いま、大量生産、大量消費の現代社会に疑問を持った人々による「ゼロウェイスト」の波が世界中で起こっている。2013年、フランス人女性、ベア・ジョンソンが家族4人で1年に出すごみの量がわずかガラス瓶1本分(=1リットル)という、ごみナシ生活を紹介する『Zero Waste Home』が全世界でベストセラーになったことは記憶に新しい。
今回は、そんなベア・ジョンソンの生まれた国、フランスのゼロウェイストについてお届けする。フランスでは、売れ残り商品の廃棄を禁止する新たな法律 “Projet de loi relatif à la lutte contre le gaspillage et à l’économie circulaire(廃棄物と循環型経済への戦いに関する法案)”が2020年2月10日に施行され、国を挙げてゼロウェイストに取り組んでいる。
フランスで広がるゼロウェイストムーブメントの火付け役となっているのが、1997年に設立された非営利団体「Zero Waste France(ゼロ・ウェイスト・フランス)」だ。同団体は、政府や企業、市民に対して、日常生活で少しずつゴミを減らすための提案をしている。
そんなZero Waste France主導のもとに作られたフランスで初めてのゼロウェイストショップが、パリ18区のモンマルトルの丘のふもとにある。
「La Maison du Zéro Déchet(Zero Waste House)」というそのショップでは、ゼロウェイスト関連商品の販売や市民に向けたワークショップ、講演会が行われており、フランスで市民がゼロウェイストを学ぶハブとなる。
Zero Waste Houseの運営を支えるのは、ゼロウェイストに関心のある100人のボランティアだ。今回は学生ボランティアの一人、MélanieFourcy(メラーニーフォーシー)さんに話を聞いた。
市民の声がZero Waste Houseをつくるきっかけとなった
非営利団体Zero Waste Franceが、ゼロウェイスト ショップ「Zero Waste House」をつくるきっかけとなったのは、2017年にZero Waste France主催で開催した“Responsible Consumption”(責任ある消費)というテーマのもと開催されたイベントだった。
「イベントにはたくさんの来場者が訪れ、Zero Waste Franceはフランスでゼロウェイストムーブメントが起こりつつあることを確信しました。市民からも『ゼロウェイストに関していつでも対話できる場所が欲しい』という要望があり、2017年7月1日にこのZero Waste Houseをオープンするに至りました。」(メラーニーさん)
Zero Waste Houseでは、ゼロウェイストのヒントや自分のライフスタイルを考えるためのさまざまなワークショップを週に3〜5回開催している。縫製やアップサイクル、家具の修復、虫堆肥化などのワークショップや、石鹸、シャンプー、食器や洗濯洗剤、歯磨き粉、リップバーム、消臭剤、キャンドルなどを自分で作る方法、さらには日本の伝統的な風呂敷を手作りするクラスもあるという。他にも、廃棄物ゼロの料理教室や、ミニマリストのクローゼットの作り方など、さまざまなトピックが用意されている。
ワークショップには学生を中心とした若者や、「子どもにゼロウェイストの気持ちを持って欲しい」と願う親たちの参加が多いという。これらのワークショップはすべて、学生ボランティアによって運営されている。
Zero waste houseに置かれるアイテムの90%が地元フランスのものだという。輸送の環境負荷を減らし、小さな生産者をサポートすることを大切にしている。さらに、再利用可能な食器セット「OuiKit」の貸し出しも無料で行い、イベントやパーティーの際に団体や個人が再利用可能な食器を利用することで、ごみを減らすことを促している。
フランスのゼロウェイストの5原則
ゼロウェイストへのステップとして、日本では3R「Reduce(リデュース)」「Reuse(リユース)」「Recycle(リサイクル)」などの言葉をよく聞くが、フランスでは5R「Refuse(リフューズ)」「Reduce(リデュース)」「Reuse(リユース)」「Recycle(リサイクル)」「Rot(ロット)」と提唱している。最初の2つのRはゴミの発生を防ぐもので、3番目のRは配慮ある消費、最後の2つは出てしまったごみの適切な処理を目指すものだ。
リサイクル率がわずか42%のフランスでは、リサイクルはソリューションの一部にすぎないとしている。消費を減らすためにはごみ自体を減らして商品の寿命を延ばし、循環の中で消費を繰り返すことが大切だといえる。
1.Refuse(拒否する)
必要のないもの・使い捨てのもの・再び価値を見出すことができないものを拒否する2. Reduce(減らす)
浪費を避ける3. Reuse (再利用する)
シェアする、中古品を買う、修理する、あげる4. Recycle(リサイクルする)
資源化する5. Rot(堆肥化)
有機物を土に還す
「サステナビリティ」と「幸せ」は両立できる
Q. フランス人のゼロウェイストに対する意識は変わってきていると感じますか?
Zero Waste Houseは2年前にスタートしましたが、それからどんどんゼロウェイストのムーブメントが広がっていることを感じています。再利用可能なストローを持っている人は増えましたし、フランスの大きなブランドでも、包装なしで売る売り方が増えています。さらに、Zero Waste Houseはフランスのテレビ番組にも出演するほど注目されています。
Q. ゼロウェイストに関心がない人に対してはどのようなアプローチを取っていますか?
私たちのFacebookやInstagramを見てもらい、少しずつ興味を持ってもらうことから始めます。そして、ゼロウェイストで簡単に責任ある消費ができることを知ってもらいます。関心のある人がもっと広くムーブメントを起こし続けさえすれば、関心がない人もいつかはそれに続いていくと信じています。
ただ、強制はしたくありません。みんなで少しずつ、できるところから始めことが大事だと思います。郵便受けに入っているダイレクトメールを受け取るのをやめるとか、マイバックやマイボトルを持って出かけるとか。小さなことでいいんです。
Q. 他の国と比べると、フランスには量り売りのお店がたくさんあるのはなぜですか?
フランス人はそれが環境にいいことだけでなく、節約にもつながることを知っているからです。一度ボトルや容器を買ったらもう買わなくていいので、長期的に見たらお得です。「day by day」という量り売りのお店はご存知ですか?パリだけで40店舗以上あります。アクセスがしやすいから使う人も増え、また広がっていきます。
Q. メラーニーさんもゼロウェイスト生活をしているのですか?
今はゼロウェイスト生活をしていますが、昔はそうではありませんでした。高校生のときはファッションが大好きで、環境のことなんて気にしておらず、居心地のいい場所で妥協していたんです。でもそのときよく一緒にいた2人の友だちが私に、「サステナビリティ」と「幸せ」は両立できることを教えてくれたんです。
彼女たちは私に、メイク用のサステナブルコットンを教えてくれて、それが私の最初のアクションになりました。そして、初めの一歩は驚くほど簡単だったんです。そこから少しずつ生活を変えていき、ベジタリアンになって、ミニマリストになっていったのですが、生活の質がどんどん良くなっていくように感じました。ゼロウェイストの生活は、サステナブルであり、それと同時に「幸せ」です。もう普通の生活には戻れません!
Q. ゼロウェイストのメリットはなんだと思いますか?
ゼロウェイストは節約になるだけではなく、人々のマインドをシンプルに変えてくれます。私は、以前はいつもファッションに時間を費やしていたのですが、今は他のことに時間を割くことができます。ミニマリズムは、生活に余白を作りだしてくれます。
誰も排除しない。全ての人に「幸せ」を
Q. Zero Waste Houseが目指しているゴールを教えてください
私たちのゴールはゼロウェイストの社会を作ることです。そのために市民にアドバイスし、政府や企業にゼロウェイストを促していきます。
他の非営利組織との連携も積極的に行い、ホームレスにゼロウェイストアイテムをあげたり、携帯の充電やトイレの貸し出しを行ったりもしています。彼らはここで、会話を楽しむこともできます。Zero Waste Houseは誰も排除せず、すべての人にむけて、ポジティブなインパクトを起こします。
Q. 次のステップを教えてください
今いる消費者に良いサービスを提供することに集中したいので、拡大する予定は今のところありません。それよりも、もっと商品の数を増やし、定期的なワークショップを開催し続け、さらにサーキュラーエコノミーを加速させていきたいです。
実際、フランスで100%ゼロウェイストを実現させることは難しいと思っています。量り売りのお店でチーズを買っても、プラスチックの容器が棚に用意されているのも現状です。100%は無理かもしれませんが、目標を持つことで、ゴールに近づくことはできます。
編集後記
メラーニーさんが強調していたのは、ゼロウェイストが環境や経済的にもたらすメリットだけではなく、ゼロウェイストによって「暮らしがシンプルになっていく気持ち良さ」や「生活に余白ができて人生が豊かになる」という点だった。
2014年に『フランス人は10着しか服を持たない』という本が日本でも話題になったが、この本からも「フランスの人は多くのモノを持たずに上質なものを少しだけ持ち、日々を丁寧に暮らす」ことがうかがえた。また、パリは古い建築物が多く、街中には古着屋や古本屋、物を修理するリペアカフェなどが多く見られたことからも、昔からフランス人はモノを長く大切に使う習慣があり、それが自然とゼロウェイストの思考に結び付いているのだと感じた。
そうした理由から、メラーニーさんに「フランス人はゼロウェイストの考え方がフィットしやすいのかもしれないですね。」と話すと、すかさず「こんまり(近藤麻理恵)は日本人よね?彼女はフランスでとても人気で、本もベストセラーです。日本もミニマリストの国ですね。」という答えが返ってきた。
中にいると気づきにくいが、たしかに日本には仏教や禅の思想など、文化や歴史の面でミニマリストの要素が多くある。昔からシンプルな暮らしを大切にしてきた日本の特性こそ、ゼロウェイストの暮らしを実現する上で、大きな強みとなるのかもしれない。
La Maison du Zéro Déchet(Zero Waste House)の詳細
施設名 | La Maison du Zéro Déchet |
住所 | La Maison du Zéro Déchet se situe au 3 rue Charles Nodier, 75018 Paris. |
営業時間 | 月曜1PM〜8PM / 火曜・水曜・木曜日12PM〜8PM / 金曜12PM〜7PM / 土曜10AM〜7PM(日曜・祝日休み) |
URL | https://lamaisonduzerodechet.org/ |
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