2030年の未来のレシピに必要な視点とは?Creative Chefs Box 2030【レポート】

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2030年の食卓を想像したことはあるだろうか?

現在のフードシステムは、生産された食料の多くが都市に運ばれ、加工・消費される。その過程では、多くの廃棄部分や副産物、汚水が発生しているが、本来それらは、土に還すことで有機肥料となって豊かな土壌を作り、次の生産につながるという循環がうまれる。しかし現代では、都市で発生した廃棄物の2%しかその循環に活用されていないという。その要因の一つとしては、物流の発達によって生産から消費までの距離であるフードサプライチェーンが長くなり、それぞれが分断されていることがあげられる。

食を取り巻く問題を解決するため、レストランを中心にサステナブルな食の未来をデザインすることを目指した日本サステイナブル・レストラン協会(以下SRA-J)は、IDEAS FOR GOODと共同で、2021年7月から世界食料デーの10月16日までの期間、「Creative Chefs Box2030」を開催。企業や消費者、シェフや調理師専門学校といったさまざまなステークホルダーを巻き込みながら、若手シェフや、調理師専門学校の生徒を対象に2030年の未来のレシピ公募コンテストを行った。

本記事では、期間中に行われたオンラインイベントの内容や、未来のレシピの受賞作品をレポートする。

食の選択が、地球の未来を変える

食を取り巻く環境問題は、水産資源の枯渇や、耕作放棄地の増加、異常気象による農地被害など多岐に渡る。食料資源の枯渇により、今後食べられる物も変化していくことは間違いない。SRA-J担当者はこうした課題に対して、「ここで議論されているさまざまな問題は、遠い未来の話でも、違う惑星の話でもなく、私たちが生きているこの地球上で、まさに今、現在進行形で起こっている問題である。そしてそれは、人間活動や経済を優先させてきたこれまでのフードシステムに要因がある。」と語る。

「現代の私たちのフードシステムは衰退しつつあります。『食』とは、私たちの健康のために摂取するだけのものではなく、私たちが普段の暮らしの中でできる、地球環境を守るための行動そのものなのです。」

未来のレシピ

イベント第一弾:Ode「サスティナブルが、クリエイティビティを刺激する」

7月に開催された第一弾のオンラインイベントでは、東京広尾のミシュラン星付きフレンチレストラン「Ode(オード)」オーナーシェフの生井祐介シェフをゲストに迎え、Odeでのサステナブルな取り組みを紹介しながら、サステナブルレストランを実現する上で大事なポイントをクロストークや座談会で深掘りしていった。

Odeでは、野菜の端を乾燥させてパウダーとして料理に使ったり、鰯の骨や頭も食べられるように調理して提供したりと、営業の中でロスが出ない工夫をしている。生井シェフは「こうしたサステナブルな視点から考える工夫こそがクリエイティビティを刺激し、新しい料理を作り出すきっかけになる」と言う。

フードロス×Ode

また、サステナブルな取り組みをお客さんに「どう伝えるか」が重要だとシェフは言う。

「コース料理の最後に提供されるお茶は、野菜の端材を乾燥させてブレンドした『サスTea』とキャッチーなネーミングをつけてお出ししていますが、お客様からの人気も高いです。『野菜の端を乾燥させて作った茶葉のお茶です』と仰々しく説明されるよりも、サステナビリティとTeaをかけた、遊び心あふれるネーミングで紹介することで、お客様が抵抗感なく、サステナブルなものを選択する機会になっています。」

イベント第二弾:SELVAGGIO「当たり前のようにある地域内の循環」

9月に開催された第二弾のオンラインイベントでは、愛媛県松野町の山奥のピッツェリア「SELVAGGIO(セルヴァッジオ)」の代表・北久裕大シェフを迎え、ピッツァ作りの背景にある工夫や物語について語ってもらった。セルヴァッジオでは地元の松野町で育ったものを積極的に使うことで地産地消を実践しており、例えば北久シェフが食べて感動したという地元の米農家さんのお米や、地元の農家さんに自社農園で土づくりを教わりながら育てた自然農法の野菜やハーブを使用し、朝食やピッツァとして提供している。

また、地方で長年続く薪業者や、陶芸家などと連携をすることで、当たり前のように地域内の循環が実践される点が、古来の風習が残る地方でレストランを営むことの利点だといえよう。セルヴァッジオでは、山の間伐材を地元の薪屋さんが薪にし、その薪を使ってピザを焼いている。ピザを焼くためには多くの薪を使うが、ピザ窯から出た灰はお皿の原料となりレストランに戻ってくる。

セルヴァッジオ

彼らにとって、こうした循環は日常の中で当たり前のように実践され、新しいことをしている感覚はないということが、話を聞きながら伝わってきた。

2030年の未来のレシピに必要な視点とは

Creative Chefs Boxでは、2回のイベントを通じて、2030年のあり方のモデルとなるサステナブルレストランの実践例をインプットした上で、サステナブルなレシピを考える上で意識すべきことを「食品ロスの削減」「より多くの野菜を使用」「低カーボンフットプリント」「ベターミートの使用」「地産地消と旬の食材の推進」「水産資源や生態系の保全に配慮した魚介類の使用」の6つの項目にカテゴライズ。その中から「食品ロスの削減」「より多くの野菜を使用」の2つの基本項目を公募条件としてレシピ公募が行われた。

Creative Chefs Box

全国の調理師専門学校の生徒や飲食店に勤める39歳以下の若手料理人からクリエイティブでサステナブルな多くのレシピが集まり、初年度からハイレベルなコンテストとなったが、12のファイナリストが選考に残り、その中から大賞、macaroni賞に並び、IDEAS FOR GOOD賞が選ばれた。

IDEAS FOR GOOD賞 江口弘展さんの「里山の恵と知恵」

IDEAS FOR GOOD賞は、「食料の無駄をなくす」をコンセプトに考えられた猪肉を使った一皿。

江口弘展さんの「里山の恵と知恵」

江口弘展さんの「里山の恵と知恵」

(以下、紹介文抜粋)

人間は燃料になる薪や家畜の餌となる芝や野草、季節の恵みである山菜などを頂戴し、里山の管理も当然のように行われ野生動物が近づきづらい環境を自然と形成していました。ところが戦後、農業はトラクターなどを用いた機械化が進み、電気、水道などのライフラインの整備、商店などの普及により人間の暮らしは豊かになり、里山の手入れが次第に無くなり野生動物が里山への進出を果たします。里山でのドングリなどの木の実が不作になると人里へと下りてきてしまう現在の悪循環が生まれてしまったのです。

猪肉は一般家庭には馴染みのないお肉ですが今回のテーマでもある2030年の家庭の食卓に当たり前のように並んでいたら、害獣被害も少なくなり、ハンターの方の地位もあがり、昔のように野生動物と人間のバランスを取り戻すことにつながるのではないかと考えました。薪窯の余熱で猪肉に火入れをし、わざわざお肉を焼くために違うエネルギーは使いません。

味付けには、猪肉の端材とお店の営業で出る野菜の端材を使ったブロード(出汁)にイタリア・シチリア島で生まれたお気に入りのワインをイギリスまで持ち帰りたい商人が蒸留酒をワインに混ぜて長期保存を可能にし誕生したと言われるマルサラ酒。塩は手間暇かけた自然製法で作る長崎・五島列島の矢堅目の塩。オリーブオイルはイタリア・シチリア島でいち早く無農薬栽培を始めたティトーネ社のオイルを使用。

    IDEAS FOR GOOD賞コメント
    1日3回の食事は、自然とつながるきっかけとなります。「山と人を分け、かつて循環型の暮らしを生んでいた里山が失われつつある」という問題提起から「ベターミート」と言われるジビエを使い、「害獣被害」「ハンターの地位」などについても考えるきっかけをくれる一品。また、調理方法でCO2削減にまで配慮している点にも学ばせていただきました。食べることを通して、「人は自然の一部であること」を感じることができるお料理だと思います。

コンテスト作品

また、今回の応募作品の中で学生が考案したレシピにも注目したい。ぶどう・枝豆・かぼちゃ・卵・海老をすべて丸ごと使用したベジパフェは、殻や皮にも付加価値をつけて魅了したレシピとして高く評価された。

さらに、在来種を捕食する外来種の急増により川の生物多様性が失われる課題に着目し、外来種であるブラックバスを使用したクネルや、レストラン横に菜園を作り自分で育てた野菜を使用するという「ミニマムな循環生活様式」を体現したラビオリ、廃棄されるパンを独特なアレンジで変身させたパンのデザートなど、クリエイティビティと個性あふれる未来のレシピが多数寄せられた。

「自然が与えてくれた大切な食材。使い終わっても、その中から救ってもう一度命を生み出す方法は無限にあると思います。小さなアクションでも想像力を働かせてクリエイティブに未来の世界を築くレシピを作っていきたいと思います。」というレシピに添えられた若い料理人の熱い想いもあった。

食べて喜んでくれる人がいて初めて、食のサステナビリティを伝えることができる

今回、コンテストの審査員シェフからは、「食べて喜んでくれる人がいて初めて食のサステナビリティを伝えることができ、消費者にとっても考えるきっかけになる。そうしてサステナビリティの考えが浸透していく」というコメントがあり、2030年の”食”のあり方を考えるというポイントでレシピを評価する、新しい評価基準の料理コンテストとなった。

SRA-J担当者はイベントで、「レストラン・シェフが食のサステナビリティの最先端を走っていることを伝えたい。そして彼らがメディアの役割を担っているからこそ、メッセージを料理に乗せて、食べ手に伝えていくべきだと考えています。」と語った。

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