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欧州グリーンディールとは・意味

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欧州グリーンディールとは?

欧州グリーンディール(European Green Deal)とは、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会が2019年12月11日に発表した包括的な気候変動対策のこと。同年12月1日に就任したフォンデアライエン欧州委員長が発表した政策指針の6つの柱のひとつで、産業競争力を強化しながら、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ(クライメイトニュートラル)にすることを目指している。なお、クライメイトニュートラルとカーボンニュートラルの概念はほぼ同じだが、クライメイトニュートラルはCO2排出のみに焦点を当てるのではなく、すべての人為的な温室効果ガスの排出ゼロを指すものである。

欧州グリーンディールでの取り組み

欧州グリーンディールの目標実現に向けて、EUは次のことに取り組むとしている。

エネルギー部門の脱炭素化

エネルギーはEUの温室効果ガス排出の約75%を占めるため、その脱炭素化は最も重要な柱の一つである。再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力など)の導入を加速させ、石炭や石油など化石燃料への依存を減らすと同時に、エネルギー効率の向上を推進する。これにより、持続可能なエネルギー供給体制を確立し、エネルギー安全保障の強化も図る。

再生可能エネルギーの導入には膨大な資金が必要だが、EUは各国政府や企業と連携し、エネルギー転換を経済成長の新たなエンジンとすることを目指している。

建築物の改修

建物はEUのエネルギー消費の約40%を占め、温室効果ガス排出の大きな要因となっている。そのため、住宅や商業施設の断熱性やエネルギー効率を向上させる改修プロジェクトを推進する。これにより、光熱費を削減し、より持続可能な生活環境を提供することを目指す。

建物のエネルギー効率改善は、特に低所得層に恩恵をもたらす。光熱費の削減により、エネルギー貧困の解消にも貢献することが期待されている。

産業の支援

産業部門は、欧州グリーンディールの目標達成に向けて重要な役割を担っている。製造業や化学産業を中心に、クリーン技術や革新的な製造プロセスを導入し、循環型経済への移行を加速させる。

特に、産業界には製品設計の段階から「リサイクル」「再利用」を考慮することが求められている。また、炭素集約型産業には、排出削減のための技術投資を支援する枠組みも用意されている。

交通機関の改革

EUでは交通機関が温室効果ガス排出の約25%を占めており、この分野の脱炭素化が急務となっている。鉄道や公共交通機関の利用促進、電動車両の普及、航空・海運部門における排出削減技術の導入が進められている。

都市部では自転車道の整備や公共交通機関の拡充が進んでおり、短距離移動における車の利用を減らすことを目指している。また、航空や海運部門では、バイオ燃料や水素燃料といった代替燃料の導入が検討されている。

農業の持続可能性

「農場からフォークへ(From Farm to Fork)」戦略を通じて、食品システム全体を持続可能なものに改革する。農薬や化学肥料の使用を減らし、生物多様性を保護しながら、持続可能な農業を促進する。また、食品ロスの削減や地域循環型の食品供給システムの構築も目指している。

消費者に対しても、地元産のオーガニック食品を選ぶことや、食品ロスを減らす行動が推奨されている。持続可能な農業は、気候変動の影響を受けやすい農村部の経済的安定にも寄与する。

公正な移行(Just Transition)

産業構造の転換に伴い、地域経済や労働市場に影響が生じることが予想される。そのため、特に炭素集約型産業が多い地域には、労働者の再教育や新たな雇用機会の提供が計画されている。

「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」という理念のもと、社会的公正を確保しながら脱炭素化を進めることが求められている。

自然環境の保護と回復

EUでは、生態系の保護と生物多様性の回復が大きな課題となっている。森林の再生、湿地の保護、海洋資源の持続可能な管理などを通じて、自然環境を回復させる取り組みが進められている。

特に生態系サービス(浄水、空気の浄化、土壌の再生など)の維持が、経済活動や市民生活にも大きな恩恵をもたらすとされている。

このように、欧州グリーンディールは、単なる環境政策ではなく、経済、産業、社会全体の包括的な再設計を目指すビジョンである。これらの取り組みは、EU域内だけでなく、世界全体に対しても強い影響力を持ち、持続可能な未来に向けた新しい経済モデルの構築を牽引するものとなるだろう。

欧州グリーンディールの課題

欧州グリーンディールの実現には多大な費用が予想され、特に化石燃料への依存度が高い国々では産業構造の転換が求められる。例えば、ポーランドは発電の約8割を石炭に依存しており、2050年までのクライメイトニュートラル達成に難色を示している。これに対し、EUは「持続可能な欧州投資計画(Sustainable Europe Investment Plan)」を策定し、今後10年間で少なくとも1兆ユーロを投資する計画を発表した。

最近の動向と影響

2024年の欧州議会選挙では、右派・極右勢力が勢力を拡大し、欧州グリーンディールに対する反発が強まっている。これにより、環境政策の見直しや規制の緩和を求める声が増加し、特に自動車産業における内燃機関車の販売禁止措置の再検討が議論されている。

さらに、農業分野では、農家からの抗議や反発が続いており、環境保護と経済的影響のバランスを取ることが求められている。

欧州グリーンディールの今後

欧州グリーンディールは、EUの気候変動対策の中心的な政策であり続けるが、政治的な圧力や経済的な課題に直面している。特に、右派勢力の台頭により、政策の実施や目標達成に向けた取り組みが遅れる可能性が指摘されている。今後は、各国政府、産業界、市民社会が協力し、持続可能な未来に向けた具体的な行動を継続することが重要である。

【関連ページ】カーボンニュートラルとは・意味
【関連ページ】【欧州CE特集#0】欧州サーキュラーエコノミー特集、はじまります。
【参照サイト】A European Green Deal
【参照サイト】「欧州グリーンディール」の投資計画発表、脱炭素化へ10年で1兆ユーロ
【参照サイト】欧州委、欧州グリーン・ディールの資金提供メカニズムを提案
【参照サイト】COP21 Glossary of Terms Guiding the Long-term Emissions-Reduction Goal
【参照サイト】Europe wrapped itself in a web of new rules. Can it reverse course?




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