだ。
きれいな芝生を維持できないのは恥ずかしい──そんな気持ちを地域全体で取り払い、より環境にやさしい取り組みに転換するきっかけとして、このイベントは大いに貢献するのではないだろうか。
【参照サイト】Why are these two Swedish islands competing which has the ugliest lawn?
02. ゼロウェイストシェフ考案、冷凍食材が暑さ対策になるアイデア
今年もかなり暑い夏となった。そんな夏に心配になるのが、腐りやすい食材の管理だ。腐敗を防ぐために、食材や料理を冷凍していた人も多いだろう。一方で、それを解凍する手間がかかるのが難点だ。
ゼロウェイストシェフとして活動するAnne-Marie Bonneau氏が、冷凍食材についてSNSで紹介したライフハックが話題になっている。解凍したい容器をファンの前に置いておくと、室温で解凍しながら家を涼しくすることができるというのだ。夏のヒートウェーブを乗り越えるのに役立つアイデアとして支持を集めていた。
電子レンジに解凍モードが搭載されていることもあり、つい急いで冷凍食材を電子レンジに入れてしまうことも多い。追加のエネルギーを使って解凍するよりも、室内を冷やしながらゆっくりと解凍した方が、環境負荷を抑えながら、暑すぎる夏を穏やかに過ごすことができそうだ。
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03. 下半身不随になったシェフを救った、一つの椅子
交通事故は、人生を一瞬にして変えてしまう。オーストリアのシェフ・Peter Lammer氏もその一人だった。10年前の事故により、下半身はほとんど動かない状態になり、立ち仕事への復帰は難しいだろうと診断されたという。シェフとしての道が、途絶えそうになった。
しかしここで、同氏の友人・Bernhard Tichy氏が立ち上がった。Tichy氏は自身が運営するジップラインのコースから着想を得て、天井からぶら下がる形の椅子を開発したのだ。その名も「Standing Ovation(スタンディング・オベーション)」。自転車のサドルの形をした椅子が天井から吊り下げられ、利用者はその椅子に座って宇宙飛行士のように少し浮遊しながらキッチン内を移動する。杖などで支える必要がないため、両手を自由に使って作業することができるのだ。
技術を異なる用途に転換することで、誰かの人生を支えるものが生まれる可能性がある。そんな視点は、私たちに希望を与えてくれるだろう。
04. 世界初、ダウン症のある弁護士が誕生
狭き門として知られる、法律の専門家の世界。法学部で学ぶだけでなく、さらなる専門知識の獲得が必要とされるのだ。そんな信頼される存在の中に、これまでダウン症のある弁護士は存在していなかったという。しかし今年、歴史的な変化があった。
2024年夏、メキシコ出身のAna Victoria Espino氏が、世界で初めてとなるダウン症のある弁護士となったのだ。メキシコでは法科大学院での5年間の課程を修了することで弁護士とみなされる。同氏は大学院の卒業をもって、晴れて弁護士になる夢を叶えることとなった。
弁護士は、困難な状況にある人を救う立場になることが多い。より多様な視点を持つ人々が弁護士として活躍できるようになれば、より多くの人が安心できる社会も築かれていくかもしれない。
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【参照サイト】Meet Ana Victoria Espino, the World’s First Lawyer With Down Syndrome
05. 絶滅の危機を乗り越えた渡り鳥に、小型飛行機で「渡り方」を教える
中央ヨーロッパで300年以上にわたって絶滅状態にあったホオアカトキ。近年、研究者らの努力によりその数が回復しつつあるという。それでも、彼らは人間を親と捉えて育っている。どのようにして、ホオアカトキは渡り鳥として長距離を移動する術を身につけるのだろうか。
生物学者のヨハネス・フリッツ氏は、あるユニークな方法を考案した。背中に小さなモーターがあり、黄色いパラシュートを備えた小型飛行機で渡り鳥を導くというものだ。実際に、2024年は36羽のホオアカトキが小型飛行機に先導され、オーストリアからスペインへの移動を試みている。総距離2,800キロメートル、最大50日におよぶ。動力機には育ての親である研究者が乗っており、トキたちに声をかけながら飛行する。今年で17回目の挑戦だ。
最初に育てた世代はすでに野生で繁殖しており、人間から学んだ移動の道のりを子孫に教えていた。しかし、気候変動により状況が変化し、人間による飛行のサポートが必要となったそうだ。いずれは、人間の助けを必要とせず自立して自然界で生きることが理想であるはず。再び絶滅の危機に至らぬよう、気候変動対策と自然の回復、どちらも重要な活動であることを思い出させてくれる取り組みだ。
【参照サイト】Humans teach birds, that were reintroduced to Europe after extinction, how to migrate
【参照サイト】This bird came back from extinction – now scientists in an aircraft are teaching it to migrate