2023年は、記録的な気候変動の年となった。特にこの夏は、観測史上最も暑い夏として記録されたことも記憶に新しい。11月までの1年間で、平均気温は産業革命以前の水準よりも約1.5°C高かったと報告されている(※1)。また、夏の南極の海氷は観測史上最低の範囲まで縮小し(※2)、カナダやハワイなどでは大規模な山火事も発生したのも今年の出来事だ。
地球の気候は私たちの予想よりもずっと速く変化し、すでに多くの人々が気候変動の直接的な影響を受け始めている。気候変動は将来起こりうるものではなく、現在進行形で起こっているという状況を目の当たりにした1年だった。
緊急性が高まる中でも、気候変動に関して大きな動きを感じられた1年でもあった。本記事では、日頃から世界のソーシャルグッド事例をウォッチするIDEAS FOR GOODが2023年に注目した、「気候変動に関する出来事」を振り返っていく。
2023年に起こった、気候変動をめぐる10のハイライト
01. 国連が初めて「公海」を保護する条件案を採択(6月)
国連は、どの国にも属していない「公海」を保護するための初めての条約案を採択。これにより、これまで管理されていなかった海洋の約6割を占める公海における海洋生物保護が行われるようになり、さらに公海に海洋保護区域を設ける新たな機関が創設されることになる。また、海洋での商業活動に対する環境影響評価の基準を設定することや、各国間の経済的な格差がこれ以上広がらないよう、資源の公正な分配についてもルールが制定されることとなった。
02. EU自然再生法、2030年までに陸と海の20%を再生へ(7月)
欧州議会は、欧州全域で生態系を回復するための「自然再生法(Nature Restoration Law)」を可決した。この法案は欧州グリーンディールの一環として、欧州全土の生態系の再生と保全を目指すもの。具体的には、2030年までにEUの陸地および海域の少なくとも20%を再生し、2050年までには必要とされる全ての生態系の復元を目標としている。この法案は脱炭素化、炭素貯蔵の促進、洪水などの自然災害の防止または軽減などを重視しており、環境の持続可能な利用と食料システムの強化にも寄与することが期待されている。
03. 欧州で「Beyond Growth会議」が開催(7月)
欧州議会で開催された「Beyond Growth会議」には、現地・オンライン合わせて4,500名以上が参加。「Beyond Growth」とはつまり「成長を超えて」を意味する。現在、私たちが当たり前としている経済指標・GDPが、私たちをウェルビーイングに導いてくれるのかを問い直しながら、「ポスト成長」や「脱成長」などの概念が模索された。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は開会の辞で、「各国政府は国内総生産(GDP)成長を目標として使うのをやめ、代わりにプラネタリー・バウンダリー内でウェルビーイングを目指しながら迅速かつ緊急に行動しなければならない」
と述べ、スタンディングオベーションが起こった。
04. 米国の気候変動裁判で若者が州に勝訴(8月)
2023年6月、米国モンタナ州で、州史上初の憲法に基づく気候変動裁判が開かれた。5歳から22歳までの16人の若者が、州政府の化石燃料採掘政策が地球温暖化を悪化させ、「清潔で健康的な環境」に対する州憲法上の権利を侵害していると主張。裁判では、若者たちが気候変動が健康や生活に与える影響を証言。8月14日、彼らの勝訴が決定し、州の化石燃料政策は違憲とされた。この判決は、モンタナ州だけでなく、全米に影響を与える可能性があると評価された。
05. 地球環境の限界を示す「プラネタリー・バウンダリー」初の全体マッピング公開(9月)
人々が地球で安全に活動できる範囲の限界点である「プラネタリー・バウンダリー」として知られる9項目が初めて詳細にマッピングされたことが話題となった。結果によると、9つの境界のうち6つ(「気候変動」「生物圏の一体性」「土地利用の変化」「淡水利用」「生物地球化学的循環」「新規化学物質」)がすでに上限を超えていることが明らかにされた。ポジティブなニュースではないが、今後私たちが地球のレジリエンスを保護、回復、再構築していくにあたり、現状を把握するための大きなステップとなった。
06. 産官学サーキュラーエコノミーパートナーシップの立ち上げ(9月)
2023年9月、岸田首相は「産官学サーキュラーエコノミーパートナーシップ」の立ち上げを発表し、地方を中心とした資源循環の取り組みを促進する方針を打ち出した。経済産業省が策定した「成長志向型の資源自律経済戦略」を実現するための具体的な取り組みであり、自治体、大学、企業など多様な関係者が協力し、経済合理性を高める協調領域の拡張を目指す。この動きは、日本のサーキュラーエコノミー移行を加速し、地方活性化の新たな道を開く重要なステップとなるだろう。
07. G20インドサミットが開催(9月)
インドのニューデリーで開催されたG20サミットは、「ひとつの地球、ひとつの家族、ひとつの未来」というテーマのもと、食料安全保障、気候変動、エネルギー、保健などの重要な課題について討議された。特に注目されたのは、アフリカ連合(AU)のG20加盟と持続可能な開発目標へのコミットメントの強化だ。このサミットでは、ロシアのウクライナ侵攻に対する議論があり、核兵器の使用や威嚇の非難、領土獲得のための武力行使の控えるよう呼びかける内容の首脳宣言が採択された。アフリカ連合の加盟は、世界経済におけるアフリカの重要性を示し、より広範な国際協力と代表的なグローバルガバナンスの促進に寄与する歴史的な出来事となった。
08. 国際エネルギー機関が新たな脱炭素ロードマップを発表(10月)
国際エネルギー機関(IEA)は2023年に新しい脱炭素ロードマップを発表し、2050年までのネットゼロ目標達成に向けた戦略を提案した。この報告書「Net Zero by 2050」の最新版では、クリーンエネルギー技術の顕著な進歩により、1.5度の気温上昇目標が達成可能であると述べている。重要な戦略としては、再生可能エネルギーの発電設備容量を3倍に増やす、エネルギー効率の改善ペースを加速させる、電化を推進する、化石燃料産業からのメタン排出を削減することが挙げられた。
09. ケニア・ナイロビにて国際プラスチック条約の内容を決めるための3回目の政府間会合(INC-3)が開催
11月には、ケニアのナイロビで国際プラスチック条約の制定に向けた第3回政府間交渉会議(INC-3)が開催された。世界的なプラスチック汚染問題に対処するための重要なステップである本会議では、プラスチック汚染対策の国際条約を作成するための交渉が行われ、INC議長によって作成されたZERO DRAFTテキストを基に討論が進められた。2024年4月には第4回がカナダのオタワで開催予定で、条約案の最終的なまとめや最終確認が行われる予定だ。
10. 国連気候変動対策会議「COP28」がドバイで開催(11月)
11月30日から12月12日(13日まで延長)には、世界有数の産油国アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで、国連の気候変動対策会議「COP28」が開催された。約200か国が参加し、気候変動対策の進展を模索した。今回のCOP28では、パリ協定が目指す1.5度目標達成のための「グローバル・ストックテイク」が初めて実施された。また、歴史的な転換点として、化石燃料の削減の合意が形成。同時に、気候変動からの「損失と損害」基金に関する初の合意や再生エネルギーの拡大目標なども議論された。課題は依然として多く残っているが、COP28では化石燃料からの転換を象徴する成果が得られたと評価されている。
気候変動対策は大きな転換点を迎えている
いかがだっただろうか。今年3月に発表された「IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)」の第6次評価報告書の統合報告書では、地球の温度はすでに1.1度上昇しており、現状のペースだと20年後には1.5度を越え、2100年には3.2度上昇すると提示されたのも印象的だった(※3)。
また、産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える国際枠組みであるパリ協定の目標の達成には、温暖化ガス排出量を2035年に19年比で60%減らす必要があるということが強調され、現状の対策では不十分であることも提示された(※3)。
こうした状況の中、7月に欧州で「Beyond Growth会議」が開催されたことが象徴するように、世界ではいま「私たちがこれまで当たり前としていた経済指標・GDPが、本当に人々をウェルビーイングに導いてくれるのか」という点が議論され、根本的な社会のあり方が見直され始めている。COP28で「化石燃料からの転換」が合意がなされたことも含め、気候変動対策は大きな転換点を迎えていると言っても過言ではないだろう。
IDEAS FOR GOODでは2024年も引き続き、気候変動に関する世界のグッドアイデアをみなさんにお届けしていく。
※1 2023 on track to become the warmest year after record October
※2 Understanding climate: Antarctic sea ice extent
※3 Urgent climate action can secure a liveable future for all