生産者と私たちをつなぐ橋渡し的な存在を果たすレストランが今、変革の時にある。飲食業界のあり方を変えていくため、日本でより多くの飲食店・レストランがサステナビリティに配慮した運営ができるよう支援するのが、日本サステイナブル・レストラン協会(以下、SRAジャパン)だ。
SRAジャパンは、食のアカデミー賞と称される「世界のベストレストラン50」でサステナブル・レストラン賞の評価も行う英国本部と連携し、格付けやキャンペーンを実施。サプライヤーやレストラン、消費者コミュニティの構築を通して、フードシステムの課題解決に取り組んでいる。
そんなSRAジャパンが2024年11月18日に「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2024」を開催。英国サステイナブル・レストラン協会が提唱する「FOOD MADE GOODスタンダード」に基づき、食材の調達・社会への影響・環境配慮への3つの視点で、加盟店の中から特に優れたサステナビリティへの取り組みを行った飲食店を表彰するものである。
レストランのサステナビリティに関しては、もともと欧州がリードしていたが、最近ではアジアも牽引しているという。サステイナブル・レストラン協会の支部も香港から立ち上がり、今では台湾やシンガポールまで広がっている。SRAジャパンでは、グローバルでも連携をしながらマーケティングにも力を入れており、2024年度では8店舗が新規加盟している。
今回の授賞式はザ・キャピトルホテル東急で行われ、加盟店やパートナーなど総勢200名を超える参加者が集まった。会場では、能登半島地震や豪雨で影響を受けた生産者の支援や、ヴィーガン料理なども振る舞われ、サステナブルな食を体験しながら交流が生まれる場となった。
能登半島地震の被災地で、料理人だからできたこと。被災地での食の大切さ
今年度のSRAの活動の中でも、大きかった出来事は2024年1月1日に起こった、能登半島地震。SRAの加盟店であり、能登に店を構える「日本料理 富成」のシェフである冨成氏は、地震で停電となり、地元のスーパーで食材が徐々に傷んでいく状況に遭遇し、即座に炊き出しを思い立つ。そして、一番最初に連絡したのがSRA代表理事の下田屋毅氏だったという。下田屋氏は即答で協力を決意。SRAジャパンの他の加盟店も協力し、炊き出しや寄付活動を展開した。
冨成氏は「被災地での食の支援がまだまだ足りないと実感しました。実際に料理人が入った避難所では温かい食事が提供されたが、そうでない場所では缶詰などしか出ていませんでした。日本における被災地の食の支援の仕組みづくりをすることがこれからの目標となりました」と、今後の決意を語った。
冨成氏の店舗は改装工事を経て、現在は2025年夏の再開を目指している。自身も被災しながら、料理人として被災地の人々の健康を支えたその姿勢が評価され、特別社会貢献賞を受賞した。
大賞は、PIZZERIA GTALIA DA FlLIPPO(東京都練馬区)
今回、FODO MADE GOOD Japan Awards 2024の大賞に輝いたのは東京練馬区にある、PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO。調達・社会・環境評価部門のそれぞれで高得点を獲得し、昨年に続いての大賞であった。
同レストランは能登半島地震発生後、練馬区を起点とした支援物資の提供や、水害以降は輪島市での炊き出しを行なっている。
PIZZERIA GTALIA DA FILIPPOの歌川氏は「即行動することをみんなでやっていくことを強化した一年だった。生きていく上で大切なことをより強めた運営、覚悟を持った運営をやっていくことをしていきたい」と、強い意志を言葉にした。
また、BEST調達賞には熊本県熊本市のantica locanda MIYAMOTOが選ばれた。以前からSRAジャパンとやり取りをしていて、今年SRAジャパンに参加したという宮本氏は、「熊本の赤牛をメインにする中で、20年ほど地産地消に取り組み、これまで50件ほどの生産者が出入りしています。サステナビリティの話をすると『守る』という言葉が出るかもしれないが、僕らは地元の阿蘇の土地を生かすことを、地元の生産者と繋がりながら、ただ当たり前にやっているだけなんです」とコメントした。
また、他にもBEST社会賞には東京都練馬区のOPPLA’! DA GTALIA、BEST環境賞には東京都千代田区のオールデイダイニング「ORIGAMI」、BESTフェアトレード賞に京都府京都市の小川珈琲 本店、そしてBESTリサイクル賞には、千代田エリア(ザ・キャピトルホテル 東急 オールデイダイニング「ORIGAMI」や中国料理 「星ヶ岡」、日本料理 「水簾」などを含む)が選ばれた。
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【大賞 ファイナリスト】
OPPLA’! DA GTALIA(東京都練馬区)
オールデイダイニング「ORIGAMI」(東京都千代田区)
antica locanda MIYAMOTO(熊本県熊本市)
cafe rest montrose(広島県福山市)
サステナブル・シーフードをテーマにコンテストを開催
今回は他にも、次世代を担う30歳以下の調理師・製菓衛生師養成施設の学生・調理師・料理研究家を対象に、「サステナブル・シーフード」をテーマとしたレシピコンテストが実施された。
乱獲や気候変動の影響など、水産資源を取り巻く状況は年々深刻さを増す一方で、環境や社会に配慮したサステナブル・スローフードの取り組みも広がっている。審査の基準になったのはサステナブル・シーフードとの適合性に加え、サステナビリティ「変える力」、クリエイティビティ「伝える力」、プレゼンテーション「魅了する力」の3つの要素。
最優秀賞を獲得したのは、「d’ici」の橋本元輝氏。橋本さんは近年、海水温の上昇により冬でも活動が活発なった黒鯛が養殖海苔の食害として千葉や徳島で問題になっていることに注目。黒鯛や牡蠣、海苔、徳島の豊かな食材を使い、火入れは炭火のみを使用した調理工程でサステナブルな一皿に仕上げた。
審査員となったPIZZERIA GTALIA DA FILIPPOの岩沢氏は「ただ美味しいものを作るだけじゃなくて、産地に足を運ぶなど、裏側を感じる機会も多かったのではないでしょうか。社会課題はそうした生産者さんたちとのつながりなしには解決できない」とコメントした。
食は単なる営みではなく、文化そのもの
「食べること」は、私たちの生活に密接に関わる行為であり、その裏には気候変動や水産資源の減少、農薬による土壌汚染、労働環境の過酷さなど、さまざまな課題が潜んでいる。これらの問題は、一つひとつが深刻でありながら複雑に絡み合い、フードシステム全体の再構築が求められている。
FOOD MADE GOOD Japan Awards 2024は、こうした課題に対する具体的な解決策を提示する場としても、多くの示唆を与えた。被災地支援や持続可能な調達に尽力したレストランの活動は、ただの営業努力にとどまらず、社会全体にポジティブな影響をもたらす力を持っている。能登地震の際、加盟店が迅速に連携し被災地を支えた事例は、フードシステムの強固なコミュニティの存在を示すものであり、その持続性とレジリエンスの重要性を改めて認識させられた。
食は単なる営みではなく、文化そのものであり、命をつなぐ根幹である。私たち一人ひとりが「食の責任」を再認識し、持続可能な選択を積み重ねていくことで、このムーブメントが広がっていくだろう。
【参照サイト】日本サステイナブル・レストラン協会