飲食業界のあり方を変えていくため、日本でより多くの飲食店・レストランがサステナビリティに配慮した運営ができるよう支援している日本サステイナブル・レストラン協会(以下、SRA)による連載シリーズ「FOOD MADE GOOD」。
19回目となる本記事で紹介するのは、兵庫県芦屋市で老舗の「BAR芦屋日記」だ。
BAR芦屋日記は、「いらっしゃって下さったお客様の日常に何か1ページ、思い出があるように」「集って下さる方々の日記帳になる様なBarであるように」をコンセプトに、食品ロスをできるだけ出さないよう取り組むBARだ。彼らは、どのようにして食品ロスの削減を実現しているのだろうか。同店のバーテンダー草野智和さんにその秘訣を聞いた。
話者プロフィール:草野智和(くさの ともかず)さん
20歳のときに職人とサービスマンの両方を表現出来るバーテンダーに憧れ、BAR芦屋日記に勤務。2008年に先代から芦屋日記を譲り受け経営を継承。2018年頃から地球環境を考えたカクテルに興味を持ち、地産地消・フードロス・フェアトレードなどのテーマでカクテルを提供。現在、芦屋で唯一の国際バーテンダー協会認定バーテンダー。
カクテルの裏側に隠された「食品ロス」という社会課題
BAR芦屋日記のカクテルは美味しさで人を魅了するだけではなく、大切なメッセージを私たちに投げかけている。
草野さんが作るカクテルのひとつである「国産無農薬レモンのまるごとカクテル」には「食品ロス」という社会課題へのメッセージが隠されている。果汁も出ないBC級品のレモンを皮ごとブレンダーに掛けてラムやジン、そして蜂蜜と併せたこのカクテルは、同店でしか味わえない。
「レモンは、産地では捨てられてしまっているような路地物のレモンにこだわって仕入れています。売り物にならないようなカチカチで硬いレモンですが、それが逆に、このカクテルの美味しさになっています。廃棄すればごみですが、僕たちバーテンダーが手を加えることによって、美味しいカクテルに生まれ変わります」
食品ロス削減のヒントはお通しにも
BAR芦屋日記では、想像力を働かせ、食品ロス食材を使ったクリエイティブな「チャーム(BARで出てくるお通し)」を生み出しつづけている。「食べ物は、なるべく捨てずに活用したい」と力強く語る草野さんのメッセージは、BAR芦屋日記で出されるチャームを通しても感じることができる。
「レモンやライムなどの絞りかすを一度マーマレード状にしたものをディハイドレーター(食品乾燥機)にかけて、ドライシトラスピールを作っています。ディハイドレーターがあれば、ドライフードを手軽に作れるので食品ロス削減に便利です」
草野さんはバーテンダーを始めて約27年。4年前ほど前から食品ロスの削減に取り組み始めたそうだ。そのきっかけはなんだったのだろうか。
「お店を運営しているなかで、今まで当たり前のように捨てていたものが、実は美味しいという新しい発見がありました。バーテンダーをやってきた中で、この4年間は、“フードロスを無くす”と言う角度でカクテルを考えています。とても新鮮で新たな発想や発見があり、楽しいです」
海外のBARでは、食品ロス削減が当たり前に
世界一権威のある「ワールドクラス」というカクテルコンペで、BARのサステナビリティについて知り、ワールドクラスのセミナーを受講して勉強しながら実践してきたという草野さん。海外のBARでは、できるだけごみを出さないようにすることが当たり前になっているという。
「たとえば、シンガポールのBARでは、1日のごみの排出量を500g以下に抑えることがトレンドになっています。どれだけBARで食品ロスを出さないかにこだわるのは、海外のバーテンダーなら当たり前になってきています」
BAR芦屋日記でも、クリエイティブなアイデアで、廃棄される食材で何ができるかを常にイメージし、可能な限り新しいメニューを生み出している。また、カクテルに使う果物は、皮までまるごと使えるように、できるだけ国産でオーガニックのものを選んでいるという。
「現代では、捨てることが当たり前になってしまっていますが、『ロスから何かを生み出そう』という思考に持っていくことはとても面白いんです」と草野さんは語る。
地域も巻き込んでごみ問題に取り組む
また、草野さんは、ごみ問題に関心を持ってもらうための取り組みも進めている。お店で廃棄されてしまう食材が実は美味しいことを伝えるだけでなく、全国牛乳容器環境協議会(容環協)と紙パックリサイクルの推進プロジェクトを協働し、芦屋市や商工会を巻き込んで活動している。自店に留まらず、地域や社会への波及的なインパクトを考えているのだ。
「フードシステムの課題は、自分たちのBARだけでは解決できません。これからも地域と連携していきたいです」
編集後記
食品ロスやごみ問題という言葉は、難しい問題のような印象を受ける人もいるかもしれないが、カクテルやチャームを使ってメッセージを伝えるBAR芦屋日記の取り組みからは、そうした印象は一切感じなかった。
草野さんや同店のバーテンダーの手にかかれば、食品ロス食材を美味しいカクテルに変えることができていた。同店を訪れたことで、今まで捨てていた食材が、実はまだ食べることができるものだったことにハッとさせられた。
普段、食材を捨てることは、何かを犠牲にしているのではないだろうか。BAR芦屋日記のカクテルは、そんな問いを私たちに投げかけている。
【参照サイト】BAR芦屋日記