Browse By

【2023年最新版】各国の「脱プラスチック」の現状を徹底解説

プラスチックと地球

各国の政府や企業が取り組みを進める「脱プラスチック」化。アメリカやEU諸国をはじめ、チリやバングラデシュ、ケニアやエチオピアなどの国々でも規制が始まっている。また、2040年までに世界全体のプラスチック汚染を解決するための条約である、「国際プラスチック条約」は、2024年の締結を目指して議論が進められている。

日本では2022年4月にプラスチック新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)が施行され、コンビニや飲食店、ホテルなどさまざまな事業者が対応を求められている。

もちろん、プラスチックの規制だけで自動的に環境への影響が解消されるわけではない。むしろ、単にプラスチックを悪者扱いするメッセージが広がることで、大量生産、大量消費、大量廃棄といった重要な問題を見落とす側面がある。つまり、「プラスチックさえ使わなければいい」「他の素材を使えば問題ない」というのは単純化された見方であり、プラスチック問題の原因は、社会システムや消費者の意識といったより深いレベルの問題であると言える。したがって、単に特定の素材を排除するだけではなく、サーキュラーエコノミーの推進や、人々の意識改革といった根本的な取り組みが重要となる。

それでも、「脱プラスチック」への取り組みは、プラスチックに依存してきた社会から抜け出し、より持続可能な素材やシステムへの転換を進める第一歩として歓迎すべきトレンドである。世界ではどのような取り組みが行われているのだろうか。本記事では、世界各国のプラスチックごみに対する方針や規制状況、現地企業による面白いソリューションについてまとめてみた。

プラスチックごみは何が問題?4つのポイント

そもそも、プラスチックごみは何が問題なのかを改めて考えたい。

海に漂うビニール袋やストローなどのを魚や海鳥などが食べてしまうことによる生物への被害は、想像に難くないだろう。他にも、洗濯時などに発生するマイクロプラスチックが知らないうちに魚の体内に入り、最終的には人体に影響を及ぼす可能性があることもよく指摘されている。

しかし、環境への本当の影響を把握するには、プラスチック製品ができてから捨てられるまでのすべての工程を見ていくことが大切だ。ここでは、欧州環境庁(EEA)の報告書などで指摘されているプラスチックの問題点を、「採掘」「製造」「使用」「廃棄」という、4つのステップに分けてご紹介する。

1. 採掘の問題

プラスチックの99%以上は、石油やガスといった化石燃料資源からつくられたものだ。今後プラスチックの消費量が増え続ければ、2050年にはプラスチック産業が、世界の石油消費量の20%を占めると予測されている。

石油・ガスの採掘には、温室効果ガス(GHG)の排出が伴う。通常、この工程の中でタービンで天然ガスを燃焼させたり、ディーゼルの燃焼を行ったりするからだ。また、その過程で、窒素酸化物(NOx)や、硫黄酸化物(SOx)などの大気汚染物質も排出されることから、大気を汚すステップだともいえる。

2. 製造の問題

1950年代、世界のプラスチック生産量は約200万トンだったが、2020年には約4億5,000万トンになる。ヨーロッパだけでも、2021年のプラスチック生産量は57.2トンであった。

プラスチックの製造は、世界の化学製品の製造の約3分の1を占めている。これは、化学産業の中で最も大きな割合だ。化学産業は、製造業の中で最も多くのエネルギーを消費しており、鉄鋼、セメント、紙パルプといった業種より多い。

また、ここでも温室効果ガスの排出が課題になる。EUにおける、プラスチックの製造に伴うGHG排出量(石油精製および製品の製造における直接排出を指す)は、年間約1,340万トンだ。また、プラスチック製造時には、鉛、カドミウム、水銀などの有害金属が、空気中や水中に排出されている。

3. 使用の問題

ここでは、化学物質による、人の健康への影響が懸念されている。例えば難燃剤や、内分泌かく乱物質、フタル酸エステルなど、プラスチックに含まれるさまざまな化学物質へのばく露は、繁殖障害、行動障害、糖尿病や肥満、喘息、がんなど、さまざまな健康被害に繋がると指摘されている。

また、ポリエステルでできた服を着て日常生活を送っているだけで、20分で1gあたり最大400個のマイクロファイバーが空気中に放出されていることが明らかになっている。

4. 廃棄の問題

海洋プラスチックの80%以上は、漁業や漁船などの海で発生したものではなく、陸から発生して海に流出したもの。埋立地や道に捨てられたごみが風に吹かれたり雨に流されたりして、最終的に海に行き着くのだ。

プラスチックをリサイクルすると、化石燃料から同量のプラスチックを製造する場合と比べて、排出量をCO2換算で1.1~3トン削減できる。しかしリサイクルにはごみの回収、分別、加工が必要だ。世界では、多くのプラスチックが、複数の素材が混ざっているなどの理由により、回収後にリサイクルされず廃棄されている現状がある。

また、リサイクルのための焼却炉は建設費に100億円、運営費に年間2億円以上かかる。施設の寿命は30年程度であるため、30年サイクルごとに100億円かけて建て替えなければならないということになる。また、古い焼却炉には高濃度のダイオキシンや貴金属が含まれているため、解体にはさらに膨大な費用がかかる。

とはいえ、プラスチックのリサイクルは焼却や埋め立てよりも望ましいとされている。リサイクルを否定するものではないが、重要なのはリサイクルを唯一の解決策と見なさず、そのエネルギーやコストに対する再考である。近年は、そもそも、製造段階からごみを出さないよう設計すること、つまりサーキュラーエコノミーに基づいた取り組みを優先するべきだと考えられている。

▶︎ プラスチックの問題点についてもっと詳しく知りたい方はこちら:海洋プラ問題だけじゃない。資源採掘から廃棄に至るまでの、プラスチック問題とは?

世界のプラスチック問題への対策まとめ

IDEAS FOR GOODでも、これまでプラスチックごみの削減や規制に関するニュース記事を配信してきた。ここでは、国別の脱プラスチックの状況と、その国で取り組みが進んでいるアイデアをまとめている。

北米

アメリカ

アメリカでは、州や自治体ごとにプラスチックに対する規制が異なっており、国として足並みが揃っているわけではなかった。しかし2021年11月、米国環境保護庁(EPA)が2030年までにリサイクル率50%を達成するための「国家リサイクル戦略」を発表。国全体として、より強靭で費用対効果の高い国家リサイクルシステムを構築するために5つの戦略目標が掲げられた。

  • リサイクル商品の市場を改善する。
  • 回収を増やし、資材管理インフラを改善する。
  • リサイクル原料の流れにおける汚染を削減する。
  • リサイクルを支援する政策を強化する。
  • 測定を標準化し、データ収集を増やす。

また、マクドナルドやスターバックスのようなグローバル企業やスタートアップもプラスチック問題に注目し、動きを見せている。

カナダ

カナダでは、2022年に特定使い捨てプラスチック禁止規制案を発表。同規制が施行されると10年間で2万3,000トン以上のプラスチック(ごみ袋100万枚に相当)の環境流出を防げると政府は推定している。

中南米

アルゼンチン
コロンビア
チリ
メキシコ

ヨーロッパ

EUでは、2019年に「使い捨てプラスチック流通禁止指令」が可決。2021年7月から、プラスチック製のカトラリー(スプーン・フォークなど)や皿、ストロー、その他の容器などを規制対象とし、廃棄物の発生削減を目指している。

2023年9月25日には、欧州委員会が、製品に意図的に添加されるマイクロプラスチックを制限する措置を採択した。この新規則は、マイクロプラスチック、またはマイクロプラスチックが意図的に添加され、使用時にマイクロプラスチックを放出する製品の販売を禁止するものである。この新規則により、約50万トンのマイクロプラスチックが環境中に放出されなくなると推定される。

アイルランド

アイルランドは2015年頃から、第一次マイクロプラスチック(マイクロビーズ)に関して本格的に取組みを始めた。
2019年には、非常に厳格なマイクロビーズ禁止法を制定した。その前衛的な内容は、水溶性で許容限度を超過するマイクロ
ビーズを含む化粧品や洗浄製品の製造・販売の禁止である。

イギリス

イギリスでは、王室もプラスチックの使用を禁止するなど、多くの団体が先駆的にプラスチック問題に取り組んでいる。特筆すべきは、2015年に導入された使い捨てレジ袋の有料化である。導入以来、主要スーパーマーケットでのレジ袋利用が98%以上削減され、何十億枚ものレジ袋の削減に成功したのだ。

2020年10月からは、プラ製のストローやマドラーなどの流通をイギリス環境・食糧・農村地域省(Defra)が禁じた。また、包装に新しいプラスチックの代わりに再生プラスチックの使用を奨励する目的で、2022年4月1日よりプラスチック包装税(PPT)を導入した。この税金は、英国製造、または輸入されたプラスチック包装で、再生プラスチックを重量比30%以上含まないものに適用される。

そして、イングランドにおいては、2023年10月より全面的に使い捨てプラスチックが禁止されている。使い捨てのプラスチック皿、トレイ、ボウル、カトラリー、風船スティック、特定の種類のポリスチレン製カップや食品容器などが含まれている。どのようなお店からもこれらの製品を購入することができなくなるが、政府の調査によると、協議に回答した人々の95%以上が禁止に賛成していたという。

イタリア

イタリアでは、2020年1月1日より、マイクロプラスチックを含有する、洗い流せる化粧品の製造及びマーケティングを禁止。規制対象は、不水溶性5㎜以下のプラスチックを含有した製品だ。2020年9月からは、包装資材の材料表示と環境ラベルの添付が法律で義務化された。

オランダ

自転車大国であるオランダでは、世界初となる「プラスチックフリー」のスーパーができるなど、世界が注目する動きが見られる。

2023年7月1日からは、持ち帰りやデリバリーで使用される使い捨てプラスチック容器や食品包装に対する課税が実施されている。さらに、2024年1月1日から、レストラン、オフィス、バー、フェスティバルを含むダイニングインでの使い捨てプラスチックカップと食品包装の提供が禁止される予定だ。

スウェーデン

環境先進国スウェーデンは、2040年までに再生可能エネルギー100%を目指している。実際、電力の約50%が再生可能エネルギーから賄われている。

スペイン
デンマーク

デンマークでは、政府がレジ袋の提供を禁止しているほか、デンマーク技術研究所と複数の民間企業が協力し、家庭から出るプラスチックごみを100%使用した新しい再生プラスチックボトルの開発などが進められている。

ドイツ

欧州の環境大国と呼ばれるドイツでは、2021年からプラスチック製のストローやカトラリー、カップ、綿棒などが禁止された。

ノルウェー

ノルウェーは1999年から、使い捨てPETボトルのデポジット制度を採用している。ほぼ全ての業者がボトル・デポジット・スキームを取り入れており、95%以上のリサイクル率を達成すれば、業者の環境税が全額免除となる。2019年の回収率は89.4%で、約5億6,000万本のボトルを回収できたという。