今までヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。
ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。
前回は、「ジェンダー平等×都市インフラ」をテーマに、ヨーロッパでどのような取り組みが見られるかを紹介した。今回の欧州通信では、「レストランでのサステナブルな取り組み」について、イギリス・フランス・ドイツ・スウェーデン・オランダにあるレストランや店内での取り組みを紹介する。
【イギリス】ゆったりとモダンな雰囲気が魅力。「ごみ箱のない」レストランで特別なディナーを
東ロンドンに位置する「Silo London(サイロ・ロンドン)」は世界初のゼロウェイストレストランとして誕生し、設立8年目になる今もロンドンで人気を誇る。サイロでは、農家との直接取引をすることで、店内で食品ロスや包装などのごみを出さないようにしているほか、食べ残しはコンポストに、割れた食器は金継ぎすることで、「無駄」を一切出さない工夫が実践されている。
実際にレストランを訪れてみると、まず倉庫をリノベーションした天井の高いインテリアに驚く。また、ロンドン近郊で収穫された素材のおいしさが引き出された美しい一品一品に引き込まれる。コースを頼むと、食材がどこからどうやって運ばれてきたものなのか、スタッフが丁寧に説明してくれるのも嬉しい。サイロでは食材のあらゆる部分を使っているため、普段捨ててしまうような野菜の茎の部分なども、食べてみると実は甘いことに気が付く。
東ロンドンの洒落た雰囲気を味わいつつ、サステナビリティを五感で体感したい人にはうってつけのレストランだ。
【フランス】眺めのいい場所を旅する、持続可能なノマドレストラン「Restaurant Ventrus」
「世界に欠けているのは美しい景色ではなく、それを楽しむためのレストランだ」
そんな想いから生まれたのが、数週間で組立てや解体、移動ができる設計のユニークなレストラン「Ventrus」。エネルギーも独自に生産している。これまでフランスの眺めの良い場所を旅してきたVentrusが今回選んだのは、パリ19区の運河がある、ラ・ヴィレット公園。夏には日差しを求めてパリ市内の多くの人々が集まる公園だ。眺めの良い場所にレストランをつくることによって、人々の感性を刺激し、テロワールを大切にしている。
ユニークなのは、移動するというコンセプトだけではない。Ventrusは環境に配慮して地元の生産者から食材を仕入れている、地域に根ざしたレストランであり、パリ市内の都市農園でできた作物を味わうことができる。メニューは3週間毎に変わり、季節の食材が取り入れられている。また、廃棄物ゼロのポリシーに基づき、食材をそのまま使用することへのこだわりも。レストランで出た生ごみは堆肥化され、パリ市内の農園で使われている。パリの素晴らしい景色を見ながら、持続可能な料理を食べるという、とっておきの夜にピッタリのレストランだ。
【ドイツ】垂直農場で採れた野菜を収穫・提供する「GOOD BANK」。スーパーやケータリングでも展開
ベルリン中央駅にほど近いレストラン「GOOD BANK」は、垂直農場レストランだ。店内で垂直農法で栽培した野菜を収穫し、ほかの食材とともにサラダをはじめさまざまな料理として提供している。
垂直農法は、農業にテクノロジーを組み合わせたアグリテックの一つとして、近年世界で取り組みが進められている。管理された屋内環境において野菜を栽培するため、土地・水・輸送距離・保冷に要するエネルギー・化学農薬・容器包装の使用を土壌ベースの農業と比較して大きく削減できるという長所がある。都市でも生産できることから、都市の食料需要増加への対応策としても注目されている。
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GOOD BANKは直営レストランの展開だけでなく、垂直農法のサービスを大手スーパーやケータリングでも提供している。大手スーパーの提携店舗では、垂直農法で栽培した野菜を惣菜として販売。ケータリング事業では、イベントや会議などの際の予約を受け付けている。地産地消が重要視されるなか、GOOD BANKは多くの利点を持つ垂直農法で採れた野菜とその魅力を、首都ベルリンで広く提供している。
【スウェーデン】捨てられるはずだった食材をごちそうに変える「SOPKÖKET」
スウェーデンでは、多くの自治体で食品廃棄が個別に回収され、バイオガスや肥料に活用されている。設備の整備が遅れていたストックホルムでも、ついに2023年からフードウェイストの回収が義務化された。
この流れをすでに実践してきたレストランが、ストックホルムの「SOPKÖKET」だ。ここでは、スーパーで廃棄予定だった食材が回収・調理され、レストランとケータリングにて提供される。これまでに約35トンものフードウェイストが削減され、約2,700食が提供されてきた。
一食あたり50〜100%に廃棄される予定だった食材が使用され、主に地域のオーガニック食材が、ヴィーガンを中心としたメニューに生まれ変わる。ケータリングでは電気自動車や自転車で食事を運ぶなど、環境負荷の軽減を徹底している。またコロナ禍には、生活が苦しい人々に向けて食事を無償で提供。廃棄食材を救出するだけでなく、公平な地域社会づくりにも貢献している。
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捨てられるはずだった食材が美味しい料理になるという変化を、実際に見て食べて体感することができる。そんな地域内でのサイクルこそ親近感があり、無理なく続くカギであるのかもしれない。
【オランダ】アートと食の融合を模索する実験型レストラン
「Mediamatic ETEN」は、アムステルダム中央駅からほど近い水辺に位置するアートセンターMediamaticに併設されたプラントベースのレストラン。芸術、科学、生物学の交差点における新たな発展を目指すMediamaticでの最新のアートプロジェクトに影響を受けた、創造的かつ革新的な料理を提供している。
食材は小規模な独立農家やサプライヤーから供給される高品質な地元の野菜やワイン、パン、ビールに加え、施設内のアクアポニックスで栽培したハーブや食用花を使用している。また、保存期間のエネルギー消費を最小限に抑えることを目指した発酵の実験や、批評的な食のプロジェクトに取り組むアーティストによる「Neo Futurist Dinners」を定期的に行っている。現在、外来植物として敵視される「イタドリ」に対する価値観を変えるべくレシピを開発中。
編集後記
いかがだっただろうか。各国のレストランでは、食という共通するテーマひとつとっても、ゼロウェイストや地産地消、アグリテックなどさまざまな取り組みが見られた。
食事を通して、普段の生活とは少し違った体験ができる。こうした機会が身近に存在することで、人々が生活のなかでサステナビリティの考え方に触れやすくなるのだろう。ヨーロッパを訪れた際には、今回紹介したレストランでぜひそれぞれの世界観を感じていただきたい。
参考動画
【参照サイト】Ventrus avec Vue
【参照サイト】GOOD BANK
【参照サイト】Good Bank | VISIT BERLIN
【参照サイト】SOPKÖKET
【参照サイト】Food waste collection becomes mandatory in Stockholm
【参照サイト】Food waste | Stockholms stad
【参照サイト】Mediamatic ETEN
【関連記事】街と人とともに進化する。7年目を迎えた世界初ゼロウェイストレストラン・Silo Londonインタビュー
Written by Megumi, Erika Tomiyama, Ryoko Krueger, Natsuki, Ryuichiro Nishizaki
Presented by ハーチ欧州
ハーチ欧州とは?
ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。
ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。
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