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ジェンダード・イノベーションとは・意味

ジェンダー

ジェンダード・イノベーションとは

ジェンダード・イノベーションとは科学や技術、政策に生物学的・社会的性差分析を取り込み、イノベーションを創出する概念のことである。

生物学的・社会的性差が考慮されていない事例

これまでの研究開発では、生物学的・社会的性差分析が見過ごされてきたがために、無意識のうちに一方の性別に偏ったサービスや商品、制度が出来上がった事例がある。

例えば、自動車のシートベルト。シートベルトの衝突実験では、男性のみの人形が使用されていたことにより、女性ドライバーの重症率が高かったり、妊婦が事故に遭った際の胎児の死亡率が高かったりした。

医薬品にもこういった事例がみられる。臨床実験や動物実験は男性やオスが被験者となる場合が多いため、女性にだけ悪影響を及ぼす薬が開発されたり、成人男性に対する適量が成人女性には効果を示さなかったりする事例がある。

反対に、男性への影響が考慮されてこなかった事例として挙げられるのが骨粗しょう症の診断だ。これまで骨粗しょう症は女性特有の疾患であるとされてきたが、骨粗しょう症に関連する股関節骨折を患った人の約3分の1は、男性であることがNational Library of Medicineの研究結果で判明している(※1)。また、骨粗しょう症の股関節骨折後の死亡率は男性の方が高く、診断や治療の方法が見直されつつある。

また、医学分野だけでなく、社会学的な事例も紹介したい。近年、アレクサやSiriなど、人の質問や声掛けに応答する人工知能(AI)アシスタントが一般化してきている。AIアシスタントの音声の初期設定は、女性の声が使用されることが多い。これは「女性は順応で従いやすい」という無意識の偏見、アンコンシャスバイアスを助長するとの意見もある。

ジェンダード・イノベーションの起源とひろがり

ジェンダード・イノベーションは2005年にスタンフォード大学のロンダ・シービンガー博士によって提唱された。その後、2009年にはスタンフォード大学にてジェンダード・イノベーションプロジェクトが始動。2011年からは欧州連合、2012年からは米国国立科学財団もプロジェクトに参画し、世界各国にジェンダード・イノベーションの概念が広がった。また持続可能な開発目標(SDGS)が叫ばれる近年、ジェンダード・イノベーションは「ジェンダー平等」や「すべての人に健康・福祉を」、「人や国の不平等をなくそう」の達成に向けても重要視されつつある。

ジェンダード・イノベーションの事例

ジェンダード・イノベーションの事例として、身近な事例だとランニングシューズやキッチンの開発が想像しやすいだろう。ランニングシューズは男性の足型で作られることが一般的であったが、男女の足型の差に着目し女性向けのランニングシューズを制作したところパフォーマンスが上がったという。

また、「料理や家事をするのは女性」というアンコンシャスバイアスをなくすため、キッチンの高さのバリエーションを増やし男性にも料理がしやすいキッチンの開発が行われていることも、ジェンダード・イノベーションの一例と言える。

ジェンダード・イノベーションのまちづくり事例

ジェンダード・イノベーションは医療分野や商品開発だけでなく、政策やまちづくりにも用いられている。例えば、韓国ソウル特別市は女性にやさしい都市をつくる女幸プロジェクトを2006年に開始した(※2)。具体的には女性に便利なまちづくりを目指すため、地下鉄やバス車内のつり革の位置を下げる政策を実施した。また、女性が夜間にタクシーに乗車する際に、タクシーに乗った場所、時間、登録番号のタクシー情報を友人や家族にメールで送る「安全帰宅コールサービス」などもプロジェクトの一施策として挙げられる。

日本でのジェンダード・イノベーションの動き

日本では2020年12月25日閣議で発表された「第5次男女共同参画基本計画」の「第4分野 科学技術・学術における男女共同参画の推進」の項目において、以下のようにジェンダード・イノベーションが言及された(※3)

「男性の視点で行われてきた研究や開発プロセスを経た研究成果は、女性には必ずしも当てはまらず、社会に悪影響を及ぼす場合もある。体格や身体の構造と機能の違い、加齢に伴う変化など、性差等を考慮した研究・技術開発が求められる。これはイノベーションの創出にもつながる。」

2022年5月に発表された「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2022」でも「科学技術・学術分野において男女共同参画を進め、研究・技術開発に多様な視点を取り入れていくことは、ジェンダード・イノベーション の創出にもつながり、重要である。」と言及されている(※4)

具体的には、理工系分野への進学を選択する女子学生への支援や大学入学者選抜における多様な入試方法の推進 、科学技術・学術分野における女性登用の促進 などを目標として挙げている。

また、災害大国である日本の防災・復興の観点においても生物学的・社会的性差を考慮した対策が重視されはじめた。内閣府男女共同参画局が2020年5月に公表した「男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」では、地方防災会議など防災や災害対策の意思決定の場への女性の参画を推進すること、災害から受ける女性と男性の影響の違いにきめ細かく対応するため、男女別に統計データを集め活用することなどが制定されている(※5)

このように日本でもジェンダード・イノベーションは重要視されてきている。しかし、日本の2022年ジェンダーギャップ指数は116位、先進国の中では最低レベルなのが現実だ(※6)。性差を分析・考慮し、誰もが健康や安全を享受できるサービスや制度を創出することが、平等な社会を創ることにつながる。

制度や会社の方針を変えるのは、ひとりひとりの意識と想像力である。まずは、身近なところから取り残されている人々がいないか、想像することからはじめたい。

※1 Gender Differences in Osteoporosis and Fractures(National Library of Medicine)
※2 ソウル市・女幸プロジェクトの安全まちづくりと都市戦略~安全な空間への権利を保障する~(京都女子大学現代社会研究 槇村久子)
※3 第4分野 科学技術・学術における男女共同参画の推進1(男女共同参画局)
※4 女性活躍・男女共同参画の重点方針 2022(男女共同参画局)
※5 災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン~(男女共同参画局)
※6 Global Gender Gap Report 2022(WORLD ECONOMIC FORUM)

【参照サイト】ジェンダード・イノベーション~性差観点の抜け漏れは人命にも影響~(株式会社日立コンサルティング)
【参照サイト】性差分析 暮らしに生かせ お茶大が研究所設立(東京新聞)
【参照サイト】ジェンダード・イノベーションが、私たちの生活にもたらすこと(株式会社共同通信社)




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