思わず投票に行きたくなる?ヨーロッパの「選挙」にまつわる工夫【欧州通信#31】

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近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は「ロンドンのサステナブルなレストラン・カフェ」をテーマに、循環型の取り組みを行うロンドンのお店を紹介した。今回の欧州通信では、「選挙」を切り口に各国の事例を取り上げる。

2024年は大きな選挙が各国で実施され、また予定されている。6月には欧州議会選挙が行われ、11月にはアメリカの大統領選挙が控えている。また日本でも夏に全国知事選挙や参議院議員選挙が行われる。

このような選挙は国や地域の方針を大きく揺らがせる。投票行為は民主主義の根幹だ。しかし投票率の低さなど、各地で問題が露見しているのも事実だ。

今回の欧州通信では、少しでも選挙に行く障壁を取り払い、また市民が選挙に関心を持てるように工夫を行った、ヨーロッパの事例を紹介していく。

【オランダ】思わず行きたくなる。アムステルダム市内の魅力的な場所が投票所に

オランダでは、行きたくなってしまうような場所を投票所にすることで投票を促している。2024年6月6日に行われた欧州議会委員と大都市の構造に関する国民投票では、アムステルダム市内のユニークな15の場所が投票所となった。

例えば、市の東側に位置するホーフケルクトルハウスタウン。144枚のステンドグラスに囲まれたレンガ造りの歴史的な教会で、1999年から国定記念物に指定されている。デ・ヴェルフふれあい動物園ではヤギやポニー、クジャクなどの愛らしい動物に囲まれながらの投票が可能だ。

中心地では「アンネの日記」の舞台にもなったアンネ・フランクの家で投票でき、南に位置するファン・ゴッホ美術館での投票もできる。さらにはウェースプという街では「Wispe Brouwerij」というビールの醸造所が投票所となっているから驚くばかりだ。

自分の都合や好みに合わせて好きな会場を選んで投票に行ける。市としては、様々な歴史的・文化的・社会的な場を支援することにもつながる。あなたならどこで投票したいと思うだろう。

 

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【フランス】民主主義の強化。代理投票人を探すマッチングアプリ『Plan Procu』

日本の選挙では、投票は基本的に本人が行うが、フランスには、選挙の際に投票所に行けない有権者が代理人を通じて投票できる制度がある。そんなフランスにおいて誕生したのが、選挙の代理人を簡単に見つけることができる、オンラインマッチングアプリ「Plan Procu」である。このアプリは、有権者が選挙当日に投票できない場合に、代理人に投票を依頼する手続きを支援するものだ。

まず、有権者はサイト上で自分の選挙人番号や個人情報を入力し、代理投票を希望する旨を登録する。この情報をもとに、システム側は最寄りの代理投票者と自動的にマッチングさせ、ユーザーに通知する。代理人として登録された人は、依頼者の代わりに投票を行う責任を持つ。Plan Procuは、高度なセキュリティ対策を施しており、選挙キャンペーン終了後にはすべてのデータが完全に削除されるため、プライバシーが守られる点も安心だ。

このアプリは、高齢者や障害のある人々にとって、選挙に参加しやすくなるきっかけとなる。また、旅行などレジャーの予定がある人々も利用が可能だ。

さらに、使いやすさにも重点を置いており、誰でも簡単に代理投票の手続きを完了できるよう設計することで選挙への参加意欲を高めることが期待されている。多様な層からの興味関心を集めるためにおしゃれなデザインやちょっとしたユーモアを交えながら、民主主義を促進するユニークな事例といえるだろう。

 

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【参照サイト】Plan Procu

【イギリス】「選挙は自転車で行こう!」ロンドンでレンタサイクルを無料で貸し出し

2024年4月に行われたロンドン市長選挙期間中、電動スクーターや自転車のシェアリングサービスを提供する組織・LIMEと若者の政治参加を支援する非営利団体・My Life My Say (MLMS)が共同で、若者の政治参加を促進するためのレンタサイクル無料貸出キャンペーンを実施した。

両者は、このキャンペーンを通じて、若者が投票所にアクセスしやすくすることを狙った。キャンペーン期間中、選挙に関する情報や啓発活動も同時に行われ、若者に対して選挙の重要性を訴えかけたのだ。

キャンペーン期間中、LIMEの自転車やスクーターを無料で利用できるプロモーションコードが配布され、これにより多くの若者が投票所に足を運ぶ動機づけに。また、MLMSはソーシャルメディアやイベントを通じて、選挙についての情報発信を強化し、若者が自身の意見を反映させるための手段として投票の意義を再認識させた。

このキャンペーンは、単なる移動手段の提供にとどまらず、若者の市民意識を高める一環として評価された。結果として、若者の投票率向上に寄与し、ロンドン市長選挙における若者の積極的な参加が促進されたと言える。

Image via My Life My Say

【参照サイト】Give an X
【参照サイト】Micromobility used to support inclusive democracy ahead of elections

【ドイツ】投票率は64%、子ども向けテレビ番組が高投票率に貢献か。意見相違で軋轢も

2024年6月に実施された欧州議会選挙でのドイツの投票率は64%で、ベルギー89%、ルクセンブルク82%、マルタ73%に次ぐ4位だった(※1)

高い投票率の要因の一つは、「子どもが政治に関心を持ちつつ育つこと」だ。その好例は、公共放送局が35年前から提供する子ども向けテレビ番組「logo!」である。同番組は、世界の出来事を子どもに分かりやすく解説し、共に考えることを目的としている。

首相をはじめとする政治家にインタビューしたり、地域の問題を自分で紹介したり、子どもたちは積極的に番組制作に参加する。2014年の視聴者数は毎日48万人、そのうち3割は大人だった(※2)

ドイツでは14才で宗教的に大人と認められ、16才で選挙権が与えられる。子どもを含め家族や友人と、政治をはじめとするさまざまなテーマを議論する文化があり、国民生活と直結する政治について話すことはドイツの日常生活の一部だ。

しかし、意見相違による軋轢も感じられる。今回の欧州議会選挙では、保守系のAFDが国内2位の15%を獲得したものの、AFDをはじめとする保守系政党について(多くの国のメインストリームメディアの報道と同様に)「支持者は、特定の地域と低所得層が主で危険だ」とする風潮がある。

16歳から24歳までの有権者は、全体で支持率が1位だったCDUと同等の割合でAFDを支持したが、高学歴者層のAFD支持は少ないというデータもあり(※3)、AFD支持を知人に伝えることにさまざまな圧力を感じる人もいる。政治についてオープンに話せる社会をつくるには、多くの人がさまざまな意見を冷静に聞く努力を重ねていくことが不可欠なのだろう。

Image via Shutterstock

※1 Wahlbeteiligung nach Jahr
※2 15 Jahre Nachrichten für den Nachwuchs
※3 Hier hat die AfD besonders viele Stimmen bekommen

編集後記

「自分が投票したところで変わらない」「分断が深刻で政治のことを考えるのもストレス」といった声もよく聞かれるようになった。実際、そんな閉塞感が社会全体に広がり、投票に行く気力が湧かず、結果として投票率が下がっているのが現状だ。今回紹介したヨーロッパ各地の工夫は、そんな問題への抜本的な解決にはならないにしても、「ちょっと投票に行ってみようかな」「議論に参加してみたいな」と、関心の入り口を開けてくれる事例だ。

政治がすべての人に開かれるためには、まずは選挙に関して意見を交わすこと、そして投票所へのアクセスを容易にすることが重要だ。これらの工夫が、少しでも多くの人々に「行ってみようかな」という気持ちを芽生えさせるきっかけとなれば、社会全体の議論がもう少し活発になるかもしれない。

Written by Kozue Nishizaki, Erika Tomiyama, Megumi, Ryoko Krueger
Presented by ハーチ欧州

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

ハーチ欧州の事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact

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