近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。
ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。
前回は、「モビリティ・交通機関」をテーマに、欧州で進むモビリティ規制やサステナブルな移動手段の現状についてご紹介した。今回のテーマは「クリスマス」。昨年の記事に続き、欧州各地でのホリデーシーズンをサステナブルにするための工夫をご紹介する。
【フランス】「それ、本当にいる?」消費抑制広告が、クリスマスで話題に
クリスマスギフトを求める人々で多くの店が賑わうクリスマスモードのパリ。そんな中、フランスの環境・エネルギー管理庁(ADEME)が、責任ある消費と天然資源の保護を促進するために、消費を控えるよう呼びかけるCMを放映したことが話題になった。
CMでは、衣料品店の販売員が新しい服を買う代わりに、既に持っている服を長く着ることを勧めたものや、家電量販店で新しい製品を購入する代わりに、既存の製品を「修理」することを勧めたものなどがある。
ADEMEはこの消費抑制キャンペーンのサイトを通じて、個人がより持続可能な選択をするためのツールやリソースを提供。これには家庭用品の修理ガイドや、電化製品の修理可能性を示す指標、持続可能な買い物のヒント、廃棄物削減の方法などが含まれている。
一方で、消費が減少することを懸念した商店連合は、このCMの撤廃を求めた。しかしADEMEはCMの撤回を拒否し、キャンペーンの目的は全ての消費を抑制することではなく、「過剰消費」に焦点を当てたものであると説明。フランスとしては脱消費を経済計画に取り入れながら、持続可能な消費行動を促進する取り組みを進めているようだ。
【参照サイト】Epargnons nos ressources – ADEME
【イギリス】40%の大人がクリスマスに「中古品」プレゼントを検討中?
クリスマスにプレゼントを贈り合う人も多いのではないだろうか。そんなプレゼントに関して、驚きのデータが発表された。MPBの調査によると、イギリスの成人の40%が今年のクリスマスに中古品を(少なくとも一つは)贈る計画を立てているという。この数値は2020年から26%増加したものだ。
さらに、57%の成人がプレゼントのサステナビリティを考慮しているという。また、73%の回答者が「良好な状態の中古品をもらったら嬉しい」と回答していた。さらには、自ら「中古品のプレゼントをリクエストする」ことも一般的になってきているようだ。
この行動変化の背景には、もちろんサステナビリティへの意識があるのだが、実はそれだけではない。イギリスではインフレによる生活費高騰が長引いており、MPBの調査では30%の回答者が「新品を購入できない」と述べたのだ。
中古品といっても、ほとんど未使用のものから使い古したものまで、状態はさまざまだ。プレゼントは新品でなければいけないという固定観念を超えて、イギリスではホリデーのシーズンに新しい消費の動きが起きようとしている。
【参照サイト】40% of UK adults plan to gift at least one used item this Christmas
【スペイン】クリスマスの定番お菓子トゥロンを食べ続けるためにできること
スペインでは、10月末~11月頃からスーパーにクリスマスの定番お菓子が並ぶ。その代表の一つが、Turrón(トゥロン)と呼ばれるアーモンドや蜂蜜、砂糖をベースとしたとても甘いヌガー菓子だ。
クリスマスに先駆けて毎年興味深い広告を制作しているのが、Turrones Picóというメーカーだ。同社が2019年に公開した動画は6万回以上、2022年の動画は1万回以上YouTubeにて再生されている。今年の動画では、クリスマスに祖父母の家にやってきた子どもたちが欲しいものを聞かれ、「(大人たちに)お行儀よくしてほしい」と答えている。
気候変動の影響によりミツバチが絶滅してしまうと、トゥロンをつくるのに欠かせない蜂蜜も採れなくなってしまう。すると、トゥロンを食べることもできなくなってしまうため、少しずつでも行動を改めてほしい、というメッセージが込められているのだ。このキャンペーンに合わせて、具体的にどのようなアクションが取れるか解説したウェブサイトも公開されている。
伝統的なクリスマスの過ごし方が失われないよう、日常生活を振り返り、少しでも環境によい行動をしていきたいと思わせてくれる取り組みだ。
【参考サイト】Turrones Picó
【オランダ】アムステルダムで最もサステナブルなクリスマスマーケット
アムステルダムにおける循環型再開発に関するプロジェクトの先駆的な例として注目されるDe Ceuvel。カフェやオフィスが並び、官民一体型のサーキュラーエコノミー実験区として多くの人で賑わう。ここでは、その名に違わず、クリスマスマーケットもサステナブルなものばかりが並ぶ。
サステナブルな石鹸や手作りの木製食器、ナチュールワインやフェアトレードのコーヒー、美しい光を灯すランプ、環境負荷を最小限に抑えて作られるジュエリーなどのなかから、大切な人へのとっておきのクリスマスプレゼントを選ぶことができる。焚き火にあたりながらグリューワインやヴィーガンスープを楽しむのもおすすめだ。
同じ時期、このDe Ceuvelの位置するアムステルダム北区では数多くのサステナブルな拠点が参加する形でクリスマスのイベントが開催される。自転車を借りて一日どっぷりサステナブルなクリスマスを堪能してみるのもいいだろう。
この投稿をInstagramで見る
【関連記事】【欧州CE特集#2】アムステルダムの官民一体型サーキュラーエコノミー実験区「De Ceuvel」
【オーストリア】クリスマスのイベントもエコ!ウィーン市庁舎のクリスマス・マーケット
ウィーン市では、四季を通じて開催されるイベントは、エンターテイメントを提供するだけでなく環境にも配慮したものであるべきだという考えのもと、「エコ・イベント」認定を発行している。これは、資源を保護し、廃棄物を削減する取り組みのもと開催されるイベントへ授与されるものだ。
この季節、ウィーン市内では世界的に有名なクリスマス・マーケットが各地で開催される。なかでも最も有名なウィーン市庁舎のマーケットは、このエコ・イベント認定を受けたエコ・クリスマス・マーケットだ。ここで使用される食器・カトラリー類は全てリユース可能。スタンドに使用される木製の小屋も、毎年リユースされている。
また、食事を提供するスタンドはオーガニック食品の認定を受けており、ほとんどの食材がウィーン市近郊から調達される。販売される商品も環境に配慮しており、オーガニック原料からつくられた石鹸・国内で調達された木でつくられた彫刻やギフト類・リサイクル材でつくられたアップサイクル製品などが並ぶ。この時期、ウィーンを訪れたらぜひ足を運んで欲しい。
【ドイツ】暗い冬、クリスマス飾りで心温かに。そのルーツとは
冬の天気と聞いて、みなさんはどんな天気を想像するだろうか。ドイツの冬は暗い。日が短いのはもちろんのこと、青空が見られる日は週に1日くらいが普通で、2~3日あれば心が踊る。
クリスマスマーケットだけでなく、クリスマス飾りが有名なドイツ。実は、そのルーツには、人々が大切にしてきた「先人の知恵」が詰まっている。いま私たちが目にするドイツのクリスマス飾りは、19世紀ごろにドイツの東部エルツ山地で始まった。当時、エルツ山地では鉱業が盛んで、鉱山で働く人々は日の出前に家を出て、日の入り後に帰宅していた。暗い冬、一日中太陽を見られない鉱夫を街と家で明るく温かく迎えるために、クリスマス飾りが生まれたのだ。代表的な飾りであるクリスマスピラミッドとシュヴィップボーゲンは、鉱山の形を模している。
そしていま、暗いこの時期、多くの人がクリスマス飾りを街中と家で愉しんでいる。温かく光るクリスマス飾りは、私たちの心を穏やかにしてくれる。こうした先人の知恵と家族への想いを感じながら、感謝とともに年末の大切な時間を過ごしたいと思う。
【参照サイト】Weihnachtsschmuck | Grenzenloses Erzgebirge
編集後記
欧州でのクリスマスには、伝統や文化が感じられるものが多い。パーティーやバーゲンセールを華やかに楽しむというよりは、その土地の文化を重んじた上で、近しい人と過ごす心温まる時間が何より大切にされているようにも感じられる。
日本で言えば、家族が集まるお正月のほうが近しい雰囲気かもしれない。今私たちが楽しんでいる季節ごとのイベントでも、それぞれの国や地域に根差した文化的な背景があることに、一度ゆっくりと思いを馳せる時間をとってみたい。
Written by Erika Tomiyama, Megumi, Risa Wakana, Kozue Nishizaki, Yukari, Ryoko Krueger
Presented by ハーチ欧州
ハーチ欧州とは?
ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。
事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact
「欧州サステナブル・シティ・ガイドブック」発売中!
ハーチ欧州では、アムステルダム・ロンドン・パリの最新サステナブルスポットを紹介する「欧州サステナブル・シティ・ガイドブック」を販売中です。
海外への渡航がしやすくなってきた昨今、欧州への出張や旅行を考えている方も多いのではないでしょうか。せっかく現地に行くなら、話題のサステナブルな施設を直接見てみたい──そう思っている方もいるかもしれません。今回は現地在住のメンバーが厳選した、話題のレストラン・ホテル・百貨店・ミュージアムなどのサステブルスポットを一冊のガイドブックにまとめました。実際に渡航される方の旅行のお供にしていただくのはもちろん、渡航の予定がない方も現地の雰囲気や魅力を存分に感じていただける内容になっています。ご購入・詳細はこちらから!