新型コロナウイルス感染症によって、世界的に人々が集まる場の閉鎖が続く。そんな中、世界中の美術館や博物館は、オンラインでも所蔵資料が楽しめるように工夫を凝らしている。今回紹介するのは、イギリスにあるHastings Contemporaryの取り組みだ。このギャラリーは現在、テレプレゼンス・ロボット(高品質なカメラ機能を持ち、あたかもその場に相手がいるかのように感じられる技術で作られたロボット)を使ったオンライン「ライブ」ツアーの実現を目指している。
このプロジェクトは、英国アクセンチュアと西イングランド大学のブリストル・ロボティクス研究所が協働して行ったものだ。閉鎖してしまった美術館に「訪れる」体験を人々に届けるために生まれた活動だ。オンラインツアーでは、2台のロボットを使用する。1台はツアーガイド、もう1台は最大5人が遠隔操作できるロボットだ。このロボットを使えば、人々は自宅にいながら、それぞれのパソコンを使って美術館内を自由気ままに散策したり、気になる作品をじっくり見るために拡大したりできる。また、Hastings Contemporaryの魅力の一つである、雄大なイギリス海峡の景色を画面の中で堪能することも可能だ。
ツアーは、Hastings Contemporaryのメールアドレスに連絡することで予約できる。ツアーは全部で4種類用意されており、週に1度の開催を予定している。時間はおよそ30分ほどで、料金は無料の予定だ。「アートを鑑賞する機会は、全ての人々に開かれていなくてはならない。そして、今後我々は、その障壁を取り払うために尽力するギャラリーの一つになりたいと考えている。」とギャラリーディレクターのリズ・ギルモア氏はプロジェクトのプレスリリースの中で語っている。
イギリスの文化施設で、本格的にオンラインガイドツアーを実行するのはHastings Contemporaryが初めてのケースだ。今後、このプログラムをよりインタラクティブで、より質の高い良い体験へと強化するために、ギャラリーは、Googleからの協力を得て360度撮影可能なカメラも導入する予定である。こうした技術を用いると、新型コロナウイルスの感染が落ち着いた後も、心身の障がいを問わず多くの人へアートの鑑賞体験を提供することができる。美術館の所在地から離れていてもツアーに参加できるなど、私たちに今までと全く違った鑑賞体験ももたらしてくれるだろう。
人々が家から出ることができないこの状況下で、様々な分野の人々が新たな方法を模索している。アニメや音楽、映像コンテンツの無料配信はもちろん、日本でも、国立科学博物館が展覧会をオンラインで鑑賞可能にするなど、画期的な取り組みが始まっている。人々が行き交うことが不可能になってしまった今、文化を醸成する場は閉じることを余儀なくされている。しかし、この災禍の中でも挫けることなく、活動を続けている人々は世界中にいる。文明の火を、消してはならないのだ。
【参照サイト】You Can’t Visit the Museum. But Your Robot Can
【参照サイト】What is a Telepresence Robot and what can they do?