デンマークの自治領であるフェロー諸島。北の海にぽつんと浮かぶ、人口5万人に満たないこの島々では独自の文化が育まれ、冷たい風により洗われた美しい自然風景は、訪れる者を虜にする。
しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の広がりを避けるため、同諸島自治政府は島外からの訪問を禁止。通常なら観光客を呼び込むシーズンであるが、いま島は静寂に包まれている。
そこでフェロー諸島観光局は、オンラインで世界中からこの諸島の魅力を体験できるツアーを始めた。参加者はツアーが始まる時間になると、カメラを頭につけた島民が、実際に移動することで、島内のさまざまな場所をリモートで観光することができる。遠くへの移動が制限されるなか、旅行に飢えている人にはたまらないコンテンツだ。
「リモートツーリズム」と呼ばれる本ツアーは1日に2回、現地時間の14時(日本時間の22時)と17時(日本時間の1時)に1時間ずつ行われる。ツアーの参加者は順繰りで2分ずつ、ツアーガイドの進路を指示できる。公式サイト上で、次回ツアーまでのカウントダウンをしているので分かりやすい。
ツアーガイドは、歩いたり走ったりする以外にも、カヤック、乗馬、ハイキングなどのアクティビティに参加してくれる。また、ジャンプボタンを押すと実際にその場でジャンプしてくれるなど、あたかも現地を旅しているような気分を味わわせてくれる。
世界の他の地域を見渡すと、今さまざまなリモートツーリズムが行われていることがわかる。たとえば、観光収入に大きく依存するエジプトでは政府肝いりで、古代遺跡の中に入り、自分で操作しながら歴史を紐解くことができるバーチャルツアーを開始。5000年前のメレスアンク3世の墓やメンナの墓といった場所を探索するものだ。
日本では39県で緊急事態宣言が解除されたものの、まだまだ外出できない日々をおくる人々も多い。そんな人々の心の鬱憤をはらすのが、フェロー諸島やエジプトで行われているリモートツーリズムだ。この外出自粛をきっかけに、多忙な現代人が気軽に遠い地を訪れることができる、新たなツアーの形として地位を確立するかかもしれない。
【参照サイト】Faroe Islands remote tourism