家で寝て過ごすよりサステナブル?環境を楽しく守るヨーロッパのフェス【欧州通信#19】

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近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は、「暑さ対策」をテーマに、ヨーロッパ各地で見られる暑さ対策を紹介した。今回のテーマは「サステナブルなイベント運営」。コロナ禍での制限が撤廃された今、各地でフェスやお祭りが再開され、新たなイベントの開催方法が模索されている。

【オランダ】家で寝転んで過ごすよりもサステナブルなオランダの異色音楽フェス「DGTL」

オランダ・アムステルダムの「DGTL(デジタル)」は、その素晴らしい音楽体験はそのままに、世界で最もサステナブルな運営を行う異色の音楽フェスティバル。「家で寝転んで映画を見ているよりもサステナブル」、つまりDGTLに参加する方が環境負荷が低いというから驚きだ。

2022年までにごみゼロの完全サーキュラーフェスティバルを達成した、その手法にも目を見張る。カップ・リユース・システムを用いて大量の使い捨てカップごみをゼロにしたかと思えば、以前は1万6,000リットルのディーゼルを用いていたところを、100%再生可能エネルギーを使うことでゼロまで削減。会場ではビーガン食のみを提供し、動物性タンパク質を一切提供しないことでGHGエミッション大幅削減に成功した。

デジタルのライブ会場の様子

Photo by Kozue Nishizaki

また、トイレから回収した糞尿をろ過・コンポストして水と堆肥に変える、出演アーティストの移動には可能な限り自転車や再生可能エネルギーからなる手段を選択・必要最低限の飛行機移動についてはSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)を用いることで移動に伴うGHG排出量をゼロにするなど、業界のパイオニアとして次々と新しい施策を導入した。地球にとっても人にとっても「最高の音楽体験」を提供するフェスティバルとして、毎年注目が集まる。

デジタルの会場にあるリサイクルステーション

Photo by Kozue Nishizaki

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【関連記事】ごみ箱のない音楽フェス。サーキュラーエコノミーがイベント産業を変えていく【DGTL中編】
【関連記事】循環型の「イノベーション」を支えるアムステルダム市の役割【DGTL後編】

【フランス】2025年までに100%循環型を目指すパリの音楽フェス「We Love Green」

毎年春になると、パリのメトロ広告で「We Love Green」のポスターを頻繁に目にするようになる。この「We Love Green」は、毎年6月にパリ東部の広大なヴァンセンヌの森で開催される音楽フェスティバルで、サステナブルなフェスとしての「実験場」の役割を果たしている。

音楽フェスティバルとして多様なアーティストが集まるだけでなく、「Think Tank」というステージでは、社会正義や気候変動の活動家などが登壇し、現代の問題についての議論や解決策を提案。「We Love Green」の取り組みは「エネルギーや食事」「水の利用」「廃棄物」「交通」「意識向上」「カーボンオフセット」「サーキュラーエコノミー」など、8分野のサステナブルガイドラインに沿って行われ、2025年までに100%循環型のフェスティバルを目指している。

さらに、オンラインリサイクルプラットフォーム「CO-RECYCLAGE」との連携により、使用後に堆肥化できるカトラリーや皿、包装材、スクリーン、木製の仕切り、セットデザインの材料など、多岐にわたるアイテムが再利用される。また、バックステージやフェス内での食事をベジタリアンにし、8万本の木を植える活動やカーボンフットプリント計算ツールの提供、エネルギーも100%再エネを使用している。

エンターテインメント産業におけるサステナブルなモデルを提供し、楽しみながら学ぶ場をつくっているのが、この「We Love Green」なのである。

【参照サイト】We Love Green

【イギリス】イギリス屈指の音楽祭で、即席の風力発電が活躍

イギリスので毎夏開催される「Glastonbury Festival(グラストンベリー・フェスティバル)」は、世界的に有名な音楽とアートのフェスティバルだ。1970年に始まり、ロック、ポップ、電子音楽、レゲエなど多岐にわたるジャンルのアーティストが出演する。

環境保護活動やチャリティ活動も積極的に行われており、参加者は音楽だけでなく、アートや文化の体験も楽しむことができる。今年は、歌手のエルトン・ジョンが引退のショーとしてグラストンベリーを選び、話題になった。

そんな音楽フェスティバルがさらに環境に優しくなる一歩を踏み出した。会場には目を引くピンクと紫の28メートルの風力タービンが登場したのだ。この風力タービンは、Octopus Energyによって2023年6月13日に設置され、今回のグラストンベリーでも使用された。8メートルの長いブレードを回転させ、1日に最大300kWhの電力を生成。このエネルギーは、食品スタンドにクリーンエネルギーを供給するためのミニグリッドに供給される。

この風力タービンはグラストンベリーのあと、イギリス全土のコミュニティを巡回することが決まっている。風力タービンが迅速に設置できるようになれば、全英のフェスティバルが少しずつ環境負荷を減らしていけるかもしれない。

【参考記事】Glastonbury’s ‘biggest fan’: UK festival gets an eye-catching 28 metre wind turbine

【スペイン】住民の工夫と遊び心で、“大人の文化祭”をサステナブルに

スペイン・バルセロナのグラシア地区には、地元の人たちが毎年待ち望んでいるお祭りがある。「Festa Major de Gràcia(フェスタ・マジョ・デ・グラシア)」だ。その祭りは、毎年8月に開催され、地元民だけではなく多くの観光客を惹きつけている。

祭りの開催期間中は、地区の住民がテーマを決めて各々の住んでいる通りをデコレーションするため、まるで大人の文化祭のような雰囲気だ。1週間にわたり、各通りを見たり、食事やドリンクを楽しんだり、ワークショップに参加したり、多くの人が暑さも忘れて楽しんでいる。

華やかな祭りだが、誰もがもっと生きやすくなるための包括性や、サステナビリティにも力を注いでいる。例えば、道をバリアフリーの仕様にしたり、ワークショップの一部には手話通訳がいたり、どんな人も参加しやすいように配慮がされている。またごみを削減するため、ドリンクをデポジット制にしており、繰り返し使用できるカップを返却すると1ユーロが戻ってくる。

デコレーションもボトルのキャップで作った作品や、マウスをネズミに見立てて作った飾りなど、リサイクル素材を取り入れているものもあり、見て回る中でもさまざまな気づきがある。地元民の工夫と遊び心が、楽しくサステナビリティを実現するヒントになりそうだ。

バルセロナのグラシア祭り

Photo by Risa Wakana

【参照サイト】Los valores de la fiesta

編集後記

コロナ禍を経て、人や地域がつながる大切な機会であると再認識されたイベントやお祭り。これからも長く、多くの人に愛されるものであるためには、それらの開催にあたって環境を犠牲にしてはならないだろう。

人が集まる場であるからこそ多くのエネルギーを必要とする一方で、それを有効活用してエネルギーを生み出したり、サステナブルな取り組みを広めたりすることも可能なはず。現在開発が進められている、イベント開催に伴う二酸化炭素排出量の計測ツールも後押しになりそうだ。音楽や文化、人との交流を楽しむ時間が、地球環境にとってもポジティブなものであってほしい。

Written by Kozue Nishizaki, Erika Tomiyama, Megumi, Risa Wakana
Presented by ハーチ欧州

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact

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