新型コロナウイルス感染症の流行による非常事態宣言の対象が全国に拡大し、自宅で過ごす人が格段に増えた。しかし「おうち時間」が長くなってくると、毎日が短調になりがちだったり、ストレスが溜まってきたりするもの。そんな時に少しでも心豊かな時間を過ごして欲しいと、輪島塗ブランドの「千舟堂」が輪島塗食器の無料貸し出しを行う「おうち時間をもっと楽しく計画」をはじめた。
千舟堂を展開する株式会社岡垣漆器店 代表の岡垣祐吾さんに話を聞きながら、漆塗り食器レンタルキャンペーンの魅力をお伝えしたい。
ライフスタイルに合った漆器を提案する千舟堂
「おうち時間をもっと楽しく計画」の参加方法は簡単。家族構成や、どのような「おうち時間」を過ごしているか等の情報をEメールで送ると、おすすめの輪島塗が送られてくるという仕組みだ。返却期限は、新型コロナが収束するまで(返却時の送料は自己負担)。これまでに試作や見本品として料理の盛り付けなどに使用した菓子皿や、お盆、小皿、小鉢などを貸し出すという。購入の必要は一切ないが、もし気に入った場合は格安で購入することも可能だ。
筆者の家族構成は、連れ合いと私、3歳の娘。よく料理する方でお酒を飲むのも好き、と伝えたところ、お刺身や和菓子がぴったり合いそうな黒の小皿、ケーキも似合いそうな緑のお皿、そして娘には八尺升を送っていただいた。同封された手紙には「その年齢の女の子だと自分でお手伝いや盛り付けもしてくれるのではないでしょうか」とのメッセージ。自分のライフスタイルをもとに、食器を提案してもらうことの面白さ。何かと気持ちが落ち着かない今日この頃、その心遣いにほっこりした。
本サービス開始の理由とは?
株式会社岡垣漆器店の代表である岡垣さんに、今回「おうち時間をもっと楽しく計画」をはじめた理由を聞いてみた。
理由は二つ。一つは、家族で一緒に過ごせる時間ができたとき、何かプラスに捉えてもらえるような発信をしたい、という想いだ。在宅勤務が増えた今、コミュニケーションが上手くいかない会社や、家族の不和などマイナスの側面に焦点をあてた報道が目についた岡垣さん。この機会に家族や一緒に住んでいる人同士で普段はあまり触れることのない日本の伝統工芸に触れ、楽しんでもらいたいと考えた。
次に、漆を使う人を増やしたいという想い。岡垣さんは今年度から、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みの一環で、若手職人の育成と国産うるしの生産を両軸で支える「国産うるしプロジェクト」をスタートするのだが、近年は肝心の漆を使う人が減っている。そこで、これを機に漆に親しむ人を増やせたらと考えた。「減っている理由は値段や、購入機会があまり無いなどいろいろ考えられますが、今回は漆の扱い方に不安を感じている方々に着目しました」と岡垣さん。
漆器というと繊細で扱いが難しいイメージを持つ人が多いかもしれないが、実は意外とタフで熱や湿気、酸性やアルカリ性にも強い。岡垣さんによると「基本的には食洗器と電子レンジ以外はなんでも大丈夫です。洗う時はスポンジのやわらかい部分に中世洗剤をつけ、汚れを流してください。濡れているうちに乾拭きされることをおすすめしています」とのこと。漆は水分を与えると強くなる。天ぷらや油炒めなど熱いものや油ものも大丈夫ということだが、もし不安であれば、常温や冷たいものなどで試してみてほしいそうだ。ちなみに、貸し出し中に傷がついたりしても修理代などは不要なので、使用方法を参考にしながら普段使いできるところもキャンペーンの魅力である。
実際、岡垣さんは毎日の食事に使っているそう。「自称ノムリエ(日本酒愛飲家の勝手な造語)の私は仕事終わりにスーパーで買うお刺身を盛り付けたり、旬の野菜を焼いたりしたものをのせます。お酒と素材感のある食材という組み合わせが、私にとってとても落ち着く時間なので。子どもたちのおやつに輪島塗を使うのもおすすめです。じっと子どもたちの反応を観察してみてください。きっと目を輝かせてくれると信じています(笑)。そういう“心が動く瞬間”に輪島塗がなってくれると嬉しいです」
輪島塗は、木を削り、下地を重ねて磨いた後、上塗り、さらに蒔絵をほどこし表面に艶を出す、といった工程にそれぞれ熟練した職人さんが関わることでつくられる。「工程の多さから、販売価格を安価にすることは難しいのですが、まずは使ってみることで、人の手で仕上げられる艶ややわらかさを感じてほしい。今回の取り組みが輪島塗の購入につながらなくてもいいのです。ただ人の手で作られたものには、使う人の心に触れる力があると思っています」と岡垣さん。
元祖エコ技術でできた漆器に触れてみよう
「輪島塗の器には命が宿っている気がします。漆の技術に関して日本一の集団であろうとする、職人さんのプライドを感じる輪島塗。ぜひこれを機会に伝統工芸の良さに触れてみてください!」岡垣さんは、こんなメッセージを残してくれた。古くは縄文時代にはじまった漆は、元祖エコロジカルな技術でもある。使われる素材は木、漆、土とすべて天然のもの。長年使っているとさらに艶が増し、色合いにも深みが出てくるといった経年変化が楽しめる。また、欠けても修復でき、色落ちしても塗り直せばまた使うことができる。
まさに温故知新。外出自粛中には、漆の歴史や伝統的な技術の奥深さに触れてみてはどうだろう。新型コロナ収束後の暮らしや、社会のあり方に何かヒントをくれる機会となるかもしれない。
<申し込み方法>
「家族構成」と「どんなおうち時間を過ごしているか」を記載し、以下のアドレスに送ることで申し込むことができます。(日本国内在住の方のみ)貸し出しは無料ですが、返却時の送料はかかります。
株式会社岡垣漆器店メールアドレス okagaki@senshudo-japan.com
千舟堂(株式会社岡垣漆器店)
2008年洞爺湖サミットの乾杯盃(受注は輪島漆器商工業協同組合)を製作。近年は日本のものづくりをしている他社との協働にも力を入れており、洋服ハンガーや空気清浄器、メガネケースなども手がける。器では17色のカラーバリエーションがあるiro鉢などが人気。
Website: http://www.senshudo-japan.com/