私たちが、生きていく上で欠かせない「食」。食は、社会や環境のあり方すべてに関わっている。気候変動による異常気象、森林破壊、水資源の枯渇、農薬や化学肥料の問題、プラスチック問題、食品ロス、そして労働問題──今、私たちの日常を脅かしているこうした世界の問題を考えるときに、フードシステムについて考えることは欠かせない。
そんな食のあり方、飲食業界のあり方を変えていくため、日本でより多くの飲食店・レストランがサステナビリティに配慮した運営ができるよう支援している団体がある。英国に本部があるSRA(SUSTAINABLE RESTAURANT ASSOCIATION)の日本支部、日本サステイナブル・レストラン協会だ。今回、日本サステナブル・レストラン協会の加盟レストランを巡り、先駆者となってサステナビリティへ向かう飲食店の取り組みを紹介していく連載シリーズ「FOOD MADE GOOD」をスタートする。
第4回目の本記事でご紹介するのは、大阪府の中津にある自社農園を持つレストラン、「BELLA PORTO(ベラポルト)」だ。ベラポルトは大阪を代表するサステイナブル・レストラン協会の加盟店である。
地方に行くと、店舗の敷地内で野菜を育てて料理を提供する農家レストランはよくあるが、東京や大阪などの都心で自社農園を持っているレストランは数少ない。都市部では、サステナブル・レストランを推進していく上で重要なキーとなるこの“地産地消”に取り組むことが、地方と比べると難しいのが現状だ。お店から行ける距離に畑をもつことが目標だったというベラポルトは、一年ほど前から店舗の近くで自社農園を始め、自分たちで野菜を育て、お客様に料理を提供するという都市型の地産地消を実現させた。
今回はベラポルトの自社農園「KIMIYU農園」に伺い、ベラポルトの料理長を務める稲葉さんと、農場を管理している株式会社東山べジフルの大西さんのお二人にお話を伺った。
実際に農作業をしながら、料理人が野菜の知識をつけていく
ベラポルトで提供する料理は、美と健康をテーマにした料理だ。素材の味を生かすことだけではなく、食べる人の体のことまで考えてつくる料理は、栄養価を壊さずムダなく摂取できるよう作られている。大人気の定番ランチコースの中のひとつ『美ZENプレート』は、なんと40品目の有機野菜が使われている。この店で提供される料理の背景には、「本当の安心感」「見える食」「見える料理」「自然と食の循環」という4つのキーワードがあり、安心安全な食を届けるための手間を惜しまない。
「自社農園を持つ前は、仕入れ先の農家にお手伝いに行っても、畑作業には部分的に関わることしかできず、野菜や土の知識も断片的にしかつかなかったのです。」と、料理長の稲葉さんは話す。
「とあるご縁で農家の大西さんを紹介してもらい、大西さんと二人三脚で野菜を育てるようになってからは、シフト制にしてスタッフ全員が定期的に畑に行くことができるようになったので、知識が圧倒的に増えました。畑では、大西さんから細菌や微生物について、ビーツのえぐみの取り方、モリンガの芽の出し方など、多くのことを教えてもらっています。」
「この一年間だけでも、カラシナ、かぶ、ラディッシュ、たまねぎ、冬瓜、さつまいも、菊芋、さといも、水菜、バタフライピーなど、様々な野菜を育てることに挑戦しました。野菜作りを行う中で、例えばさつまいもは年に一度しか収穫できないけれど、じゃがいもは春と秋の2回収穫できることから、商品力があることも学びました。」と、稲葉さんは続ける。
そして、実際に稲葉さん自ら畑作業をすることで、初めて農家の大変さも実感したと言う。
「有機野菜や、オーガニックって、名前はかっこいいですが、そうした栽培方法には草むしりをしたり、虫を駆除したりと大変な作業が多いです。暑い時期は倒れそうになるし、冬は寒くて風も冷たい。腰も痛いし、『農家さん、こんなんよおずっとやれるなあ……』と思いました。実際に農家さんの気持ちを知り、大変さが身に染みました。」
また、自社農園で畑作業をしたり、サステナビリティの取り組みを進めていく中で、特に若いスタッフたちの関心が高いことを感じると言う稲葉さん。
「アルバイトや学生の20代の子たちは、サステナビリティへの関心がとても高いんですよね。ある20代の料理人の子にサステナビリティの話をすると、目を輝かせて話を聞いていました。サステナビリティへの取組みは、彼らの仕事に対してのモチベーションを上げてくれていると思います。」
循環型の食の可能性が広がる
「自社農園を持ってから、自分たちでできることの幅が圧倒的に広がりました。例えば、コンポスト。2ヶ月ほど前から、自分たちの畑でも始めました。野菜の端材は基本的には乾燥させてパウダーにして料理やスイーツに使っていますが、それでも使えない部分を畑に還すことができます。」(稲葉さん)
また、稲葉さんが特にエネルギーを注いでいるのは、モリンガという植物の栽培だ。
「モリンガはミラクルツリーと言われているくらい、とてもサステナブルな木なんです。一般広葉樹の20倍の速さで成⻑し、杉の約50倍の二酸化炭素を吸収、さらに種には水を浄化させる働きもあります。ビタミン、ミネラル、アミノ酸などが豊富な栄養価の高い植物で、食用にも使うことができます。ベラポルトでもドリンクとして提供しており、今とても人気です。」
「ただ、生のモリンガは国内ではあまり出回っていないので、大西さんと共に試行錯誤をしながら実験栽培中です。今年から生産を5倍にして、50本植えるのが目標です。」と、楽しそうに語る料理人である稲葉さんは、もうすでに農家の目をしていた。
今後は堆肥化可能なお皿を使い、お皿も畑に還して、食べたら何もない状態で終わる、というイベントなども構想しているという。また、お客さんを連れて農家ツアーや農業体験を行うために、トマトファームとテラス席も建設中だ。
農家としても新しいことに挑戦できるトライアルガーデン
何事もやってみないと見えないことがある。料理人として現場に通い、自ら作業し、農家さんから学びながら野菜を育てる。料理人と農家の両方の視点からアプローチすることで、より美味しい野菜を使い、より美味しい料理を作ることができる。
稲葉さんは自ら畑作業をしたあとに、農家の大西さんと共に次のメニューを考える。農家の大西さんは「こうして二人三脚で一緒に畑をやってくれるレストランは珍しい」と語る。
「農作業は収穫だけではなく、土づくりからする必要があって、レストランスタッフの皆さんが畑に来たときの初めての農作業も、堆肥まきでした。泥だらけになりながら、しんどいけど参加してもらう。ベラポルトは従業員やお客さんに、“畑ってこんなに楽しいんだよ、こんなものが取れるんだよ”というメッセージを伝えることを目的にしていたので、その想いに共感して一緒にやりたいと思いました。」
「農業の仕事で一番時間がかかるのは、収穫後の“出荷作業”なんです。きれいに洗ったり、形をそろえたり、袋に入れたり、しなければならないことがたくさんあります。でも、ベラポルトさんはその仕事を全部しなくていいと言ってくれます。だから、水や袋などの資源を無駄使いすることもないですし、コンポストのような難しい事や、すぐには効果の見えにくい事にも集中して取り組むことができて、とてもいい環境なんです。」
編集後期
やりながら学ぶ、という精神を持ち、試行錯誤を重ねながら新しいことにチャレンジをする彼らの姿から学ぶことがたくさんあった。
レストランが農家からただ野菜を仕入れて終わるのではなく、レストランと農家が対等に会話しながら共創するwin-winな関係は、持続可能な経営を考える上で、大事な要素だと言えるだろう。また、料理人が実際に畑作業を体験することで、お客さんにも自分の言葉で野菜の価値を伝えることができる。
農家と料理人が一体となって食の未来を作るベラポルトのようなレストランのあり方は、これからさらに注目を浴びていくに違いない。
【参照サイト】日本サステイナブル・レストラン協会
【参照サイト】店舗リスト|株式会社KIMIYU Global
【参照サイト】BELLA PORTO(食べログ)
【参照サイト】bellaporto1355(instagram)
Edited by Motomi Souma