新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大防止のために人や物の移動が制限されるようになったことで、世界中の経済は大きなダメージを受けた。国際エネルギー機関(IEA)によると、2020年の世界の二酸化炭素排出量は前年比6%低下すると予想されており、環境にとってはポジティブな側面も一時的には見られた。しかし新型コロナ収束後も、食品やエネルギーなどをグローバルな規模で移動させる現状のシステムが維持されれば、それは持続可能とは言えない。そこには、新たな感染症蔓延や気候変動への対策に関してリスクが伴うからだ。
そんな中、これまでの街や都市の在り方を見直し、感染症や気候変動のリスクに適応できるようにリデザイン(再設計)しようとする動きが世界中で見られる。
中国政府は現在開発中の雄安新区を、将来的な感染症のリスクと環境への影響に同時に配慮したグリーンで「自給自足できる街」にしていくと発表した。雄安新区は北京から南西に130キロほど離れた地区で、公開されている新たなデザイン計画をもとに、500万人規模のサステナブルなモデル都市となる予定だ。
街の区画は在来植物などを育てられる畑と植栽された庭に囲まれ、アパートの屋上には垂直農法の温室が設置される。屋上に隣接する部屋には住人が自分用として使用できるガーデンがあり、アパートのバルコニーにも家庭菜園用の箱が取り付けられる。これらによって、街の中で新鮮な食料を生産し、菜食ベースの食事であれば40%の食料需要に対応できるだろうと推定されている。
木製の建物は、通常の建物よりもエネルギー使用率を80%削減でき、敷地内にはソーラーパネルが設置される。さらに道は車ではなく歩行者や自転車が優先的に移動できるようにデザインされており、あらゆる面で環境への配慮が感じられる。
今後も懸念される感染症への対応としては、在宅勤務用のコワーキングスペースや、住民がプライベートなアウトドアスペースとして利用できるテラスを建物内に設置する予定だ。また、建物内の工場スペースには3Dプリンターなどの機材が設置され、住人は居住地内で自分で物を修理したり制作したりすることができるようになる。さらに、将来的に実現されるであろう「ドローン・デリバリー」のためのドローン着陸ゾーンも用意されるなど、最先端の面白い仕掛けが散りばめられている。
中国政府はこの地区に高速鉄道を建設している一方で、日々の生活に必要なオフィスや小売店、学校などを徒歩、または自転車圏内で行ける範囲に隣接させる計画だ。また、アプリを通して住人同士が余った食材を売買できる仕組みや、アパートの下で地産品を販売するマーケットを作ることも想定しており、地域内の人々の強いつながりを作ることも重視している。
この街をデザインしたバルセロナの建築家であるビンセント・グアラート氏は、「私たちは今後、生活の危機、そして気候変動の危機と同時に戦わなければいけません。」と述べる。
「今回のパンデミックは、このような危機にあったときに、外からのエネルギーや食料、製品に依存することが、どれだけ人々の生活リスクになるかを証明しました。建物と一体化したコミュニティーモデルは、21世紀により適したモデルでしょう。これからあるべき街の姿は、センターでも周辺部でもなく、都市部でも郊外でもなく、ただ住む場所と、働く場所と、休む場所が同じ場所にある自給自足の街なのです。それはまさに、パリが提唱する『15分の街』のモデルと同じです。
外粛自粛や在宅勤務により、家庭菜園を始めたり、地元の商店街や飲食店に行くようになったりと、生活圏を狭めることによる生活への意外なプラスの影響を感じた人も多いのではないだろうか。
感染症の蔓延や気候変動の改善策を探すことは大切だ。しかし、それらの全ての側面を害悪として拒絶せず、今後起こりうる脅威と上手に付き合っていく方法を考え、ポジティブなインパクトを生み出しながら共存していくことも、私たちには必要である。
【参照サイト】This sustainable neighborhood of the future is designed to manage both climate change and pandemics
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Edited by Motomi Souma