気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、1800年代に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※1)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。
気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなどと複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。
私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。ますます進行の一途をたどっている気候変動を抑えていくためには、これまで以上に大胆な改革が必要だ──そんな想いから、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズが始めた共創プロジェクトが「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」です。
Climate Creativeではこれまで、数々のイベントを開催してきました。(過去のイベント一覧)
12回目となる今回は、「『使い続けたい』を実現するものづくり 生活者の愛着を育てるコミュニケーションデザインとは?」と題し、株式会社ゴールドウイン ニュートラルワークス事業部長の大坪岳人さんを招き、どうしたら「使い続けたい」と思ってもらえる製品づくりやコミュニケーションができるのか、お話しいただきました。
この記事では、そのイベントの第一部の様子をお伝えします。
話者プロフィール:大坪 岳人(株式会社ゴールドウイン ニュートラルワークス事業部長)
2004年ゴールドウイン入社。「ザ・ノース・フェイス」のアパレル部門のマーチャンダイザーとして素材開発から製品企画を担当したのち、ディレクターとして企画・マーケティングなどの全体統括に従事。21年4月より「GET YOU READY」をタグラインとした、ココロとカラダをニュートラルに整えいつでも“READY”な状態へとサポートするブランド「NEUTRALWORKS.」の事業部長に就任し、ブランド構築を牽引している。
ファッション業界の課題の一つは、「情緒的耐久性」の低さ
はじめに、ハーチの大石からファッション業界の課題について説明がありました。
ファッション業界には環境配慮の面でさまざまな課題がありますが、中でも今回取り上げたいのは「情緒的耐久性の低さ」です。エレン・マッカーサー財団によると、購入されたファストファッションブランドの服のうち約半数は購入後からわずか一年後に廃棄されています。購入から一年というと、物理的に着られなくなったというよりも「着たいと思えなくなった=情緒的耐久性が低い」ことから大量廃棄が生まれているといえます。
では、情緒的耐久性を延ばすには、どうしたら良いでしょうか。たとえばアパレルブランドのパタゴニアは、企業や団体が使用するアイテムにその企業や団体のロゴをつけないことを推奨し、退職後もそのアイテムを着続けられるよう工夫しています。企業や団体からロゴをつけたいという要望があった場合は、取り外しやすいよう提案するほか、すでにロゴがついているアイテムに関しては、そのロゴの上から新たにパッチワークを施して着続けられるようにしています。
【関連記事】製品寿命延長へ。パタゴニアが企業ロゴ入れサービスを終了
オフィス家具のレンタルサービスを展開する「Heirloom Design」では、家具にQRコードをつけ、これまでの使い手との「思い出」を読み取ることができます。どのような想いでその家具がこれまで使われてきたかが分かり、家具への愛着を感じられるしくみを作っています。
【関連記事】廃棄を減らす。QRコードを読み込むと「思い出」を語るオフィス家具ブランド
今回イベントに登壇した株式会社ゴールドウイン(以下、ゴールドウイン)も、情緒的耐久性を延ばすことに対して積極的に取り組んでいます。同社の大坪さんは、以下のように話します。
「たとえば車は購入した後も販売者と消費者との関係性が続きますが、服は買った後、その関係性がなくなってしまいます。それが、服を購入してもすぐ着なくなることにつながる一つの要因ではないかと考えています。そこで、商品を売って終わりではなく、どうやったらお客さんと一緒に製品の寿命を延ばしていけるか、という部分に注力しています」
「他人ごと」を真剣に考えるには、身近なところから想像力を働かせること
環境問題をどうしたら自分ごとにできるのか、環境問題に関心のある方は一度は考えたことがあるのではないでしょうか。大坪さんの元にも、社内外からそのような質問がたびたび舞い込んでくるそうです。
「個人的に、環境問題を自分ごとにはできないと思っています。それよりも、『どうしたら環境問題のようないわゆる“他人ごと”を真剣に考えられるか?』が大事だと思います。たとえば私は海外出張の機会がありますが、スキーが好きなので出張と土日をうまく組み合わせて出張先でスキーを楽しんでいます。雪の積もったこの景色はとても素晴らしく、家に帰って娘に写真を見せると羨ましがられます。でも、『数十年後、大人になったら出張ついでに素晴らしい景色を見にいくといいよ』と言えないかもしれないことにふと気づいたんです。数十年後、気候変動の影響でこの景色は見られないかもしれない。そういうふうに思考を変えると、環境問題を真剣に考えられるようになるのではないでしょうか」
「よく『100年後の地球のために』という言葉を耳にしますが、漠然と100年後と言われても実感しにくいですよね。でも、100年後は自分の子どもや孫にあたる世代が生きている時代だと考えると、他人ごとを真剣に考えられるようになるのではないかと思います」
この「他人ごと」の視点は、大坪さんが事業部長を務めるブランド、NEUTRALWORKS.のコンセプト「ココロとカラダを整える」ともつながります。
「NEUTRALWORKS.は日常の中でココロとカラダを整えることをコンセプトとして掲げていますが、自分だけ整えようと思ってもそれはできないんです。パートナーや同僚、地域や地球環境など、『自分以外の誰か』が整っていくことで、だんだんと自分も整っていくものだという考えをブランドとして持っています」
コミュニケーションの仕方を変えることで人の意識も変えていく
ゴールドウインは2006年から循環型リサイクル、環境配慮素材の使用、環境配慮設計の3つのキーワードを掲げた「GREEN IS GOOD」という取り組みを推進してきました。しかし、10年以上続けてきたにもかかわらず、この取り組みはほとんど浸透しなかったと言います。
現在は、不要になった服を別の服にリサイクルする「EXPLORE SOURCE」という取り組みに置き換え、繊維から繊維へのリサイクルを推進しています。たとえば、2019年に開催されたマラソン大会では、不要になったTシャツを回収し、代わりにオリジナルフラスコをプレゼントする取り組みが行われました。回収したTシャツは翌年以降のマラソン大会参加者に配布する新たなTシャツに生まれ変わります。4日間の回収期間で約423キログラム(Tシャツ一枚を200グラムと換算した場合、約2,115枚)のTシャツを回収したそうです。
「『GREEN IS GOOD』が浸透しなかったのは、ただ『アパレルブランドが何か言っているなぁ』とお客様(消費者)に受け取られてしまったからだと考えています。それに対して『EXPLORE SOURCE』は皆を巻き込むプロジェクトになっていて、同じ循環型リサイクルを謳っていても随分と差があります。このように、コミュニケーションの仕方を工夫することで人の意識を変えていけることがわかりました」
他にも、使わなくなった子ども服を回収し、デザインを少し変えて再販売する「GREEN BATON」プロジェクトも推進しています。
「子どもは大人が予想できないような動きをしてすぐに服が汚れたり破れたりします。また、綺麗に着ていても子ども服はワンシーズンでサイズアウトすることもあるので、子ども服をリサイクルし、循環させるしくみを作ることが重要だと以前から考えていました。実際にプロジェクトとして始動したところ、最初はさまざまなご意見をいただきましたが、『世界に一つしかない、一点ものの服』という切り口でコミュニケーションを取った結果、この取り組みに賛同いただく意見が増えました」
「『SDGsは売れますか?』という質問をいただくことがありますが、『売れません』とお答えしています。売るためのものではなく、『誰のための未来なのか』を考えながらデザインし、コミュニケーションを取っていくものだと思っているからです」
そんな、笑みを浮かべながらも真っすぐな大坪さんの言葉が印象的でした。売れそうだから取り組むのではなく、環境問題のような「他人ごと」を自分と上手く結びつけることで環境のために何ができるかを考える。お客様にも、他人ごとを自分と結びつけてもらうためにコミュニケーションの仕方を工夫する。そうした姿勢があるからこそ、今回記事で紹介した事例にとどまらず、多くのプロジェクトに次々と取り組んでいけるのかもしれません。
次回のイベントも、ぜひご期待ください!
※1 What Is Climate Change?-United Nation
第2部では大坪さんとClimate Creative事務局でクロストークを行い、第3部でもイベントに参加した方々と今後の取り組み展望などについて対話をしました。
第2部のクロストークのアーカイブ動画はClimate Creativeコミュニティ参加者のみのご覧いただけます。(コミュニティには主にイベントご参加の皆様をご招待いたします。参加者募集中・過去のイベントはこちらから。)
【参照サイト】NEUTRALWORKS.
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