近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。
ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。
前回は「Death Tech(デス・テック)」をテーマに、欧州における最新の「死」にまつわるテクノロジーから、生と死に対する考え方まで、5ヶ国の様子を紹介した。今回の欧州通信では、欧州へのサステナビリティ視察・海外出張を検討されている方のために、ドイツ・オランダ・イギリス・フランスでぜひ立ち寄ってもらいたいイベントやカンファレンスを一挙に紹介する。2024年から2025年にかけて欧州へ渡航予定がある方は、ぜひ目を通してみてほしい。
【ドイツ・ベルリン】Innovationstag Mittelstand(2024年6月13日開催)
ドイツ連邦経済・気候保護省が主催する中小企業・スタートアップ向けの野外イベント「Innovationstag Mittelstand」。デジタル・変革・レジリエントをテーマに、ドイツ国内の起業家のテクノロジー変革や推進方法を提示する。
登壇プログラムの内容は、「研究プロジェクト・イノベーション政策の推進力」「気候保護省主催の2024年ZIMプロジェクト(中小企業向けイノベーションプログラム)賞」「研究開発の多様性と可能性」など。会場では約300組織の企業および研究機関が製品やサービスを展示し、出展組織の分野は自動車・機械・ソフトウェア・繊維・食品・容器包装など幅広い。
会場イベントと並行して、同省はウェビナーを開催し、マッチングプラットフォームも提供する。17の多様なプログラムを有するウェビナーは6月10・11日に開催され、マッチングプラットフォームでは潜在的なパートナーの検索・アイデア交換・共同プロジェクト検討の機会が提供される。イベントは一般に無料公開される予定だ。
Innovationstag Mittelstandの特徴は、研究機関が多く参加していることと、デジタル・変革・レジリエントをテーマに先駆的取り組みを紹介することだ。ドイツの研究機関・中小企業・スタートアップ企業の取り組みを参考にしたい、こうした組織と協業したいと考えている人は、ぜひ参加してみてはいかがだろうか。
【参照サイト】Innovationstag Mittelstand
【オランダ・アイントホーフェン】Dutch Design Week(2024年10月21〜29日開催)
毎年オランダ・アイントホーフェンで10月21日から29日までの9日間にわたり開催されるのは、北ヨーロッパ最大のデザインの祭典「ダッチ・デザイン・ウィーク(DDW)」だ。
デザインといっても、DDWではプロダクトだけをみるのではなく、それを取り巻く仕組みを見通す設計や、その作品がもたらす影響に重きを置いている。主催者側が毎年テーマを定め、その問いかけに対して国内外から新進から業界のベテランまで2,600人を超える世界中のデザイナーが作品やアイデアを寄せる。
市内110以上の会場では、デザインの展示会やトークセッションなどのイベントが開催され、丸9日間滞在しても見きれないではないかと思うほど。訪問者は35万人にも上る。
アイントホーフェンは人口に対する特許数で世界一の発明都市で、1万人以上の研究者や技術者、起業家が働くコミュニティとなっている。こうした場所だからこそ、このDDWを訪れることで「デザインの今」が見えてくるのだ。
【参照サイト】Dutch Design Week
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【イギリス・ロンドン】London Climate Technology Show(2024年11月27・28日開催)
クライメートテックに特化した展示会兼カンファレンスである「London Climate Technology Show」。主なテーマは脱炭素、ネットゼロ、カーボンキャプチャ技術などで、気候変動対策における技術進歩に焦点を当てるものだ。
ロンドンシティ空港から程近いExCeL Londonで開催され、約100のクリーンテクノロジー企業が出展予定。参加者は最新の気候関連技術を直接見ることができ、業界のリーダーとのネットワーキングも行える。
クライメートテックに関心がある企業の意思決定者、技術者、サステナビリティ推進担当、政策立案者、投資家など、幅広い人々が参加する設計となっており、展示会を通じて新しいビジネス機会を発見し、業界の最新動向を学ぶことができる。
下記の動画は2023年に開催された同展示会の振り返りだ。全英あるいはヨーロッパ中のクライメートテック企業(多くのスタートアップを含む)が一堂に会する場でもあり、それぞれの企業のブースでは担当者からじっくり事業の話を聞くことができるだろう。
【参照サイト】London Climate Technology Show
【フランス・パリ】ChangeNOW(2025年4月25〜27日開催)
毎年3月〜5月ごろにフランスのパリで開催されるのが、環境問題に取り組むチェンジメーカーが集う「ChangeNOW(チェンジナウ)」サミットだ。パリのグラン・パレ・エフェメールで開催される本サミットは、2024年で7回目を迎えた。気候変動や資源、生物多様性、ダイバーシティなどをテーマに、会場では15のゾーンにわたる300のブースが広がり、ChangeNOWが選定した企業やソリューションが各国から集結。毎年、世界120か国から3万5,000人以上の参加者が集まる大規模サミットである。
2024年は3月25~28日で開催され、会場は大盛況。筆者が参加したのは、フランス出身の経済学者であるTimothée Parrique(ティモシー・パリック)氏の基調講演「Rethinking Economic Systems Inside the Planetary and Social Boundaries(地球と社会の境界内での経済システムの再考)」。脱成長についての研究をしているティモシー氏は、グローバルな資源利用のパターンや環境格差、持続可能性のパラダイムについてビュッフェを比喩に興味深いプレゼンを行い、会場では拍手喝采となった。
他にも、サステナビリティの分野において注目されているパタゴニアやB Labなどの企業や組織、著名な研究者やアクティビストたちが一堂に集まって議論する貴重な機会である。トークセッションはChangeNOWの公式YouTubeでアーカイブが上がっている。無料で視聴可能なので、来年の参加に備えてぜひ視聴してみてはいかがだろうか。
【参照サイト】Change Now
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編集後記
現地の企業訪問や特定の場所の視察では、その団体の先進的な取り組みから苦悩まで、深い部分が見えてくる。一方、今回ご紹介したイベントやカンファレンスは、欧州各国でのサステナビリティ・サーキュラーエコノミーの現在地や、より包括的な議論を把握するのにもってこいだ。渡航の予定がある方はぜひ日程を合わせて、参加を検討してみてはいかがだろう。
Written by Ryoko Krueger, Kozue Nishizaki, Megumi, Erika Tomiyama
Presented by ハーチ欧州
ハーチ欧州とは?
ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。
ハーチ欧州の事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact
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