日本に先駆けて、ヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、現在に至るまで世界を主導してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。
ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。
前回は、「ヨーロッパのメンタルヘルスケア」をテーマに、フランスのサードプレイスや、ロンドンの相談所をご紹介した。今回の欧州通信では、11月の「世界ヴィーガンデー」にあわせ、イギリス・ウィーン・オランダ・エストニアのヴィーガン事情をご紹介する。
【オランダ】酪農大国オランダが生んだヴィーガンチーズ「Willicroft」
祖父が創業した酪農場とおいしい乳製品への情熱を引き継ぎ、未来の世代の地球環境のために植物由来の素材だけでチーズ代替食品をつくるのは、アムステルダム中心地の運河のほとりに店を構えるヴィーガンチーズ専門店「Willicroft」だ。
大豆を原料にしたクリームチーズ、オーツ麦を原料にしたG-OAT(ゴート)チーズ、大豆などを実際にチーズのように発酵させてつくるチーズフォンデュなどを扱う。どれも動物性食品が一切使われていないなんて信じられないほどの味わい。大手スーパーアルバートハインなどでも手軽に買うことができる。
【イギリス】ナイトライフを楽しめる、ロンドン初のヴィーガンパブ
「The Spread Eagle」は、ロンドン・ホーマートンにあるロンドン初のヴィーガンパブだ。イギリスの古き良き雰囲気がある店舗で飲食を楽しむことができる。
食事として提供されるのは(代替肉の)ミートパイやトフィープディングなどイギリスの伝統料理が中心で、前菜からデザートまでたくさんのメニューが揃う。ロースト肉・ジャガイモ・野菜をクレイビーソースで食べる、イギリス伝統的な食事「サンデーロースト」も、このパブでは色とりどりの野菜がすべて役目を取って代わる。
The Spread Eagleは単に食材を植物性のものにするだけではなく、廃棄物を最小限に抑えることも大切にし、すべての備品も植物ベースになっている。食材はロンドン近郊の農家から調達。子どもやペットの入店も可能だ。パブとしては珍しく座席の予約をすることもできる。
環境負荷を気にすることなく、ロンドンの夜の雰囲気を思い切り楽しむことができるパブとして注目されている。
【オーストリア】ヴィーガンに特化したスーパーマーケット「Billa Pflanzilla」
オーストリアの首都ウィーンに今年9月、国内最大手のスーパーマーケット「Billa」が同店初のヴィーガンに特化した店舗を開き話題になった。その名も「Billa Pflanzilla(プラント(植物)とゴリラを合わせた合成語」。
プラントベースの食物を食べる動物としては世界一大きいゴリラにちなんでいる。店内に入ると、一見普通のスーパーと全く変わりない商品の豊富さに驚く。店内には2,500種類のヴィーガン製品が並び、新鮮な野菜売り場、ナッツやシリアルなどの量り売りコーナーも備えられている。プラントベースのソーセージやハムなど加工食品、ピザ、バーガー、餃子なども。スイーツのコーナーも充実しており、チョコレートやカップケーキ、アイスクリームの種類も豊富で、「ヴィーガン食品は限定的」という時代は終わりつつあるようだ。
20代の女性買い物客の一人は、「ヴィーガンではないのですが、子どものときからベジタリアンです。ここのスイーツが好きでよく利用しています。種類が豊富なのが嬉しいですね」と話していた。ウィーンでは、大手ビオスーパーである「Denns」や普通のスーパーでもベジタリアンやヴィーガン用食品を扱っており、比較的容易に手に入る。また、市内のレストランの多くはベジタリアンかヴィーガンメニューを用意しているので、外食の際にも不自由しない。ヴィーガンインフラはかなり整っていると言える。
【エストニア】多くの選択肢があるエストニア
エストニアのヴィーガニズムの盛り上がりは、他のヨーロッパ諸国に比べるとまだまだかもしれない。しかし、大抵どのレストランやカフェにもベジタリアン・ヴィーガンの選択肢があり、スーパーの商品の表示も、ヴィーガン、グルテンフリー、ラクトスフリーなどマークで示されていることがほとんど。
今回ご紹介するのは、タリン駅と市場Balti Jaam隣にあるカフェ「Rohe Kohvik」。エストニア語で”Green Cafe”を意味する。コーヒーのミルクはプラントベースのものから選べ、フードメニューは言われなければお肉だと勘違いするほど。さらに、スイーツの種類も豊富だ。定番のケーキやシナモンロール、季節に合わせたものが多く並びぶ。日本ではセムラで知られている、北欧でイースターに食べるスイーツ「Vastlakukkel(ヴァストラクッケル)」も。
友だちやパートナーとも一人でも楽しめるカフェ「Rohe Kohvik」。他にも、エストニアに続々とオープンするヴィーガンレストラン・カフェからも目が離せない。
編集後記
いかがだっただろうか。ロンドンのヴィーガンパブからウィーンのヴィーガン専門のスーパーチェーンまで、ヨーロッパ各国の豊富なヴィーガンの選択肢を見てきた。
こうして見ていくと、ヨーロッパではヴィーガンインフラが整っており、いまやヴィーガンは「我慢しなければならないもの」ではなくなってきている。各国、商品や店舗デザインもモダンで工夫されており、楽しみながらヴィーガンを生活の中に取り入れているように感じる。
昨今、日本でもスーパーやコンビニでもヴィーガン商品が並ぶようになり、一気に身近になってきた。ヴィーガンフードに関するマーケットは2020年時点では197億ドル(約2兆5211億円)とされていたが、2030年までに363億ドル(約4兆6455億円)まで成長すると予測されている。今後、世界中でよりヴィーガンの食事に移行しやすくなるかもしれない。
参考動画
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レポート概要
- ページ数:105ページ
- 言語:日本語
- 著者:ハーチ欧州メンバー(IDEAS FOR GOOD・Circular Economy Hub編集部員)
- 価格:44,000円(税込)
- 紹介団体:36団体
- 現地コラム:8本
- レポート詳細:https://bdl.ideasforgood.jp/product/europe-ce-report-2022/
ハーチ欧州とは?
ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。
ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。
事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe