COP30要点まとめ。「最終文書に化石燃料への言及なし」という結果が物語るものは?

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2025年11月10日から11月21日(実際には22日閉幕)まで、ブラジル・ベレンにて、国連の気候変動対策会議「COP30」(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)が開催された。約200か国が参加し、気候変動対策の“実施”に向けた目標設定に注目が集まった。

地球の肺・アマゾンを擁し、気候変動の最前線で生きる先住民の人々も多いブラジルでの開催。これまで以上に多様なアクターの参加に期待がかかっていた。一方、パリ協定の離脱を表明したアメリカは政府高官を派遣せず、日本も高市首相が参加を見送った。世界で方向性が分かれる中でのCOPとなったと言えるだろう。

先行きが暗くなりつつある中で、COP30は国際社会をまとめ、気候変動対策を推進する兆しを見出すことができたのか──残念ながら、COP30が閉幕した今、最終文書に化石燃料への言及がないことに対する落胆の声も多い。本記事では、そんなCOP30で生まれた成果の実情と、残された課題を取りまとめる。

そもそもCOPとは。これまでの成果と、COP30への期待

気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で開催される国際会議・ COP(Conference of the Parties)。1995年のドイツ開催以来、ほぼ毎年開催され、気候変動に対処するための合意形成と行動計画の策定が行われてきた。初期のCOPは主に締約国間の会議だったが、最近では非政府組織(NGO)、民間企業、地方自治体などの非国家アクターも参加し、より多様な立場の意見が交わされる場となっている。

これまでの成果として、COP3において先進国が初めて法的拘束力のある排出削減目標を導入した京都議定書、COP21で採択されたパリ協定など、気候変動対策における重要なマイルストーンが生み出されている。パリ協定では、平均気温の上昇を産業革命前の水準から2℃未満に抑制し、1.5℃に抑制するための取り組みを各国が約束し、各締約国は温室効果ガスの削減目標と気候変動の影響への適応策を明示する「国別貢献目標(以下、NDC)」の設定が求められることとなった。2025年2月はNDC 3.0の提出期限となっており、2025年11月22日時点で122か国が提出したと報告されている。

さらにCOP27では、「損失と損害」基金の設立が決まった。これは、脱炭素など気候変動の進行を軽減する緩和策や、それで避けきれない影響に対応する適応策では間に合わず、すでに気候変動の被害を受けている国や地域を支えるための資金だ。続くCOP28では、EUやアラブ首長国連邦、イギリス、アメリカ、日本などから合計で4億2,000万ドル(当時約620億円、現在約657億円)の基金への拠出が表明され、一定程度の運用方法にも目処がついた(※1)。ただし、年間数千億ドル規模のニーズには大きく届いていないのが現状である(※2, 3)

▼会期前の議題はこちらから

ブラジルで開催のCOP30。気候変動に関する国際交渉の争点は?

以上のような進捗を踏まえて、COP30に対しては以下のような進展が期待されていた。

  • NDCの目標改善と、適応策の進捗を測る指標づくり
  • 損失と損害基金に向けた資金の補填
  • 公正な移行に向けた具体的なルールづくり

また、COP30の議長国であるブラジルは今回のCOPを「実施のCOP(Implementation COP)」と銘打って、具体的な行動を伴う計画策定が重視された。これを実践すべく同国はアクション・アジェンダに注力し、企業や非営利組織のこれまでの活動実績を共有する場も多く用意されたようだ。

COP30で残された課題と、成果

COP30は、「ベレン・パッケージ」の採択をもって閉幕した。承認された29の決定には、適応資金、公正な移行、ジェンダーなどのテーマに関する合意、行動の加速化に向けた共同コミットメントの刷新などが含まれた。その内外にある注目の議題をIDEAS FOR GOOD編集部の視点でピックアップし、取りまとめていく。

2035年までに「適応資金を3倍へ努力」で合意

今回のCOPにおける大きな前進の一つが、気候変動対策における適応策への資金を3倍にするとの合意が取れたこと。ただし、文書には今回の決定が「calls for efforts to at least triple adaptation finance by 2035(2035年までに適応ファイナンスを少なくとも3倍にする努力を呼びかける)」とあることから、法的拘束力や罰則を伴うものではないことがうかがえる。この財政支援に対し、一部の脆弱な島嶼国は満足との姿勢を示しており、この実現にはさらに5年を要すると見込まれている(※4)

また、「ベレン適応指標」が採択され、適応アクションの進捗状況を追跡する枠組みが示された。ただし、イギリスのシンクタンク・ODI Globalによると、COP30に先立ち専門家らが100に及ぶ適応指標パッケージを提案していた中、ブラジルが項目を書き換え、当初の提案のごく一部のみをベレン適応指標に盛り込む形となったため、技術的な準備が追いつかず、実際の指標活用が遅れる可能性がある(※5)

公正な移行に向けた計画に合意

進展を見せたのは、公正な移行に関する議論。人間と公平性を気候変動対策の中心に据える「公正な移行メカニズム(Just Transition Mechanism)」がベレン・パッケージの中で採択されたのだ。これには、助成金による追加資金への明確な言及と、公正な移行の取り組みを妨げる障壁の認識が含まれており(※6)、国際協力、技術支援、能力構築、知識共有を強化し、公平で包摂的な公正な移行を可能にすることを目指すものだ。ただし、具体的な資金の拠出源への言及はなかった(※7)

この枠組みを推進してきた非営利組織・Climate Action Network International(CAN)は、改善の余地を指摘しつつも、これを希望ある前進として評価。具体的な取り組みに一歩近づいた。

「損失と損害」基金、運用フェーズへ一歩前進

COP27で設立が決定した後、初期の資金調達が行われた「損失と損害」基金は運用フェーズに入った。COP30では運用方法および補充サイクルが確認され(※8)、社会への実装に一歩近づいたと言えるだろう。

レポート文書によれば、「損失と損害」基金においては、2025〜2026年の初期介入フェーズとして、助成金を通じた支援が予定されている。この際、途上国の主体性を重視するため、途上国政府が直接予算支援を通じて資金提供要請を提出できることが再確認されたという。また、アイスランド、日本、ラトビア、ルクセンブルク、スペイン、およびベルギーのワロン地域政府から合計8億1,701万ドル相当(約1,281億円)の資金提供の誓約があった。

一方で、同文書内では長期資金調達戦略の採択が遅れていることへの懸念が指摘され、持続的に運用ができるかについて今後も協議が必要であることがうかがえる。

最終文書に化石燃料の言及なし

ロードマップの議論からうかがえるように、COP30では化石燃料の使用方針をめぐって意見が分裂。気候危機の要因である石油や石炭、天然ガスからの移行に明示的に言及しない方針に、数十か国が反発(※9)。コロンビア、パナマ、ウルグアイ、欧州連合(EU)など80か国が、化石燃料からの移行を文書に盛り込むよう求めたのに対し、サウジアラビアを含む一部の石油産出国は、化石燃料へのいかなる言及も見送るべきだと主張(※10, 11)

会期を1日延ばし、現地時間11月22日までにおよんだ議論の結果、最終文書には化石燃料についての言及が掲載されないこととなった。米メディア・CNNはこれを「わずか2年前にまとまった合意からの後退を示す内容」と表現し、英メディア・The Guardian「化石燃料時代の終焉に一歩近づいたが、気候崩壊の惨禍を食い止めるには到底及ばない」と記した。一進一退の議論に危機感が募るものの現在の政治状況の中で合意に至ったことに関して、小島嶼国連合(AOSIS)が「不完全だが必要な進展」と評価するなど(※12)、一定の評価も挙がっているようだ。

これに伴い、「化石燃料からの脱却に関するロードマップ」の策定もCOP内では実現しなかった。そこで議長国ブラジルの自発的な取り組みとして、このロードマップ策定が今後1年間にわたって議論されていく見込みだ(※13)

ブラジル開催のCOPとして何が生まれたのか

議長国ブラジルはCOP30に際し、「ブラジルだからこそ」の視点も取り込もうと働きかけた。アマゾンの保全を目的とした史上最大規模の森林資金スキーム「Tropical Forests Forever Facility(TFFF)」を提案し、助成金ではなく投資を中心とした官民協働のメカニズムとして稼働し始めるなど、「現存する森林の保全」が検証された熱帯林国に対し、長期的かつ成果に基づいた支払いを行う。第1フェーズとして67億米ドル(約1兆505億円)以上を動員し、63か国の支持を得た。

もう一つ、先住民の人々の声を反映しようとする動きも強かった。ブルーゾーン(公式交渉のエリア)には900人を超える先住民の人々が参加し、COP30と同時に開催されたベレン気候マーチでは、数万人が気候正義と具体的アクションを求めて参加しCOP史上最大規模の行進となった。最終的に、いくつかの文書において先住民の人々の権利が認められたことを(※14)、成果として評価する声もある(※15)。一方で、会期中、先住民を含む数十人が会場に押し寄せ、警備員との間で衝突が発生する場面も。先住民の声と役割が重視される中、何をもって「彼らの声が尊重された」とするのか。その判断には常に改善の姿勢が求められるだろう。

また今回のCOPは、主要な排出国の一つでもあるアメリカ政府が参加しない中で閉幕したことも忘れてはならない。そんな中での合意の効力に一抹の不安は残るものの、COP会場ではアメリカ・カリフォルニア州知事や非営利組織を中心とした非国家アクターの活躍も見られたようだ。こうした多様なアクターの活躍はアクション・アジェンダのレポートとしてまとめられた。

そのほか、議長国ブラジルが強調した「実施を加速させるためのCOP」を象徴するように、次のような成果も生まれた。

  • 国際実施アクセラレーター(The Global Implementation Accelerator):各国のNDCおよび国家適応計画(NAP)の実施を支援するためにCOP30およびCOP31議長国のリーダーシップの下で開始された協力的かつ自主的なイニシアチブ
  • 1.5℃へのベレン・ミッション(The Belém Mission to 1.5): 緩和、適応、投資の全体にわたって野心と国際協力の強化を促進するための、COP29-COP31 トロイカによる行動指向のプラットフォーム

これらは、アクションを重視する姿勢の表明となっただろう。しかし、具体的にどのように実施していくのかは不透明な要素も多い。現在のNDCが実践されても1.5度目標に向けては削減量が大幅に足りないことも明らかになる中(※16)、この姿勢をどう具現化するかが重要だ。

気候変動対策の「実施」の機運が高まりつつある。しかし同時に、気候変動対策が政治化し複雑さは増している。まさに今、異なる思惑を持つ政府、企業、市民が共通の未来に向けてどこまで連帯することができるのかが問われているだろう。

※1 COP28、「損失と損害」基金の運用開始へ|JETRO
※2 Loss and Damage – COP29 Updates(CGIAR, 2025)
※3 Supporting country-owned efforts in responding to climate-induced loss and damage.
※4 Takeaways from the outcome of UN climate talks in Brazil|AP News
※5 COP30: What’s the verdict?|ODI Global
※6 COP30 takes a hopeful step towards Justice, but does not go far enough|Climate Action Network International
※7, 9, 11 COP30、合意成立も化石燃料脱却への工程表では折り合えず 紛糾の末|CNN
※8 Belém COP30 delivers climate finance boost and a pledge to plan fossil fuel transition|United Nations
※10 COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に言及せず|Reuters
※12 COP30合意文書採択 「多国間主義勝利」も脱化石燃料は明記されず|AFPBB News
※13 Compromises, voluntary measures and no mention of fossil fuels: key points from Cop30 deal|The Guardian
※14 Indigenous peoples’ demands got more than lip service at COP30|The Japan Times
※15 Takeaways from the outcome of UN climate talks in Brazil|AP News
※16 Nationally Determined Contributions Synthesis Report – Update|United Nations Climate Change Secretariat

【参照サイト】COP30: landmark outcomes emerge from negotiations despite unprecedented geopolitical tensions|COP30
【参照サイト】COP30 approves Belém Package|COP30
【参照サイト】COP30 Evening Summary – November 17|COP30
【参照サイト】気候変動に関するCOP30会議について|WWF
【参照サイト】COP30閉幕、合意文書に化石燃料からの移行巡る具体的な計画示さず|Bloomberg
【参照サイト】COP30合意文書採択 「多国間主義勝利」も脱化石燃料は明記されず|AFPBB News
【参照サイト】Takeaways from the outcome of UN climate talks in Brazil|AP News
【参照サイト】COP30: What’s the verdict?|ODI Global
【参照サイト】IUCN welcomes COP30 call to triple adaptation finance, regrets insufficient progress on fossil fuels|IUCN
【参照サイト】Tussles break out between protesters and security at Cop30 in Brazil|The Guardian
【参照サイト】加州知事、気候変動対策でトランプ米大統領を「愚か」と非難|Reuters
【参照サイト】COP30 takes a hopeful step towards Justice, but does not go far enough|Climate Action Network International
【参照サイト】1.5度目標をあきらめない|WWFジャパン
【関連記事】損失と損害(Loss and Damage)とは・意味

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