はちきれんばかりの笑顔。よく見ると四肢に障害(※) を持っていたり、ダウン症を抱えていたりする。彼らは、この日東京・渋谷で素晴らしいダンスパフォーマンスを繰り広げた総勢30名のダンサーたちだ。
2019年9月から2020月7月の約1年間を通じて、障害・性・世代・言語・国籍などを越えたパフォーミングアーツの祭典「True Colors Festival-超ダイバーシティ芸術祭-」が首都圏を中心に開催される。
True Colors Festival開催中には、ダンス・ミュージカル・音楽ライブ・演劇・ファッションショーなど、多彩な身体表現を行うシリーズ「True Colorsパフォーミングアーツ」、各イベントで支援を行うボランティア・プログラム「True Colors アテンダント」、次世代のダイバーシティに関わる人材育成を目指す「True Colors アカデミー」を開講。そしてさまざまな表現アプローチで多様性に関する学びを深めながら、2020年7月、 集大成となる「True Colorsコンサート」を開催するという。
このイベントを主催しているのが日本財団だ。これまでは東南アジア各国で、障害のあるアーティストがパフォーマンスを披露する「障害者芸術祭」を開催していた。今回は、フェスティバル長期開催の先駆けである、第一弾「True Colors DANCE」での模様と、日本財団常務理事の樺沢一朗氏へのインタビューを紹介しよう。
多国籍の障害者によるダンスバトル
True Colorsパフォーミングアーツの第一弾である「True Colors DANCE」では、壮絶なダンスバトルが繰り広げられていた。まずは、グループごとのショーケースとして、モントリオールを拠点に置き、メンバー全員が何らかの障害を持つブレイクダンサー集団ILL-Abilities (イルアビリティーズ)によるパフォーマンスが披露された。
グループ名の「ILL(イル)」の部分は、ネガティブな言葉をポジティブに転用するヒップホップの文化で「信じられない」「素晴らしい」「繊細」「センスがある」などの意味がある。「不可能なことはない」というメッセージを伝えるために結成されたという彼ららしいネーミングだ。
次にパフォーマンスをしたのは、SOCIAL WORKEEERZ(ソーシャル・ワーカーズ)だ。児童・障害者福祉職に就くメンバーを中心に結成されたチームで、「DANCE for SOCIAL INCLUSION 」をテーマに掲げている。
そして最後に、LJ BREAKERS(from LOVE JUNX)(エルジェーブレイカーズフロムラブジャンクス)。世界最大のダウン症の方専門のエンターテイメント団体「LOVE JUNX(ラブジャンクス)」の中から選抜された、ブレイクダンスに特化したチームだ。
その後それぞれのグループメンバーやスペシャルゲストがダンスバトルを展開した。
ブレイクダンスには基本的にルールがない。そうした特徴があるからなのか、会場には常に多様なありかたを受けいれようとする雰囲気が漂っていた。「ダンスを楽しむ」という強い気持ちのもと、障害やチームに関係なく全員が一つになっている様子に、来場者も温かい気持ちに包まれていた。
障害者を含め、多様な人が参加する社会の土壌を作りたい
この第一弾 True Colors DANCEを受け、本祭典の主催である日本財団常務理事でTrue Colors Festival総合プロデューサーの樺沢一朗氏に、今回の開催にかける想いや背景について伺った。
Q.これまで東南アジアでの開催ということでしたが、なぜ今回、このタイミングで東京開催になったのでしょうか?
やはり東京オリンピック前だから、ということが大きい理由ですよね。東南アジアでは、障害者の方に外に出てもらうチャンスを設けて、元気づけるために「障害者芸術祭」を開催していました。
今回は、東京オリンピック・パラリンピックという50年に1度の大きな機会で、一般の人のマインドセットを変えることをしていこうという企画で立ち上がりました。これまでは「障害者」という限られた人をターゲット層としていたのですが、一般の人の多様性に対する意識を変えるという目標は置いていませんでした。
今回は、ターゲットや目標を再設定し、東京オリンピック・パラリンピックに向かっておよそ1年間という長い時間をかけて、障害だけでなく、国籍やLGBTQといった多様性をテーマに芸術祭を開催することにしました。
Q.なぜ、もともと東南アジアで開催していたのでしょうか?
東南アジアには信心深い仏教教徒やムスリム、フィリピンだとキリスト教といった宗教色の強い国が多く存在します。例えば輪廻転生の考えがある仏教だと、前世に悪事を働いた人が障害を持って生まれてくる、というような教えがあるんですよね。だからそういった国・地域では障害者を家から出さないという独特の文化があります。
その中で障害者や、その周りの家族も含めて元気づけよう、外に出そうという思いで始まりました。障害のあるアーティストと言ってもプロの人だけではありません。一般の障害者が家から出てみんなで練習をして発表することで、一体感を感じられる機会を作ってきました。
Q.日本の障害者理解の現状はどうでしょうか?
日本は東南アジアほど宗教面での影響はないですが、今はパラリンピックのおかげもあって、障害者が注目されています。また、日本国内では、障害者がパンを作ったり、ホチキスに芯を入れたり、といった障害者が働ける施設もあります。東南アジアと比べると、社会に参加しやすい一面はあると思います。
ですが、障害者をとりまく現状の仕組みは持続可能性が高くないのではないかと考えています。今回の「True Colors Festival」では一般の人の意識を変えるだけでなく、東京オリンピック・パラリンピック以降に障害者がよりよい環境で働けるために何ができるかを考えていきます。
障害者が実際に社会に参画できるようになるために、これまで日本財団では奨学金授与といった人材育成をしてきました。現在、日本では従業員の2%以上で障害者を雇わなければいけない法律があります。残念ながら、少なくとも一部の企業にとっては「法律だからやらないといけない」「福祉として順守する」といった、ある種負担になってしまっているのが現状です。
そうではなく、会社として「障害者を雇うことで経済性がある」という感覚で雇用を促進できないかということを考えています。最新のテクノロジーを使い、働き方を工夫したり、視点を変えることで彼らが稼げる人になれます。一般の人の、障害者に対する認識を変化させ、その先には引きこもりの人も含めて、彼らが社会参加できる社会を作るということをTrue Colors Festivalと並行して同時にやっています。
多様性のおもしろさを感じてほしい
Q.会場に来た一般の方に伝えたいこととは?
頭で考えても分からないことってたくさんありますよね。会場や映像を見て、雰囲気を味わって頂いて、参加してくださった方が、多様な人々について少しでも想いを馳せる機会になればと思います。
また、出演者が多様なだけでなく、見た人がさまざまな形で楽しめるように、字幕を出したり、手話通訳を入れたり、体が不自由な人や子供がいる人は優先して見やすい場所に案内したりといった工夫をしています。
今回、初めての長期的な取り組みなので、この期間で出演者や来場者のために必要なノウハウを蓄積したいです。そしてオリンピック・パラリンピック以降も長く使えるガイドブックを作って、ノウハウを広めることでさまざまなイベントで多様な人が楽しめるようにしたいです。
Q.今回のTrue Colors Festival-超ダイバーシティ芸術祭-で注目してほしいことはありますか。
パラリンピックでは、選手の素晴らしいパフォーマンスに感動すると思いますが、この「True Colors Festival-超ダイバーシティ芸術祭-」では健常者の人、障害者、さまざまな国出身の人、そしてLGBTQの人が、ある種ごちゃまぜでいるステージが、社会の写し鏡であることを感じると思います。それを見た人にとって、「多様な人が共存することっておもしろい」という社会の見方が変わる瞬間になるのではないかなと思っています。
インタビュー後記
今回、オリジナルなダンスでダンスバトルをしているダンサーたちや、障害者・健常者関係なく笑顔でこの雰囲気を楽しむ出演者と観客を見て、まさに「多様性っておもしろい」という感覚を体感できた。
障害者、LGBTQ、外国人、といった自分とは違う個性を持った他者に対して、「自分とは違うから」「よくわからないから」という固定観念で排除してしまった歴史がある。だが、分かりやすいラベルではなくても、「人とうまく話せない」「朝起きるのが苦手」といった、人はさまざまな個性や、他の人とは違うことに対する悩みを抱えている。これまでの「自分とは違う個性を排除する社会」では、何でもこなせる優等生でなければ生きづらい社会になってしまう。
この祭典は、誰もが生きやすい世の中になるための最初の大きな一歩だ。この1年を超えた後に、私たちがどんな未来を作り出していけるのか、期待したい。
※「True Colors Festival -超ダイバーシティ芸術祭-」主催の日本財団表記に基づく。
【参考サイト】True Colors Festival-超ダイバーシティ芸術祭-
【参考サイト】日本財団、「ダイバーシティ&インクルージョン」に関する意識調査を実施