食のあり方、飲食業界のあり方を変えていくため、日本でより多くの飲食店・レストランがサステナビリティに配慮した運営ができるよう支援している団体がある。英国に本部があるSRA(SUSTAINABLE RESTAURANT ASSOCIATION)の日本支部、日本サステイナブル・レストラン協会だ。そんな日本サステナブル・レストラン協会の加盟レストランを巡り、先駆者となってサステナビリティへ向かう飲食店の取り組みを紹介していく連載シリーズ「FOOD MADE GOOD」。
第2回目の本記事でご紹介するのは、広島県福山市のビジネスホテルの朝食レストラン『cafe rest montrose(カフェレスト モンローズ)』(以下、モンローズ)だ。モンローズを目当てにホテルに滞在するリピーターのお客さんがいたり、週末には地元の親子連れがやってきたりと、満足度の高い料理を提供しているレストランである。
今でこそ生産者やお客さんとのつながりが強く、地元に愛されるレストランであるモンローズだが、1年前はまだ、サステナビリティとはかけ離れた状態だったという。
たった1年でサステナブルなレストランへの大革命を成し遂げた秘訣を探るため、マネージャー吉井知世さんにお話を伺ったところ、見えてきたのは「つながり」だった。
「汚い」と言われ捨てられた土のついた有機野菜ゴボウ
2年前の2019年10月。吉井さんがモンローズに配属になった当初は、使っている野菜は全てスーパーから一番安いものを調達していたという。外国産の水煮缶や安い野菜、鶏肉、冷凍食品の揚げ物やケーキ。農家とのつながりはゼロで、お客さんとの会話は皆無。50種類以上のお惣菜を並べるフルバイキングのスタイルで、お客さんは「たくさんお皿にとってたくさん残す」という状態が日常だった。
「どんな人が何を求めにきているかもわからなかったので食べ残しも多く、調理中も可食部をガンガン捨てていたので、食品ロスは今の20倍以上でした。」
そんな状況を変えようと、当時生産者さんからもらった有機野菜を吉井さんがキッチンスタッフの元へ持っていくと、「細いゴボウは使いづらいし剥くのが大変だからだめ。土がついているから汚い。トマトも傷がついていて嫌だ。カブの葉っぱは使えない。」と言われ、聞く耳を持たれなかったそうだ。
それでも「地産地消を大事にしたい」という想いを理解してもらうために、吉井さんはめげずに説得を続けた。
「最初は理解されなくて、何度も泣きました。皮のついた有機野菜を出すと、『こんなの食べられない』と言われたり、私たちが作ったご飯も目の前で捨てられたりして。それでも、一つずつ、説得していきました。根気強く言っていくと少しずつ変わってきて、農家さんの有機野菜を使ってくれるようになりました。」
吉井さんの粘り強さが実を結び、今では、「この端材はこうして使えるよね?」や、「生ごみも、何が原因で発生してしまったロスなのかを知りたいから、分けて測りたい」とスタッフの方から提案をもらうまでになったという。
野菜の地産地消率は70%以上。すべて農家さんからの手渡し
今、モンローズが朝食で出している野菜は、7割以上が福山市周辺の地元の農家から直接調達したもので、残りの3割の野菜もすべて国産という徹底ぶりだ。
「今の契約農家さんは3件。そのうち2件にはとれたて野菜をお店まで持ってきてもらい、1件は私が直接取りに行っています。」
野菜は、売れない規格外などのB級品の朝どれ野菜を3,000円で注文し、コンテナいっぱいに詰めてもらっているという。コンテナごと持ってきてもらうことで、プラスチック包装などは一切ない。
「去年の夏はスタッフみんなで1週間、農家さんのところで実習を行い、毎日8時間農業のお手伝いをしました。みんな真っ黒になって虫と戦いました。実際に体験して、初めて有機野菜を作る大変さを身を持って理解することができました。」
「サステナビリティ」という言葉が伝わらなかった、地元の取引先
サステナビリティへの取り組みを進めていく上で、吉井さんが仕入れ先の業者に話しても、最初は「サステナビリティ」という言葉が伝わらなかったという。そんな逆境の中、今までつながりのある地元の業者を切り変えるのではなく、一つ一つ説明をすることで“一緒に”変わる努力をした。
「正直、モンローズでは国内の漁師さんから鮮魚を仕入れるのは在庫管理上難しく、業者を通して購入する場合、今は外国産の持続可能とはいえない魚介類を調達するしか選択肢がありません。しかし少なくとも、どこでどんな漁法で獲られた魚なのかを、私たちだけでなく仲介業者の人たちも知る必要があると思います。」
「魚屋の営業の人に、『自分たちが取り扱っている魚が、何産でどんな漁法で獲られてきているものなのか、自分たちで調べて、教えてください』と伝えました。そうしたら、その業者さんは、商社の人に問い合わせてくれて、全て調べて、教えにきてくれたんです。今すぐに持続可能な魚の調達ができないとしても、少しでも意識していたら、今度私たちに提案してくれる魚が変わるかもしれないですよね。」
また、福山市内のコーヒー業者は、「フェアトレード」という概念も知らなかった。
「業者を切り替えてフェアトレード製品を取り扱うこともできたのですが、それでは意味がないと思って。今の業者さんに自分たちの想いを理解してもらって一緒に考え、一緒に変わっていきたかったんです。」
フェアトレードの話をしてから2週間後、「自分たちも勉強した上で、取引先の商社にお願いをしてみるから、もう少し待って欲しい」という返答が返ってきたという。
その日、筆者が朝食とともに飲んだコーヒーは、持続可能な農業を推進する「レインフォレストアライアンス認証」がついたコーヒーだった。そしてその横には、業者が自ら作ったという生産者のストーリーと、認証マークが描かれたポップが置かれていた。
お客さんとのコミュニケーションをとることで、食品ロス削減
さらに、フルバイキングのスタイルから配膳式に転換したことで、お客さんとのコミュニケーションが増え、食べ残しが大幅に減った。
「毎回配膳の際には、お客さんに必ず声をかけています。会話をすることでお客さんが何を求めているか、どんな食べ物が嫌いなのかもわかるようになるんです。」
「今は常連のお客さんの顔を見たら、『あ、この人は少食だから少なめでだそう』とか、『ナスが嫌いだから抜いてあげよう』とか、直接聞かなくてもスタッフ全員がわかるようになっています。『これは○○さんなので、ナス抜きでお願い〜』という会話がキッチン内で生まれています。こうしたちょっとした意識の変化で、お客さんによる食べ残しもかなり減りました。」
一度できたつながりがまた、新しいつながりを生んで広がっていく
一度つながった関係は形を変えても続き、さらに広がっていく。
「少し前は、地元のパン屋さんが毎朝届けてくれる焼き立てパンを出していました。そうすると、地元も活性化するし、帰りにお客さんがそのパン屋に寄って買って帰ってくれるなどして、とても良い地域循環ができていました。」
「今は和食の配膳式になったので朝食でパンの取り扱いはないのですが、切り替えのときも、今までのつながりを切りたくなかったので、一緒にカレーパンの開発を始め、フロントでカレーパンの販売を始めました。そうしたら、今度は別の会社さんからそのパン屋さんに『カレーパンを作って欲しい』というオーダーが入ってきて、私たちの共同開発したカレーパンを、その会社さんに販売することになりました。今までつながりのあった人たちだけではなく、違う事業者さんともつながって、経済が循環し始めています。」
吉井さんが今年に入って築いたつながりはレストランだけには止まらない。市内の中学校と連携をして、食育という観点から地産地消や食品ロス、コンポストなどについて子どもたちが自主的に学ぶ個別探究学習のプログラムも始めたという。
「ただの調理実習ではなく『地産地消』や『食品ロスの削減』を切り口に、規格外野菜の話を地元の農家さんにしてもらうことで、生産の現場を知ってもらうきっかけになれば良いと思いました。B級品と呼ばれている食材の価値の付け方やレシピ考案、発信の方法も考えてもらうプログラムです。困ったときはオンラインでサポートをしていきながら、グループワークを通して、全て子どもたち主体でやっています。『ビーツを使った色鮮やかなムースケーキをつくる』といった私たちでは思いつかなかったようなアイデアが子どもたちから出ることもあります。」
プロの料理人じゃないからこそできる、自分たちなりの発信の仕方
モンローズの強みは、職人でもプロの料理人でもないチームであることだ。より家庭に近い料理を作る中で、主婦の目線に立って気づくことや発信できることもある。
「農家さんが一生懸命野菜を作っても、見慣れない野菜は使い方もわからず、売れ残っていってしまいます。ビーツという赤いカブのようなお野菜があり、他のレストランではポタージュや、ソース、ピューレとして使われることもあるのですが、なかなか家でそんな料理、作れないじゃないですか。どうにかしてビーツを食卓の主役として引き立たせたいと思い、コロッケのレシピを考案しました。」
「まわりは経験値も技術も豊富なシェフばかりで、それに比べると、自分たちは料理のプロフェッショナルとは言えないかもしれません。でもプロではないからこそ伝えられることがあると思うんです。家庭のキッチンに近い朝食をお客さんに食べてもらうことで、私たちが作っている料理を家に帰って真似できるような、モンローズで使っていたから道の駅で買って帰ろうと思えるような、家庭料理の選択が広がる一助になればよいと思います。」
編集後記
スタッフや生産者さん、お客さん、取引先の業者さん、地元の企業など、福山市はモンローズを中心に変わっていっている。
「少しずつ仲間を増やしていけたらなと思って。私たちだけでは限界があるから、その道のプロの人たちに理解をしてもらい、選択の幅を示してくれるようになったら、進み具合が格段に変わります。」
「周りの人がどれだけ理解を示してくれるのかが大事だ」と語る吉井さんの言葉の裏には、ここ2年間でたくさんの苦労をしてきたからこそ感じられる重みがあった。たとえ最初は理解されずとも、信念を持って根気強く伝え続ければ、周りも変わって行くのだという勇気をもらえるインタビューだった。
「今はもう、次はどんなことができるかな、と次のアクションを考えるのが楽しくて仕方がないです」と語る吉井さんの目は、まるで明日の遠足で買うお菓子を探す小学生のようにキラキラしていた。
【参照サイト】 モンローズ(福山オリエンタルホテル)
【参照サイト】 日本サステイナブル・レストラン協会
Edited by Erika Tomiyama