現在、世界で利用されているプラスチックの廃棄が問題となっている。プラスチックが海に流れつくと海洋ゴミとなり、2050年にはプラスチックゴミの方が魚よりも多くなると予測されている。
ゴミはゴミ箱に入れることが当たり前とされる日本では、プラスチックゴミが海に流れ着くことを想像するのは難しいかもしれない。しかし、海洋をただようプラスチックのほとんどは陸地から下水道や河川、風、嵐によって最終的に海に流れていくのだ。
私たちは、この海洋ゴミ問題の根源である、プラスチック消費を減らすために何をすべきなのだろう。本記事では、ドイツで導入されたビニール袋使用削減のための法律とその効果をご紹介するとともに、日本が目指すこれからの「おもてなし」について考えていきたい。
ドイツ、ビニール袋の有料化で使用枚数を減らす
ドイツでは今、店で買い物をすると、袋はくれずに商品をそのまま手渡される。野菜やお菓子などの食料品をはじめ、本や洋服など、ほとんどすべての商品だ。どうしても袋が必要な場合は有料のビニール袋を購入するが、多くの客は持参した袋に商品を入れて持ち帰る。
これはただの慣習ではなく、2016年7月に施行された「2018年までにビニール袋の80%を有料化する」法律で定められている。背景は欧州の環境政策で、2025年までに1人当たりの年間ビニール袋使用枚数を40枚にするというものだ。
ビニール袋の値段は店が決定する。10セント(約13円)から25セント(約30円)など、大きさなどによって価格はさまざまだ。また、ビニール袋を全廃し、紙もしくは布袋だけを販売している大型スーパーもある。
この法律の施行後、ドイツでは大きな効果が出た。2015年には68枚だった1人当たりの年間ビニール袋使用枚数が、2016年には45枚になり、そして2017年には29枚となったのだ(※1)。
プラスチック消費を減らすために、国民一人ひとりの心がけや各企業の試みも大切だ。だが、私たち消費者の財布に直接影響する“有料化”を行い、国として環境政策に大きく舵を切ることが大きな効果をもたらした実例である。
1人当たりの年間レジ袋使用枚数は300枚の日本
一方、日本では1人当たりの年間レジ袋使用枚数は300枚にのぼる(※2)。
コンビニでは、袋に入れるまでが店員の仕事だ。本屋では紙表紙と帯がついた本に、さらに紙カバーをつけて袋に入れる。会計の際にはいつも注意して、「カバーはいりません。袋もいりません。」と言わないと、過剰包装して渡される。これを毎回言うのも疲れる。
家に持ち帰ったビニール袋は、ゴミ袋として使ったり、濡れたものや、汚れたものを入れることもあるだろう。レジで袋をもらわないと、そういった時に使えなくなるので、たまには袋を断らずにもらってくることもある。
しかし、レジ袋を基本的には提供せず、上記のような用途で使うビニール袋は有料販売するというアイデアもある。実際、筆者の住むドイツではゴミ袋は店で買う。30枚で1ユーロ(約130円)程度だ。ゴミ袋が有料なので、できるだけゴミ袋を使わないように、ゴミをできるだけ出さないように努力するようになるという、相乗効果も生まれる。
カフェのコーヒーはマグカップやグラスで出そう
日本で素敵なカフェに入って、コーヒーを注文する。暑い夏は、氷のたっぷり入ったアイスコーヒーが嬉しい。しかし、数百円もする美味しいコーヒーがプラスチックカップで出てくることに驚く。カフェでコーヒーを飲む目的の一つは、素敵なインテリアと音楽、そして人の話し声がする環境に身を置き、時間を愉しむことだ。薫り高いコーヒーがプラスチックカップで出てくると、がっかりしてしまう。
何もかも欧州と比べるのもどうかと思うが、もし、ヨーロッパのコーヒー店でコーヒーがプラスチックで出てきたら、客は怒るか、店員に文句を言うだろう。コーヒーだけではない。ドイツでもうすぐ始まるビールの祭典オクトーバーフェストでは、大きな会場に設置されたテントで地ビールがふるまわれるが、屋外であってもすべてジョッキで出される。小さな町の祭りで出されるビールも同様だ。
環境に優しいということも理由の一つだが、ドイツではビールの種類によって使用するグラスが異なる。酵母ビールをピルツビール用のグラスで飲んでも、その美味しさは100%発揮されない。ビールとその専用グラスは、切っても切れない関係があり、これこそがドイツが誇る伝統文化だ。
コーヒーショップや屋台などで、プラスチックカップで飲み物を提供することには利点もある。水の使用と人件費、場所を減らすことができることだ。しかし利用客が求めているのは、単価が少し安いが、環境に負担をかけるプラスチックカップで飲むコーヒー、またはビールだろうか。
私たちの住む身近な地域から国の環境について考え、食文化を楽しみ、ゆったりした上質な時間を過ごしたいと思えば、コーヒーやビールなどは陶器やグラスで飲みたいものだ。
世界に誇れる公共サービス、安全で無料な水
外国人が日本にやってきて一番最初に驚くことは、空港にある冷水器だ。美味しい水が無料で、しかも冷たい。パスポート審査に行く前に、冷水器の前に外国人の行列ができているのを見たことはないだろうか。日本では、多くの公共スペースで安全な水が無料で手に入る。これは、世界に誇れる公共サービスだ。
高速道路のサービスエリアのレストランでも、無料の水が提供されている。しかし、ここでは使い捨ての紙コップで飲む。
客が1回だけ使用した紙コップはすべて、大量のゴミになるのだ。この紙コップの代わりに、デポジット制の何度も使えるグラスを導入するのはどうだろう。洗浄代、人件費として何十円かを水代として計上し、グラスは返却したらそのまま料金が返却されるデポジット制にするのだ。これで、ゴミの少ないサービスが提供できる。
日本が目指す「おもてなし」にサステナビリティを
日本では、紙コップに入った無料の水やレジで貰えるビニール袋など、利用客の便利さを最優先にしたサービスが多い。店はこれをサービスと考え、自らの利益を幾分か削る。しかし、こういったサービスは本当に必要だろうか。このサービスで喜ぶ客はどのくらいいるだろう。このサービスは地球環境に優しいだろうか。
東京オリンピックに向けて、日本の「おもてなし」という言葉を頻繁に目にするようになった。「おもてなし」とは、店だけがきめ細やかなサービスを提供することではない。店と客のコミュニケーションや相互理解に基づいた販売・消費活動全体が「おもてなし」だ。客の意識と行動もサービスの一端を担うのである。
オリンピックという国際的なビッグイベントを間近に控えた今こそ、地球の将来とサステナビリティを見据えながら、店と客、そして国が責任を持って、真の「おもてなし」についてもう一度考えていく、いい時期かもしれない。
※1 DIE RHEINPFALZ紙 Verbrauch von Plastiktüten in Deutschland geht zurückより
※2 地球温暖化白書より
【参考サイト】地球温暖化白書
【参考サイト】Plastiktüten ab Juli kostenpflichtig
【参考サイト】Verbrauch von Plastiktueten in Deutschland geht zurueck