身の回りにモノが溢れる現在。私たちは上手く扱いきれなくなったモノを「ごみ」と呼ぶ。それは焼却されたり、埋め立てられると新たな環境負荷になるが、少し視点を変えると、他の場面で活用できる「資源」だ。2023年も、意外なものが意外な用途で役立てられる事例が豊富にあった。
本記事では、日頃から世界のソーシャルグッド事例をウォッチするIDEAS FOR GOODが2023年に注目した、「アップサイクル」に関するユニークなアイデアをまとめてご紹介していく。
世界のアップサイクル事例7選
01. 捨てられる牡蠣の殻でセーターを紡ぐ
アメリカ、ボストンにあるアパレル会社「ロング・ワーフ」は、あるユニークなものを使ってセーターを作っている。それが「牡蠣の殻」だ。
「SeaWell™ Collection」と呼ばれるこのコレクション。セーター1着には、埋め立て地から回収したカキ殻5個とペットボトル8本が使用されている。彼らのセーターは、牡蠣の殻のリサイクル素材、ペットボトルのリサイクル素材、天然のラムウールまたはコットンをブレンドし、柔らかい上質なニット素材から仕上げている。特許取得済みのナノテクノロジーを活用し、リサイクルした牡蠣の殻とリサイクルしたペットボトルを融合させて「rPET糸」を作り、これを天然のラムウールやコットンとブレンドすることで柔らかい素材が生まれる。
硬い牡蠣の殻から柔らかなニットが誕生する、ユニークなテクノロジーだ。
- 国名:アメリカ
- 団体(企業)名:Long Wharf
02. 着られなくなった制服をまた制服に。マクドナルドの個性派アップサイクル
フィンランドのマクドナルドに、100%リサイクル素材の制服が導入された。そのほとんどに、地元のマクドナルド店舗で回収した、廃棄予定だった制服が使用されている。
「McDrip(マックドリップ)」と題されたこちらの制服コレクション。フィンランドのZ世代を中心に人気を博す「ストリートファッション」を制服デザインに取り入れ、新鋭ファッションデザイナー・Jimi VAIN(ジミ・ベイン)氏をデザイナーとして起用した。同社の狙い通り、素材やデザインの新しさがZ世代の注目を集めた。
- 国名:フィンランド
- 団体(企業)名:McDonald’s
03. さとうきびの搾りかすをかりゆしウェアに。衣類を循環させる仕組みも
さとうきびから砂糖を製造する際に出る茎や葉などの大量の搾りかすは「バガス」と呼ばれており、製糖工場のボイラー燃料や堆肥、飼料、パルプなど様々な用途に利用されているが、未だその全てを有効活用できているわけではない。そこで沖縄県に拠点を置く株式会社BAGASSE UPCYCLEは、バガスを糸に織り直しオリジナルの「かりゆしウェア」を生み出した。
さらに同社は「かりゆしウェア」を、観光客や出張客向けのシェアリングサービスや月額サブスクリプションサービスなど、PaaS(Product as a Service)モデルで提供する。シャツにはICタグが埋め込まれており、利用者はスマートフォンでタグを読み込むだけで製品のトレーサビリティまで確認できる仕様だ。
- 国名:日本
- 団体(企業)名:株式会社BAGASSE UPCYCLE
04. 飲食店で捨てられる竹箸をアップサイクルした「TAKEZEN TABLE」
日本で使用される竹割り箸は年間43億膳。木製の箸の場合はコピー用紙やティッシュなどにリサイクルすることができるが、竹は繊維が強く、紙製品へのリサイクルは難しい。そのため、大半が廃棄されているのが現状だ
そこで、京都発のブランドTerrUPがそんな大量に捨てられている竹箸をアップルサイクルする方法を思いついた。それが、竹箸で作られたダイニングテーブル「TAKEZEN TABLE」だ。割り箸は先から先まで太さが均一ではない。それを逆手に取り、活かした唯一無二のデザインが特徴だ。
- 国名:日本
- 団体(企業)名:TerrUP
05. 使用済みの紙おむつを、建築資材にする研究
2023年5月、科学の学術雑誌Scientific Reportsに掲載された論文によると、使用済の紙おむつが、住宅用建材のコンクリートやモルタルの砂の代わりになるという。
紙おむつには、木材パルプや、綿、レーヨン、ポリエステル、ポリエチレンなど強度のある素材が使われている。使用済のおむつを集め、赤ちゃんのうんちを取り除き、セメントや砂などと組み合わせて、洗浄・乾燥・細断などの工程を踏むだけで、ただのごみから建材に変身するというのだ。
「捨てるしかなかった」おむつのごみが、私たちが使う建物を支える日も近いかもしれない。
- 国名:日本
- 団体(企業)名:北九州大学
06. 捨てるしかなかった「風力発電機」の羽を、小さな橋へ
巨大な風力タービンの羽根(ブレード)は生分解性がないため、役目を終えると埋め立てるか焼却するしかない。世界中の風力発電機が次々と寿命を迎える中、持続可能な廃棄処理方法は各地で大きな課題となっている。
北アイルランドのクイーンズ大学ベルファストを中心とした「Re-Wind」研究・開発チームは、そんな問題を解決すべく、風力タービンの羽根(ブレード)を橋やイスなどの有用な製品にアップサイクルするプロジェクトを進めている。
Re-Windプロジェクトチームは、風力タービンとして役目を終えたブレードを、歩行者や自転車用の遊歩道やカルバート(地中に埋設された水路)用の小さな橋として再利用できることを示した。彼らが製作したプロトタイプの橋は、非常に高い耐荷重性能を持っているという。
- 国名:イギリス
- 団体(企業)名:Queen’s University Belfast
07. 建設の“ごみ”をキノコがバイオ素材に変えてくれる?
この今まで廃棄物としてしか扱えなかった建築現場の解体瓦礫。それを循環できるかもしれない仕組みが発見された。なんと、キノコの真菌がごみを“食べる”ことで建築廃棄物を分解できるというのだ。
キノコが有機物を分解し、生態系を循環させていることは言うまでもない。その自然界にある仕組みを応用することで、キノコの菌糸体が人工化学物質を分解する酵素を生成することが判明した。
この技術のパイオニアとして注目されているのが米国のスタートアップ企業「Mycocycle」だ。乾式壁を再利用可能なバイオ素材に分解することに特に力を入れており、菌糸体によって分解され、固まった素材は、充填材、断熱パネル、防音パネルとして再利用できる。この菌糸体複合材料は、プラスチック材料に取って代わるほどの耐久性を持つだけでなく、耐火性や耐水性にも優れているという。
- 国名:アメリカ
- 団体(企業)名:Mycocycle
まとめ
2023年もさまざまな角度からのアプローチがあった、アップサイクルの事例。研究機関や企業をはじめ、様々な分野でアイデアが登場し、環境に配慮しつつ、クリエイティビティを発揮する取り組みになっている。
ただし、今後はアップサイクルのプロセス自体を検証していかなければいけない段階だろう。例えば、アップサイクル過程での電力消費量や、処理された素材が再びリサイクル可能かどうか、そしてアップサイクルされた製品の実際の使用感などは、今後の重要な検討ポイントだ。
思いも寄らないところで「ごみ」が「資源」になる瞬間を、2024年はどのくらい目の当たりにできるだろう。
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