気付いたら食品ロス「ゼロ」に。兵庫芦屋のイタリアンBOTTEGA BLUE【FOOD MADE GOOD#1】

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私たちが、生きていく上で欠かせない「食」。食は、社会のあり方すべてに関わっている。気候変動による異常気象、森林破壊、水資源の枯渇、農薬や化学肥料の問題、プラスチック問題、食品ロス、そして労働問題──今、私たちの日常を脅かしているこうした世界の問題を考えるときに、フードシステムを考えることは欠かせない。

そんな食のあり方、飲食業界のあり方を変えていくため、日本でより多くの飲食店・レストランがサステナビリティに配慮した運営ができるよう支援している団体がある。英国に本部があるSRA(SUSTAINABLE RESTAURANT ASSOCIATION)の日本支部、日本サステイナブル・レストラン協会だ。今回、日本サステナブル・レストラン協会の加盟レストランを巡り、先駆者となってサステナビリティへ向かう飲食店の取り組みを紹介していく連載シリーズ「FOOD MADE GOOD」をスタートする。

第一回目の本記事でご紹介するのは、兵庫県芦屋市にあるイタリアンレストラン、「BOTTEGA BLUE(ボッテガブルー)」だ。ボッテガブルーは日本サステイナブル・レストラン協会の加盟店の国内第一号店であり、サステナビリティ格付けで二つ星を獲得している国内唯一のレストランである。

いま、食の流通過程の至る所で発生してしまう食品ロスが問題視され、現在は様々なところで食品ロス対策の取り組みが行われている。飲食店での食品ロスも例に漏れず大きな課題であり、どの飲食店もなんとかロスをなくそうと、様々な工夫を凝らしながら削減に向けて取り組んでいる。

そんな中、ボッテガブルーではオープン当初から、お店からでる食品ロスがなんと「ゼロ」だという。現場ではどんな取り組みや工夫をしているのか、大島隆司シェフにお話を伺ってきた。

大島隆司シェフ

大島隆司シェフ

遊び心溢れるシェフの発想から生まれた、食品ロスゼロの工夫とは?

「うちでは、4.5キロの魚を丸ごと買ってもほとんど捨てません。塩漬けにして保存食にしたり、じゃがいものピューレと一緒にコロッケにして出したり、パスタソースのお出汁に使ったりしています。あと、貝殻は絶対捨てないほうが良いです。貝の殻も味を引き出すのに良い仕事をしてくれるんですよ。」

大島シェフにキッチンに案内していただいた筆者は、その日のパスタソースの仕込みの鍋を実際に見せてもらった。その中には魚のアラや野菜の端材など、いろいろな具材が入っていた。

本日のパスタソースの出汁

本日のパスタソースの出汁

他にも、野菜の種も砕いてサラダに入れることで食感を楽しんだり、クッキングシートの代わりに野菜の端材を敷いて香り付けしながらお肉を焼いたりといった工夫も、昔から当たり前のように行っているという。

「白菜などの野菜の外側の部分など、どうしてもお客さんに出せない部分は出てしまうのですが、自分はそれがどうしても捨てられずに最初は袋に入れて冷蔵庫で保存していたんです。メニューでお肉のグリルの料理があったので、ちょうどとっておいた野菜の端材を敷いてオーブンに入れて焼いてみたら、お肉に野菜の香りがついてすごく美味しくなって。食品ロスを減らす意識よりも、美味しくなぁれ、と思って料理していたら、結果的にそういう形になっただけなんですよ。」

このようなクリエイティブで遊び心も持ち合わせたシェフの発想は、「美味しい食材を使い切りたい」という気持ちの表れだという。

「今日は野菜の端材ではなくて、焦げて失敗してしまったシュー生地をクッション材として敷いて、粉の香りを付けながら肉を焼きました。他にも、通常は食べられずに廃棄されてしまうような生ハムの皮も使えます。熟成された生ハムの風味が良い働きをして、少しリッチなお肉になるんです。子どもみたいな発想ですが、なるべく捨てずに活用したいという意識からいろいろな発想が生まれてきます。」

失敗したシュー生地をオーブン皿に敷く

失敗したシュー生地をオーブン皿に敷く

修行時代の努力が、今の発想の手助けに

大島シェフは、イタリア本場の数々の名門リストランテ(イタリアンレストラン中でも最高級なお店を意味する)で修行して経験を積み、国内のイタリアン料理コンクールでも多くの受賞歴をもつかなりの実力派だ。大島シェフに大きな影響を与えたのは、イタリア料理界の巨匠とも呼ばれるグアルティエロ・マルケージの存在だったという。

「彼は、食材を余すことなく使い切るという強い意識をもっていました。そして自分にも常に課題を与えてくれたんです。例えば『パイナップルの筋をどうにかして使えないか?』というお題を出されたこともあります。そんな自分にとっても偉大なる師匠であるマルケージシェフの思想は、今でも僕のシェフ人生に強い影響を与えてくれています。」

そしてイタリアンに留まらず、いろいろなことに興味をもって挑戦したことも、大島シェフが今のボッテガブルーで実践していることにつながったという。

「20代の頃、名古屋での修行時代に『お客さんに出すものであなたは練習するの?』とシェフに言われたことが心に刺さって、そこから自分で勉強をしよう、身体で覚えようと必死に働きました。料理人になりたての頃は、レストラン営業が終わるのが夜中の1時でその後、夜中の3時から朝7時まで市場でアルバイトをしていました。そのままレストランに出勤するという生活を3年間継続。最初は魚も捌けなかったので、魚屋のおじちゃんから魚をもらい、家に持ち帰り一人で練習をしていました。」

「自分はイタリアン料理がベースですが、イタリアンに縛られたくないという思いもありました。王道のイタリアン料理を作ろうと思うと、旬でなくても食材を無理にでも取り寄せて作らなくてはいけなかったんです。自分で市場に行って食材を仕入れると、野菜を見て、こんな料理ができるのではないか?と考えたり、賄い業務を通していろいろな料理のアイデアが浮かんだりしました。自分のバックボーンはイタリアンですが、いろいろなことに興味を持っていたので、寿司屋やケーキ屋など場所やジャンルを問わず様々な店で働き、身体で覚えて技術を上げてきました。それが結果的に、食品ロスをなくすことや、今既にある食材からメニュー構成を考えるベースになっているのかもしれません。」

畑でケールがとれすぎて困っていた生産者さんの話を聞いて作ったケールのコース(ジェノヴェーゼならぬケールヴェーゼ、デザートまですべてケール)

畑でケールがとれすぎて困っていた生産者さんの話を聞いて作ったケールのコース(ジェノヴェーゼならぬケールヴェーゼ、デザートまですべてケール)

人とのつながりを大事にしていたら、サステナビリティにつながっていた

ボッテガブルーのある兵庫県芦屋市は海も近いため、シェフ自ら漁港に出向き、生産者と密にコミュニケーションを取りながら一緒にメニューを考えることもあるという。

「つながりを大事にしていたら結果的に地産地消になるし、より地元の人にあった料理を提供することができます。」

筆者がボッテガブルーを訪れたのは平日のお昼時だったが、常連のお客さんでかなり賑わっていた。特に印象的だったのはお客さんとスタッフの距離が近く、友人のように会話をしていたことだ。こうした人との強いつながりが、サステナブルな飲食店経営をつくっていくのだろう。

イギリス発祥のサステナビリティ格付け「FOOD MADE GOOD」の250ある指標の中には、アレルギー対応の料理を提供しているかどうかを問う項目も含まれる。ボッテガブルーがアレルギー対応を始めたのも、

「ある常連のお客さんが小麦粉アレルギーで、うちのチーズケーキを食べたいのに食べらないと言われたことがあります。それがきっかけで、グルテンフリーの米粉のデザートを作ることになりました。そうした形で、地域密着でつながりを大事にしていたら、結果的にサステナビリティという基準で評価してもらうことができ、二つ星をとることができました。変に意識していたわけではなかったのですが、自分たちが共感できることで評価してもらえたのは嬉しかったです。」

FOOD MADE GOOD二つ星の証書

FOOD MADE GOOD二つ星の証書

「美味しくなぁれ、と思って、目の前のお客さんや周りの人のために料理を作り、11年間ボッテガブルーの螺旋階段をのぼってきました。今は新しいことに挑戦していく段階で、去年の夏に、完全グルテンフリーのお菓子屋さん『芦屋アモーレ』を始めました。このきっかけもお客さんから商品化してほしいという要望を受け、形になったんです。作っているのも小麦粉アレルギーのスタッフで、工房も小麦粉と混ざらないように別に構えました。また、BBJAPANというブランドも立ち上げたので、これからは自分たちの商品だけでなく、つながりのある生産者さんの商品などを世界に発信していきたいです。」

「ただ新しいことをはじめるにしても、サステナビリティの取り組みを意識するにしても、今までの自然な形は壊したくないですし、無理しなければいけないとは思いたくありません。自分たちが自然にできることを頑張りながら、みんなを守っていきたいです。」

スタッフの皆さん

お客様とスタッフの写真

編集後記

今回お話を聞いて印象的だったのは、大島シェフのナチュラルさだった。「食品ロスゼロ」と聞くと、何か特別なシステムや技術を駆使しているのかと想像していたが、ボッテガブルーでは、目の前にある食材や、人のつながりをよりよくしようとする気持ちが、結果的にサステナビリティの取り組みを作っていたのだ。

大島シェフは「いつの間にか、もったいないマンになっちゃった」と、笑いながら話していた。これまでのシェフ人生を「直階段」ではなく、「螺旋階段」だと表現した彼の言葉の裏には、ゴールに向けて駆け上がるのではなく、ゆっくりで回り道もするけれど着実に一段ずつ上りながら、無理なくより良いものをつくっていきたい、という思いの表れなのだろう。

環境問題への解決にむけた取り組みが迫られているが、回り道した先で答えを拾うこともあるのかもしれない。

【参照サイト】 日本サステイナブル・レストラン協会
【参照サイト】 BOTTEGA BLUE

Edited by Erika Tomiyama

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