いま、ファッションの中古市場は従来の小売と比べて24倍ものスピードで成長している。アメリカだけで200億ドル(約2兆2,000億円)に相当し、今後4年たらずで530億ドル(約5兆7,000億円)に成長する試算だ。次の10年で、ファストファッションよりも大きな市場になることが予想されている。
ファッション業界に改革が起きている中で、現在のファッションブランドはミレニアル世代の消費者が持つ「サステナビリティ」の価値観から、切り離されている。それだけではなく、中古市場へのインフラを持っていないブランドやリテーラー(小売業)は、収益化する大きなチャンスを逃してしまっている──。
そんなファッション業界の「サステナビリティ」と「収益性」の課題を、同時に解決しようと取り組むのが、シンガポール発のスタートアップ企業「Reflaunt(リーフロウント)」だ。Reflauntはブロックチェーンのテクノロジーを使い、ハイブランドの一次市場と中古市場を結びつけることによって製品寿命を伸ばすことができ、さらにブランドが中古市場にある自身の製品を把握して収益化できるサステナブルなファッション循環の仕組み(サーキュラーエコノミー)を生み出している。
現在、イギリスのロンドンにマーケティングチームのオフィスを構え、バレンシアガのCEOやアリババの創設者などから資金調達し、ヨーロッパを中心に急拡大している。大手ラグジュアリーブランドからも注目され、サービスのウェイティングリストもあるほどだ。
「ブランドが関与するかどうかに関わらず、中古市場は成長し続けます。他のブランドが中古市場に進出するのをただ傍観していたいのか、それとも関与してサステナブルかつ経済的な機会を得たいのか。問いは非常にシンプルです。」
「数年前にデジタルトランスフォーメーションが起こりましたよね。すべてのブランドは、消費者は店舗を求めていると思っていて、インターネットは自分たちに関係のないものだと思っていました。しかし、今日ではインターネット市場はこれほどまでに拡大しています。中古市場もこれと同様です。消費者のニーズを常に見極めなければ、新しい市場のコントロールを逃すことになります。」
そう話すのは、Reflauntの共同創業者(CCO)であるFelix Winckler(フェリックス・ウィンクラー)氏だ。今回はフェリックス氏に、Reflauntがファッション業界にどんな革命をもたらすのかを、「経済」「環境」「透明性」の3つの視点で話を聞いた。
一次市場は、急成長している中古市場の方程式から外れている
Reflauntはもともと、共同創業者であるStephanie Crespin(ステファニー・クレスピン)氏が以前勤めていたアパレル企業のサイドビジネスとして始まったという。シンガポールを拠点とし、マレーシアや香港にも展開するハイブランドの中古販売プラットフォームだ。
このプラットフォームを実装する中で、ステファニー氏が気づいたのは、中古市場の非効率さだったという。もっとも衝撃的だったのは、一次市場であるブランドが、全くと言っていいほど中古市場の方程式から外れていたことだ。
「いま、アメリカだけで200億ドルの中古商品の市場規模があるにも関わらず、現状の仕組みでは、ブランドが中古市場に移った自分たちの商品をコントロールできていません。中古市場は、まだまだ複雑です。特にヨーロッパでは、どこに市場があるかを探さなければいけないですし、オンラインで再販する際にはわざわざアカウントを作ったり、商品情報を書く手間もあります。」
ローカルパートナーと何度かテストを実装した後、そうした面倒な作業をワンクリックで行うことができるReflauntという一つの企業が誕生した。Reflauntは新しいプラットフォームを必要とせず、ブランドが持つ既存のECサイトを活用して、中古市場に参入することができる。
ブランドを中古市場と結びつけ、成長する力を与える
Reflauntがつくる仕組みはシンプルだ。顧客がブランドのECサイトで購入した商品を再販したいとき、購入したサイトのアカウントページで「再販ボタン」をワンクリックする。そこから商品データが取得され、アリゴリズムで適正価格が提案される。
その後、ブロックチェーン技術によって商品にデジタルIDが割り当てられ、認証済みの商品はReflauntが提携しているVestiaire CollectiveやVIDE DRESSINGなど、世界中の中古市場ネットワークに再販される。商品がどれかのプラットフォームで購入されると、商品情報は他のすべてのプラットフォーム上で消え、最終的に出品者はブランド内で使えるストアクレジットまたは現金を受け取る。
Reflauntはブランドに対して、この一連の中古品取引に関する商品や購入者のデータも提供しており、ブランドが中古市場を収益化させるきっかけを与える。
「現在、ほとんどのブランドのECサイトでは、マイアカウントを作成しますよね。このマイアカウントには、過去に購入した商品がすべてリストアップされています。しかし今日では、この購入履歴はあまり有効に使われていません。私たちは、ここにReflauntのスマートボタンを統合することで、マイアカウントの購入履歴を顧客のデジタル・クローゼットに変えるのです。」
さらにReflauntは、ブロックチェーン技術によるデジタルIDによってサプライチェーンの「透明性」を実現し、一次市場から中古市場、そこから顧客の手に渡るまでの商品のトレーサビリティシステムの構築を実現する。また、Reflauntを使うと、偽物の商品を転売することができない。なぜなら商品を再販するためには、オリジナルの商品を購入している必要があるからだ。
再販だけでなく、アップサイクルと寄付も。オンラインだけでなく、リアル店舗も。
Reflauntは、在庫の流通を専門として世界中にバイヤーを持つ「YELLOW OCTOPUS」とも協働している。YELLOW OCTOPUS(イエロー・オクトパス)は、ブランドから在庫を購入して再販するだけではなく、リサイクルや寄付にも取り組む。
YELLOW OCTOPUSとReflauntの出会いは、オランダにある世界初のサステナブルファッションミュージアム「Fashion for Good」だった。YELLOW OCTOPUSは、「reGAIN」といういわばリサイクルのUberのようなサービスを展開している。イギリスで服のアップサイクルが可能な場所を地図上に表示し、ユーザーが着なくなった服を持っていくことでYELLOW OCTOPUSによってその服にセカンドライフが与えられる。このコラボにより、販売可能なものはReflauntが再販し、そうでないものはreGAINによってリサイクルまたは寄付される仕組みが出来上がった。
また、現在Reflauntは、フランスやイタリア、スペインなどのヨーロッパを中心に「ルイ・ヴィトン」など60近くのハイブランドを持つLVMHグループが創設した「La Maison des Startups」という世界の新しいビジネスの開拓を支援するアクセラレータープログラムにも参加している。LVMHは現在、2018年4月にフランスのパリに設立された、世界中の有望なスタートアップやVCが入居する世界最大のインキュベーション施設であるStation Fにオフィスを構える。これにより、世界中の企業とのコラボレーションが安易になる。
さらに、現在はシンガポールのラグジュアリーブランドを取り扱うオフライン店舗「Club21」ともコラボレーションし、リアルな店舗とデジタル・クローゼットがつながる仕組みも構築している。
「古くからあるデパートの多くは、ビジネスモデルを再考する必要があります。私たちは、オフラインからオンラインにも顧客を連れていくことができるリアルなサービスも行っています。リアル店舗で商品を買うと、デジタル・クローゼットにアクセスすることができ、将来的にそこから再販することが可能です。」
Reflauntとコラボレーションすることが、サステナブルであることを意味する時代へ
ファッション産業は、人間の活動によって排出される二酸化炭素量の10%を排出し、2番目に水を多く消費する産業であると言われている。昨今、多くのブランドが生地や染色をサステナブルなものにするにはどうしたらいいかを試行錯誤しているが、それにもかかわらず消費者は、クローゼットにある服の20%しか実際に着ていないというデータがあるという。
「もし生産から消費までの循環ループの最終地点にいる消費者が使用済みの服を捨ててしまえば、それまでの過程でブランドがどんなに努力をしたとしても循環のループを閉じることができません。また、多くのブランドがソリューションとしてリサイクルを検討していますが、リサイクルにも大量の水を使用します。つまり、クリーンなリサイクルプロセスなど存在しないのです。」
「また、Reflauntとコラボレーションすることで、そのブランドの商品が長く使える高品質なものであることや、ブランドとしてサーキュラーエコノミーに取り組んでいること、サステナビリティを意識していることなど、ポジティブなブランドストーリーを顧客に伝えることができます。そしてそれは、一次市場の購入者を増やすことにも自然とつながるのです。」
「問題は大量生産大量消費の世界をつくるファストファッションにあります。1枚のTシャツを作るのに大量の水が必要なのにも関わらず、5ドルでTシャツを買うことができるなんて大問題です。それよりも、50ドルの高品質で長く着ることができるTシャツを買うほうがよっぽど合理的です。新しいものが欲しくなったらそれを売ってまた別のものを買えばいい。年に一度、デジタル・クローゼットを見直し、不要なものを売って、新しいものを手に入れる。そうするために人々は、最初から高品質な服を買うようになるのです。」
ブランドは、消費される服ではなく資産になる服を作るべき
「今の消費者はサステナブルなブランドの商品を買うことを好む傾向にありますが、ファッションを消費することは、もっと原始的なものであって、合理的な行動ではありません。」と、フェリックス氏は自身のファッションに対する価値観について語る。
「私たちは必要だからファッションに気を使うのではなく、個人のアイデンティティの一部としてファッションを楽しむのです。好きな服やアクセサリーを身につけることで、自分のアイデンティティを構築していく。だからこそ私たちは、再販が容易にできる世界をつくり、人々がファストファッションではなく高品質な商品を好んで手にする世界を目指します。商品を循環させることで新しいものを見つけて交換することができ、ファッションを楽しめる世界が実現するのです。」
最後に、そんなファッションの「あり方」を考え続けるフェリックス氏に、Reflauntは今後どうなっていくのか訪ねた。
「今、ファッション業界の重要人物と一緒に、ヨーロッパで非常に素晴らしいサービスの展開を予定しています。2020年には日本に焦点を当てて、日本でのネットワークも拡大していきたいと思っているところです。最終的には、SaaSのプラットフォームとして、ECサイトを持っている人であれば誰でも使うことができるサービスにします。」
「いずれは、人々がデジタル・クローゼットからアイテムの現在の価値を見出して、適切なタイミングで再販を楽しむ世界がくるのではないでしょうか。スニーカーや衣料品を再販するサービス『Stock x(モノの株式市場)』のようなイメージです。価値が高くなるタイミングを見計らって売ることはスリルであり、ショッピング体験の一部でもあります。私は、これがファッションが行き着くところだと思います。ブランドは、次々と製品を作って手放していくのではなく、資産になるものを作るべきです。たとえば、Levi’s(リーバイス)は複数のヴィンテージモデルを持っています。歴史に残る作品としてジーンズを扱っている。そうした歴史を持つことこそが、ファッションを定義するようになると思っています。Reflauntが創り出すのは、そんな世界です。」
編集後記
「ブランドは、次々と製品を作って手放していくのではなく、資産になるものを作るべき。」というのは、大量生産大量消費の時代では考えられかった視点だった。これまでは、ブランドが一次市場から顧客に渡った商品の情報を把握し、ましてやどの商品が中古市場に運ばれるかを知ることは不可能だった。しかしそれをReflauntのテクノロジーによって可能にすることが、生産者にとっても消費者にとっても、モノへの価値観を考え直すきっかけとなるだろう。
新しいファッションを楽しむために低価格で服を買い、廃棄することを繰り返していた消費者も、中古市場が容易になることで、これからはたとえ少し値段が高くても高品質な服を買い、また新しい服が欲しくなればそれを売り、そのお金でまた服を買うことを楽しむ。そうとなればブランドも、そうした消費者のニーズにあわせて、中古市場でも長く生き残れる高品質な服を作るようになる。
また、Reflauntの驚くべき成長力の背景にあるのは、コラボレーション力だろう。ファッションやテクノロジー業界の大手企業を巻き込み、サービスを拡大させている。Reflauntのサービスを日本で見る未来も、きっとそう遠くはないだろう。
【参照サイト】Reflaunt
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