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Toxic masculinity(有害な男らしさ)とは・意味

男らしさ

Image via Unsplash

Toxic masculinity(有害な男らしさ)とは?

「Toxic masculinity(トクシック・マスキュリニティ)」または「有害な男らしさ(男性性)」とは、伝統的に「男はこう振る舞うべき」とされる行動規範のうち、負の側面があるとされるもののこと。

例えば、男性優位の意識(女性を見下すような意識)や、男はタフでないといけない、泣いたらダメだという意識、男は性的に活発であるべきという意識などが具体的には挙げられる。

この言葉は1980年代後半に心理学の教授が提唱し、当初は「男性が感情を抑え込むことで、ときに暴力的な激しい爆発にいたること」を指していた。

近年では、セクハラや性的暴行の被害体験を告白する#MeToo運動、トランプ大統領の女性蔑視的な問題発言、男性の自殺率の高さ、銃乱射事件の容疑者に圧倒的に男性が多いことなどへの注目が集まったことを背景に、より広範に及ぶ「男性性のネガティブな側面」を指して使われている。

2022年に行われた「第94回アカデミー賞授賞式」で、プレゼンターとして登壇したコメディアンのクリス・ロックを平手打ちした俳優ウィル・スミスもまた、暴力に訴えたことで痛烈に批判されている。スミスの行為に対し、アメリカのコメディアンのロージー・オドネルは、「Toxic masculinityの惨めな表れだ」とツイッター上で投稿した。

なぜ「有害」とされるのか?その問題点を解説

Toxic masculinityという言葉には、どのような「有害さ」が含まれているのか。主に、以下の二点が挙げられる。

  1. 男性からの性差別や暴力につながる
  2. 男性の感情を抑圧し、助けを求めることを妨げる

まずは、性差別主義や暴力行為の問題だ。男性同士で連帯して、男らしさを証明しようとする絆をホモソーシャルと呼ぶ。仲間同士の内輪ノリから、女性に対してセクハラになるような冗談を言ったり、男性が上だという意識を広げたり、「男らしさ」に当てはまらない格好をする人に対する偏見や差別に満ちた発言をしたりと、気づかないうちに周りを排除し、有害な男らしさにはまっていくことがある。

ストレスがかかったときに言葉でコミュニケーションをせずに、暴力を振るう(性的暴行・ドメスティックバイオレンスなど)という手段を選んでしまったりすることもあるので、注意が必要である。

また、「有害な男らしさ」の意識は、男性自身をも苦しませることになる。タフでいなくてはならないというプレッシャーは負の感情を抑圧し、周りに相談することができないなど、精神的な助けを求めることを妨げるのだ。

「有害な男らしさ」を描いた作品

2019年のハリウッド映画界においても、社会で虐げられた男性が殺人鬼に変貌する様子を描いた作品『ジョーカー』など、Toxic masculinityをテーマに含むものが多かったと見る向きがある。『ジョーカー』は2019年11月時点で世界興行収入10億ドル(約1,088億円)を突破した。

また、2021年に公開されたNetflixオリジナル映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』も、Toxic masculinityと共に語られることの多い作品だ。1920年代半ばのアメリカ・モンタナ州を舞台としており、牧場を経営する主人公たちの物語。保守的な時代のモンタナ州で、カウボーイの格好をしながら古い時代に留まろうとするキャラクターの苦悩が描かれている。

そこでは、主人公自体が「有害な男らしさ」を抱えており、またその被害者といえる表現が登場する。

理想的な男らしさを再編する動き

従来は美徳とされていた、もしくは許容されていたToxic masculinityを批判し、それに代わる男性の理想像を提示したり、男性の抱える苦悩について議論したりする動きは、特にアメリカにおいて活発だ。

2018年に発売された『Stories for Boys Who Dare to be Different(違いを恐れない男の子たちの物語)』という本では、ステレオタイプな男らしさにとらわれない著名人100人を紹介し、少年たちに新たなロールモデルを提示。同書は2018年のNational Book Awards(全米図書賞)を受賞した。

2019年にアメリカのカミソリブランドであるジレットが流したCMでは、弱い者いじめをしたり、女性をネタにした下品な冗談を言ったりする男性の言動を問題視し、その後でポジティブな男らしさを示す人々の映像を入れることで、CMを見ている男性にも言動を変えるよう呼びかけた。Youtubeで370万回以上再生されている。

TED TALKでも、「Why I’m done trying to be “man enough”(男らしくいることをやめた理由)」が反響を呼んでいる。日本語字幕も付いているので、見てみてもいいかもしれない。

一方で、ジェンダーの議論の中で安易にToxic Masculinityという言葉を使うことの危うさも指摘されている。論文「What is “Toxic Masculinity” and Why Does it Matter?」を書いた社会学者のキャロル・ハリントンは、性暴力やパワハラ事件などが起こったときに著名メディアがこぞって有害な男らしさを指摘するものの、そのほとんどが定義を曖昧にしたまま使用していることに目を向けている。

しかし、ステレオタイプな女らしさの押し付けが弊害を生むのと同様に、男らしさに対する固定観念があることが認識され、その功罪が議論されるようになってきたことは、男性の生き方の多様性を広げることは確かだ。より多くの人が、生きやすくなることを願いたい。

男性自身にむけたメンタルヘルス向上キャンペーンなどもあるので、チェックしてみるといいだろう。

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【参照サイト】Racial Warriors and Weekend Warriors
【参照サイト】What is “Toxic Masculinity” and Why Does it Matter?




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