ヨーロッパのエシカル・インテリア事情に学ぶ、家具を永く使う暮らしのヒント【欧州通信#15】

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今までヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は、「レストランでのサステナブルな取り組み」をテーマに、ヨーロッパで飲食店が実践する様々な工夫を紹介した。今回のテーマは「サステナブルな家具」。ヨーロッパではどんな家具・インテリアを暮らしに取り入れているのか。各国在住のメンバーが生活者の視点で紹介していく。

【オランダ】おしゃれなデザインと循環型を両立する、家具のサブスクKeyPro

レンタル家具というとオシャレ度に欠け、選択肢が少ないと想像する人も多いかもしれない。

オランダ・フローニンゲンに拠点を置くKeyProは、サーキュラー家具をサブスクで提供する世界初の企業だ。家具を所有するのではなくレンタルすることで製品の再利用を促すだけでなく、廃材をアップサイクルして家具を製造する。

Photo by Kozue Nishigaki

Photo by Kozue Nishizaki

また、自社で製造する家具だけでなく、サーキュラーマットレスのAuping、古紙から家具を製造するOccony、廃ペットボトルからアームチェアを製造するDonar、100%リサイクルコットンとペットボトルからカーペットやカーテンをつくるWalraなど、その他の循環型の家具ブランドと提携。これにより、内装全体を循環型の仕組みで構成しているのもポイントだ。

変わりゆく生活に合わせて都度内装を変更することができる、おしゃれで快適な循環型家具。KeyProの取り組みは、居心地の良さと効率を追求するオランダらしさがある。

【スウェーデン】家具もこだわりたい北欧のおうち時間。セカンドハンドも選択肢に

スウェーデンの企業といえば、IKEAを思い浮かべる人も多いだろう。実際にスウェーデン国内で、多くの人にとって身近なブランドだ。

そんな馴染みあるIKEAが、スウェーデン国内に1店舗だけセカンドハンド専門店を展開している。その店は、リサイクル品やアップサイクル品のみを扱うショッピングモールReTunaの中にあり、主に地域住民が持ち込んだIKEA製品を清掃・修理し販売している。

Photo via IKEA

Photo via IKEA

2023年3月には、このセカンドハンド専門店舗での売上が目標を達成したことにより、2025年8月まで営業を延長すると発表された。安定して家具が持ち込まれたことや運搬コストを抑えられたことが、十分な利益に寄与したそうだ。結果として4万3,000もの商品を再販売につなげることができたという。大手企業が、循環型の事業に一歩近づいたように感じられた。

スウェーデンでは、暗く寒い冬の期間を家で快適に楽しく過ごすため、家具にもこだわりを持っている人が多い印象を受ける。そのこだわりが、デザインだけでなく、どんな背景の家具を使うのかという点にも広がり、セカンドハンドの家具が支持されているのかもしれない。

【ドイツ】前代から受け継いだアンティーク家具を、次世代まで

ドイツで友人宅を訪れると、前代から受け継がれ大切に使われているアンティーク家具を見かけることがしばしばある。街角にも、アンティーク店が点在する。

一般宅にあるアンティーク家具は、家族から受け継いだもの、アンティーク店で購入したものなどさまざまだ。アンティーク家具は修理を重ねながら何百年にもわたって使用でき、長寿命化を実現するサステナブルな家具の象徴ともいえる。

長い間大切に使われてきたアンティーク家具は美しく、高価であることも多いが人気が高い。購入する人は一生使用することを前提に購入し、子供はそれを受け継いで大切に使い続ける。売却する場合も、そのモノが運んできた歴史と共に価格も上がることがあり、経済的にもサステナブルだ。

我が家には、前代が近所の人から譲り受け、使い続けている鏡がある。製造年は1902年。重厚な木とシンプルながら綺麗な彫刻が特長だ。もう一つは、アンティーク店で購入した19世紀の書斎机。形は美しかったものの、状態はそれほど良くなかったため、店主に机上の面の皮の張替えなど修理をしてもらい購入した。こうした唯一無二の家具は使うほど思い入れが深まり、自らが大切に使うことはもちろん、所有者が変わっても大切に長く長く使われていってほしいという気持ちにしてくれる。

Photo by Ryoko Krueger

Photo by Ryoko Krueger

編集後記

大きく重たいものが多い家具。ヨーロッパでは、不要になった家具のうち80~90%が埋め立てられている(※1)。これに対し、ファストファッションならぬファストファニチャーという表現も生まれており、家具が安価に購入されすぐに捨てられる風潮が問題視されはじめているようだ。環境負荷の削減に向けて、家具・インテリア業界は大きな変化が求められる分野と言えるだろう。

サステナブルな暮らしをはじめるひとつの方法として、家具のレンタルサービスやセカンドハンドショップを使用したり、誰かから引き取ったりすることも、ぜひ選択肢に入れてみてはいかがだろうか。

※1 CIRCULAR ECONOMY IN THE FURNITURE INDUSTRY: OVERVIEW OF CURRENT CHALLENGES AND COMPETENCES NEEDS

【参照サイト】KeyPro
【参照サイト】IKEA Second hand at Retuna has reached its goals
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Written by Kozue Nishizaki, Ryoko Krueger, Natsuki
Presented by ハーチ欧州

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。イベントでの講演や、アムステルダムの現地視察ツアーなどお気軽にご相談ください。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact

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