女性特有の悩み、一人で抱えないで。ヨーロッパで注目のフェムテック【欧州通信#07】

Browse By

日本に先駆けて、ヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、現在に至るまで世界を主導してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は、「ヨーロッパのサステナブルアプリ」をテーマに、特に買いものの場面で役に立つ現地で人気のアプリをご紹介した。今回の欧州通信では、「ヨーロッパで注目のフェムテック」について情報をお届けする。「フェムテック」とは、女性が抱える健康の課題を解決する商品・サービスのこと。月経や妊娠など、身体の不調や変化に向き合って、より快適な暮らしができるようにしたり、そもそもの人権について教育することで、女性が身体と心を守れるようにしたりするものだ。イギリス・フランス・エストニア・オランダで生み出された最新のアイデアとは?

ヨーロッパ各国で生まれたフェムテックの事例

自分にも、世界の誰かにも届く。イギリス発・オーガニック生理ナプキンのサブスクサービス

毎月使う生理用品。そろそろ必要なのに「買い忘れた!」と焦ったことはないだろうか。Freda(フリーダ)は英国で生理用品のサブスクリプションサービスを展開する企業だ。5種類の大きさがあるナプキン、タンポン、その他生理用品の中から、自分に必要なものを定額で届けてくれる。どの商品にしようか迷う場合は「スターターセット」を購入することも可能だ。現在イギリスだけなく、ヨーロッパの国々、米国、カナダにも郵送を行っている。

 

View this post on Instagram

 

A post shared by Freda (@myfreda)


Fredaの生理用品はすべて生分解性で、肌にも優しいオーガニック素材となっている。そして、Fredaの最大の特徴はなんといっても「サブスクリプションボックスを1つ受けとるたびに、世界のどこかで生理用品が手に入らず困っている女性に生理用品を届けられる」システムになっていることだ。最近ではウクライナからの難民に対しても生理用品を提供しており、サブスクリプションサービス以外にも、ウェブサイトから直接寄付ができるようになっている。寄付の文化が根付くイギリスらしいサービスとも言える。

「生理用品は、女性の人権の一つ」と謳うFreda。イギリスだけでなく日本でも話題になっている「生理の貧困」問題にアプローチしている点が魅力的だ。

  • 国名:イギリス
  • 団体(企業)名:Freda

生理と自分らしく向き合うヒントをくれる、国内外の生理用アイテム・サービスまとめ

セクシャリティに関する言論の自由を。フランスの教育プラットフォーム

フランスの「TalQ Univers(タルク・ユニベール)」は、セックスやテック、政治など性に関する言論の自由を望むメディアだ。未だ18 歳から 34 歳のフランス人の 72% にとって、性はタブーの話題とされるなかで、TalQ Universはそれらに関わる情報をメールマガジンやPodcast、SNSなどで発信。SNS上およびリアルイベントなどで専門家を含むコミュニティをつくることで、性に関する知識をつけ、対話できる場を増やしている。

 

View this post on Instagram

 

A post shared by TalQ Univers Médias (@talq_univers)


「まずは話せる場を作ることが大切」と語るTalQ Univers。InstagramやTik Tokなどを使い、ポップで親しみやすい雰囲気を作り出し、「女性が声をあげやすい社会」を目指している。

TalQ Universは、パリを拠点とする巨大キャンパスのスタートアップ・Station Fが2021年に募集した、性に関するスタートアップを支援する「FemTech プログラム」に参加している。テクノロジー分野の投資家は未だ男性が多く、見落とされてしまう女性向けの商品やサービスに本プログラムでスポットライトを当てている。

  • 国名:フランス
  • 団体(企業)名:TalQ Univers

知識は力になる。オランダ流・ウェブコンテンツを通じた性教育の方法

Kohe Lele(コヘ・レレ)は、親しみやすい性教育を通じて、世界中のコミュニティに力を与えるため活動するオランダ・アムステルダムのテック企業だ。彼女たちは「知識は力であり、すべての人にとってアクセスできることが重要」だと信じている。コンテンツを通して、誰もが女性の体に関する正しい用語、解剖学、さまざまな病気、家族計画(妊娠・出産)などの情報にアクセス可能だ。

オンラインショップでは、女性が自分のセクシュアリティについての理解を深め、主体的に楽しむことができるためのグッズなどを購入できる。商品の売り上げの一部は、Kohe Lele基金に寄付され、難しい状況に置かれた女性たちに生理用品を無料で提供したり、誰でも参加できる無料のワークショップを開催したりしている。

  • 国名:オランダ
  • 団体(企業)名:Kohe Lele

デジタル先進国・エストニアで始まった、AIを使った妊娠中のサポートアプリ

妊娠中のあらゆる症状は、異常なのか普通なのか不安に思うもの。そんな不安を解決するのが、人工知能(AI)により妊娠中の健康状態を改善する初のデジタルヘルスアプリVelmio(ヴェルミオ)だ。Velmioには、妊娠中の健康状態を把握するために必要なツールとサポートが揃っている。

Velmio
Velmioはフィンランドを拠点にする2人の創業者によって立ち上げられたエストニア発のサービスで、現在世界90カ国以上で使われている。Skypeしかり、法人設立や会社運営がデジタル化されているエストニアでは、e-Residencyと呼ばれる電子国民になれば、エストニアに拠点を置いていなくとも会社運営ができる。スタートアップを支援するスタートアップビザもあり、電子国民になったり各国からスタートアップビザで移住したりして、起業する人が多くいるのだ。

Velmioのパーソナライズされたモニタリングと洞察は、自分にとって何が正常な妊娠中の症状なのかを知るのに役立つ。ライフスタイルのパターンを理解することで、妊娠中の様々な症状を予防・緩和し、さらには妊娠中の健康上の目標を立てることもできる。医師と共有できる詳細なレポートを作成したり、スマートウォッチと連携し、妊娠中に合わせたアクティビティを設定・確認したりすることもできる優れものだ。

VelmioのWebサイトには「私たちの技術は、これまで医学研究において十分に説明されてこなかった女性の健康に関する課題を解決する」とある。これまで話題にされなかった女性の健康問題が、これからフェムテックで解決されることを祈るばかりだ。

  • 国名:エストニア
  • 団体(企業)名:Velmio

編集後記

月経や妊娠など女性の身体の事情は個人差もあるだけに、どうしても個人の問題と思われることも多いが、性教育や「生理の貧困」問題など、実は社会と密接に関わっている。ヨーロッパで生まれた多くのアイデアでは、教育や寄付などを通して女性の身体にまつわることを社会で解決すべき問題として捉えているのが印象的だ。テクノロジーが社会のシステムや私たちの考え方を変えていく──フェムテックはこれからその好例になっていくだろう。

「欧州サーキュラーエコノミー政策・事例レポート2022」発売中!

ハーチ欧州では、レポート第一弾「欧州サーキュラーエコノミー政策・事例レポート2022」を販売中です。

本レポートでは、「EUのサーキュラーエコノミー政策(規制)」「フランス・オランダ・ドイツ・英国の政策」「4カ国で実際にサーキュラーエコノミーを推進する団体や取り組み」に焦点を当て、サーキュラーエコノミーが欧州で注目されるようになってから現在に至るまでの欧州におけるサーキュラーエコノミーをめぐる議論・状況をより詳しく追っています。以前から欧州で進められてきた「サーキュラーエコノミー」の実験は、今後の日本の政策策定から、企業や市民の活動にいたるまで、役立つヒントや苦い反省を提供してくれるはずです。

レポートサンプル

レポートサンプル

サステナブルな新規事業を検討中で、海外のユニークな参考事例を探している方や、欧州市場参入を検討していて、現地の企業の取り組みや消費者の動向が気になる方、サーキュラーエコノミー実践者(企業やNPOなど)の現場の声を知りたい方など、ご興味のある方はぜひ下記より詳細をご覧ください。

レポート概要

  • ページ数:105ページ
  • 言語:日本語
  • 著者:ハーチ欧州メンバー(IDEAS FOR GOOD・Circular Economy Hub編集部員)
  • 価格:44,000円(税込)
  • 紹介団体:36団体
  • 現地コラム:8本
  • レポート詳細:https://bdl.ideasforgood.jp/product/europe-ce-report-2022/
ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe

欧州通信に関連する記事の一覧

Written by Megumi, Erika Tomiyama, Kozue Nishizaki, Misa Torii

FacebookTwitter