近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「欧州通信」では、ヨーロッパの食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点から欧州各国の情報をお届けする。
前回は「公共住宅」をテーマに、欧州における住宅事情やより公正なシステムを生み出すための住宅システムなどをご紹介した。今回の欧州通信は、ロンドン特別編。2024年6月に英国サステイナブル・レストラン協会(SRA本部)、そして日本サステイナブル・レストラン協会(SRA Japan)のアテンドのもと、ロンドンのサステナブルなレストランやカフェなどをめぐり、レストランやカフェの取り組みを深掘りするツアーが開催された。
今回はそのツアーで巡った店舗を中心に、ロンドンでいま注目される店舗を実際に訪れた様子をお届けする。
屋上農園から直接調達された野菜も。The Culpepperのパブで伝統的なイギリス料理を楽しむ
The Culpeper(ザ・カルペッパー)は、サステナブルな運営を実践しているパブ兼レストラン。いくつかのフロアがあり、それぞれがユニークなダイニング体験を提供している。また、同じ建物にはブティックホテルも併設されている。
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The Culpeperの取り組みでユニークなのは、「屋上庭園」だ。屋上の約130平方メートルのうち、約47平方メートルが庭園として使用されており、キッチンやバーへ新鮮な食材を提供している。これにより、食材の輸送に伴うカーボンフットプリントを削減するのと同時に、お客さんも季節ごとの新鮮な料理を楽しむことができる。
現地で生産できない食材は、再生農法を重視するサプライヤーから調達されているという。さらに、The Culpeperはロンドンの他のパブ(The Duke of Cambridge)とパートナーシップを組んで、Deptfordというエリアに325平方メートルの農場を建設した。
現地で注文したのは、イギリスのパブではお馴染みのフィッシュ&チップスや、シーザーサラダ、ニョッキなど。パブにしてはメニューに生の野菜が多く取り入れられている印象だ。
ドリンクとしては、屋上で栽培されたセロリを使ったカクテルや、エルダーフラワーを入れたモクテル(ノンアルコールカクテル)を楽しむこともできた。外の光が入る開放的な空間で、イギリス産の野菜を楽しみながら、パブの雰囲気を堪能するにはもってこいの店舗だ。
【参照サイト】The Culpepper
エシカルなコーヒー調達、キッチンごみは最小限に。Ozone Coffee Roastersでこだわりの一杯を
B Corp認証を取得するOzone Coffee Roasters(オゾン・コーヒー・ロースターズ)。彼らは透明性の高いコーヒー調達と焙煎プロセスの改善を図っており、エシカルなコーヒーの文化を広めている。同社の専門のチームが世界中のコーヒー生産者と直接取引を行うことで、生産地域での公正さを保った取り組みを促進するとともに、高品質なコーヒーを提供しているのだ。
今回はロンドンのOld Streetにある店舗を訪問した。その店舗では、コーヒーだけではなくオープンキッチンで用意された料理も楽しむことができる。キッチンでは、使わなかった野菜や果物の皮などの廃棄物から甘い糖のシロップをつくったり、バナナブレッドを作る際に出たバナナの皮の廃棄で、キャラメルを生成したりしていた。どちらも色々な料理に使えそうな上品な甘さだ。Ozone Coffee Roastersのキッチンはまるで小さな実験場のよう。
コーヒーかすのごみはバイオガスの生成にも使われている。そんなこだわりのつまった店舗で、とっておきの朝の一杯を楽しんでみてはいかがだろう。
【参照サイト】Ozone Coffee Roasters
カーボンニュートラルなメキシコ料理を堪能できるWahaca
メキシコ料理チェーン・Wahaca(ワハカ)は、2016年にイギリスでカーボンニュートラル認証を受けたレストランであり、環境への影響を最小限に抑えるための様々な取り組みを実施している。
彼らの取り組みでユニークなのは、メニューに各料理のカーボンフットプリントを表示していることだ。この情報は気候専門家との提携によって詳細なライフサイクル分析に基づいて提供されているという。
さらにWahacaは、食材調達にも力を入れており、自由放牧の鶏肉や豚肉、卵を使用し、牛肉の提供を削減することで環境への負荷を軽減している。また、メニューの約60%がベジタリアン向けで、さまざまな食事のスタイルの人が楽しめるようになっている。
エネルギーと廃棄物の管理においても、冷蔵庫から発生する熱を使用して水を温めるなどの方法を採用し、避けられないエネルギー使用については、メキシコでのプロジェクトを支援することでオフセットしているという。
サステナブルな取り組みを重視しつつも、彼らは「お客さんのエンゲージメントを高めすぎない」ことにも重点を置いているそうだ。それは、あまりに情報が多くなると、食事に対して罪悪感を感じてしまうから。単に「サステナブルな食事」を広めるのではなく、「豊かな外食文化」を広げたいと話す彼らの言葉通り、店内にはカラフルな食事を囲むお客さんの話し声や笑い声が響き渡っていた。
【参照サイト】Wahaca
ミシュラン・グリーン・スターを獲得したApricityで、“あたたかな”一皿を
シェフ兼オーナーのシャンテル・ニコルソン氏が率いるレストラン・Apricity(アプリシティ)。サステナブルな取り組みが認められ、ミシュラン・グリーンスターを受賞している。
Apricityでは、メニューの内容だけでなく、レストランの運営全体にわたってサステナビリティの哲学が組み込まれている。地元であるロンドン近郊およびイギリス産の食材を中心に使用し、メニューは週ごとに変わり、地元の生産者から入手可能な食材から逆算してつくられる。これにより、食材の輸送距離を減らし、地元農業を支援しているのだ。
また、レストランの内装にも彼らの哲学が反映されている。例えば、店内の照明は牡蠣の殻をアップサイクルしたもの、そして天井の吸音材はマッシュルームの菌糸を使って作られたものだ。
Apricityでは、サステナビリティの理念をスタッフの働き方にも浸透させており、キッチンスタッフが自然光の中で働ける環境を整え、日曜日と月曜日は完全休業としている。また23時には完全に店を閉められるようにし、スタッフが公共交通機関を使って家に帰れるようにしている。
Apricityとは、「冬の太陽のあたたかみ」を意味するそうだ。その言葉の通り、店内は、環境とお客さん、そして従業員に対する思いやりが溢れた彼らが醸し出すあたたかな雰囲気に包まれていた。
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【参照サイト】Apricity
編集後記
ロンドンは大都市ながら、大きな公園や緑地が多くあり、それが街ののびのびとした雰囲気につながっている。しかしそれらの土地が「農地」として使われていることは多くない。そのため、食糧を調達しようと思うと、郊外やイギリスの国外から取り寄せざるを得ないものもある。
今回紹介したレストランでは、そうした制約を乗り越えようとさまざまな工夫がこらされており、むしろ彼らのクリエイティビティはその制約ありきなのではないかとすら思わされた。そして単に食糧をサステナブルな方法で調達するだけではなく、それが従業員が生き生きと過ごせる環境でつくられ、そして結果としてお客さんが良い「食事体験」ができるようにと気が配られていた。
紹介したレストランとつながりを持つサステイナブル・レストラン協会は、Food Made Goodスタンダードのような飲食業界向けの包括的なサステナビリティのグローバル基準をつうじて、世界各地でコミュニティを築き、知恵を交換し合っている。飲食業界の循環を加速したい、サステナブルな食生活を模索したい……そのように考えている方は、ぜひ日本サステイナブル・レストラン協会から発信される情報もチェックしてみてはいかがだろう。
▶︎詳細はこちらから:日本サステイナブル・レストラン協会
The learning journey presented by Sustainable Restaurants Association Japan
Text written by Megumi
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