デジタルウェルビーイングとは・意味
デジタルウェルビーイングとは?
デジタルウェルビーイングとは、健康的なデジタルテクノロジーの使用によるウェルビーイングな状態のこと。digitalwellbeing.orgによると、その定義は多種多様であり、例えばUNESCOは、デジタルメディアを通した中期的、長期的な人間のウェルビーイングの向上だと述べており、イギリスのEdTech団体であるJISCは、デジタルに関する自身の健康、安全、関係、ワークライフバランスに気を付ける力だとしている。
なぜ今デジタルウェルビーイングが注目されているのか
スマートフォンやタブレットが世界中に普及し、もはやテクノロジーなしで生きていくのは難しい現代となった。それに加えて、新型コロナ感染拡大の影響でソーシャルディスタンスをとるようになった私たちは、日常生活を送るためにテクノロジーにますます依存するようになった。リモートワークの普及などで、これまで以上にデジタルデバイスを使う機会も増えただろう。
デジタルを介した日常生活は、感染リスクから私たちを守ってくれるかもしれないが、過度に使いすぎることは人々のメンタルヘルスを阻害する可能性がある。新型コロナのパンデミック下では、大量の情報が氾濫するなかで、不正確な情報や誤った情報が急速に拡散し、社会に影響を及ぼす「インフォデミック」なども問題になった。そうした中で今、「デジタルウェルビーイング」という概念が注目されるようになったのだ。
「デジタルウェルビーイング」の登場
デジタルウェルビーイングという言葉が初めて紹介されたのが、2018年5月にGoogleが開催したイベント「2018 Google I/O」。同イベントの、Google社CEOのサンダー・ピチャイ氏の基調講演の中で、「今後重要となってくるのが『デジタルウェルビーイング』」であると述べられた。そしてその話の中で、同社のAndroidの設計思想にデジタルウェルビーイングのプラットフォームを取り入れることが発表されたのだ。
これにより、スマートフォンやアプリの利用時間、アンロックの頻度などをスマホのダッシュボードで閲覧できるようになったり、1日の利用時間上限をアプリごとに設定することも可能になったりとスマートフォンの機能がアップデートされ、現在はGoogleの「Google Mobile Service(GMS)」ライセンスを受けるAndroid 9以降を搭載する端末は、端末の使いすぎを防止するために「デジタルウェルビーイング」機能の搭載が義務付けられている。
その後、同年に開催されたAppleのイベント「WWDC」でも、デジタルウェルビーイングの重要性に触れられており、今やIT企業にとって重要な課題のひとつであるとして認識されている。
日本のデジタル機器使用の現状
総務省の情報通信統計ベースによると、スマートフォンは登場以来、他のデバイスと比べて普及率が爆発的に増加し、1人が1台持つ情報端末となった。
またSNSの利用について、LINE、Facebook、Twitter等の6つサービスのいずれかを利用している割合は、2012年時点で41.4%、2016年には71.2%にまで上昇している。年代別にみると、2016年には20代の97.7%が、いずれかのサービスを利用していると回答。40代、50代では、2012年時点の利用率がそれぞれ、37.1%、20.6%だったが、2016年にはそれぞれ80%程度、60%程度まで上昇している。
さらに、デロイトトーマツグループが世界28カ国・地域、4万人以上を対象に実施した2019年版「世界モバイル利用動向調査(Global Mobile Consumer Survey)」によると、日本のデジタルデバイス所有者は、他国に比べて「デジタルデバイスを使いすぎている」という意識が低く、「スマホの電源を切る」「使いすぎているアプリを削除する」など、利用を制限しようとする人が少ないようだ。
デジタルウェルビーイングが阻害されている事例
デジタル機器の使用時間がこれまで以上に増えている今、デジタル機器の使い過ぎが引き起こす弊害が問題視されている。オーストラリアのクイーンズランド大学は、スマートフォンやパソコン画面のブルーライトが睡眠の質を下げると発表。長時間の使用により、まばたきの回数が少なくなり、眼精疲労や視力の低下を引き起こすとしている。
またスイス連邦公衆衛生局、および依存症の解消に取り組むオンラインプラットフォームSafeZone.chによると、インターネット中毒になると、目の健康以外にも以下のようなデメリットがもたらされると言う。
・スマホやパソコンの使用を制御できない
・ネットの世界が関心の中心になり、以前持っていた関心が失われる
・常にネットに繋がっていたいという欲求があり、ネットを使わないと不安がある
・夜遅くまでオンラインでやりたいことがあるため、昼夜逆転するため疲労が溜まる
・仕事のパフォーマンスが低下する
その他、SNSの既読機能が早く返信しなければという焦りを引き起こすという「他者の行為が見えることによるしんどさ」や、手軽に承認欲求を満たすことができ、過去の投稿が残りつづけてしまう、忘れられる難しさがあるといった「見せるしんどさ」。絶え間ない通知が気になることによる「仕事と私生活の切り分けの難しさ」や、就寝前のスマホ使用による「入眠の妨害」「眼精疲労」などの心身への影響など、多くのデメリットがある。
さらに便利さが生む不便さとして、情報が多すぎて何をを信じてよいか分からなくなったり、情報の信ぴょう性を判断するのが難しかったり、いつでも誰かと繋がれるがゆえに、落ち着いた一人の時間がとりづらくなったりといった問題があるほか、Googleのデジタルウェルビーイングに関する動画の街頭インタビューでは、インターネットとの向き合い方に対して「(SNSの閲覧など)止めどきがわからなくなる」「携帯が半日使えなくなったら僕はおかしくなると思う」などの回答が見られた。
インターネットを使用する中でも、特定の領域は中毒を起こしやすいとSafeZone.chは述べる。それが、ギャンブル、ポルノ、SNSなどを利用したオンラインコミュニケーション、オンラインショッピング、オンラインゲームなどであり、中でも特にSNS中毒は顕著である。
インターネットやソーシャルメディアの発達により情報が溢れるようになったことで、人々は常に周りが発信する最新情報に触れ続けていないとすぐに置いていかれる、継続的な関係が保てなくなる、成功へのチャンスを逃してしまう、といった恐怖感を覚える「FOMO(fear of missing out)」と呼ばれる現象が、そういった中毒を引き起こしていると言えるだろう。
また、2020年には新型コロナウイルス感染症の広がりを防ぐため、世界各地で行われたロックダウン(都市封鎖)をきっかけに、他人の家や生活を羨み、妬む「アイソレーション・エンヴィー」や「ロックダウンジェラシー」という言葉も生まれた。インスタグラムでは2019年から投稿の「いいね」の数の表示をしなくなったものの、写真や文章に見られる、自分とはまったく違う生活を妬んでしまう気持ちは消えていないことがわかる。
デジタルウェルビーイングを守るためにできること
以下は、私たちが個人でできる、デジタルウェルビーイングを守るためののアプローチを3つご紹介する。
1.スマホツールの設定を変更
- 使用状況を可視化する
- アプリの制限時間を設定する
- 通知を制御する
2.アプリ
- 「Digital Wellbeing」:
Android 9からスマホの中毒症状改善のために導入されたアプリ。使ったアプリの使用時間や通知数、ロック解除数などをビジュアライズして確認でき、自分がどのくらいスマホを使っているのか確認可能。現在の利用状況をグラフで確認した上で、自分の使い方にあった制限をカスタマイズできる。
- 「Unlock Clock」:1日に画面ロックを解除した回数を表示する壁紙
- 「Post Box」:通知を一日に数回まとめて表示することができる
- 「Desert Island」と「Morph」:チャレンジ系のアプリで、24時間に使うアプリの種類を制限したり、仕事やエクササイズなど目的ごとに使うアプリをまとめて提示したりする
- 「We Flip」:最初にスマートフォンを手にしたユーザーが負けというゲーム
3. デジタルデトックス
- 宿泊(デジタルデトックスプランのある宿に泊まる)
星野リゾートが日本全国に6拠点、海外に2拠点展開するラグジュアリーホテル「星のや」では、脱デジタル滞在が可能なプランが多く用意されている他、「デジタルデトックスプラン」がある宿泊施設が増えている。
- リトリート
「人を自然に再接続する」をテーマに掲げるデジタルデトックスジャパンでは、デジタルデトックスを促す体験型のオンライン・オフラインイベントを提供している。
- 脱スマホ生活
その他、個人がデジタルデトックスを意識し、生活スタイルを変化させることで、デジタルウェルビーイングを守るという方法もある。例えば、仕事に関する電話やLINE以外の通知を全部OFFにすること、スマホは定位置に置いて基本見ないこと、娯楽アプリをできるだけ削除すること、就寝時はスマホベッドに持っていかないことなど。これらを日常で実践することで、少しでも無意識にスマートフォンを触ってしまうことも減り、心身の健康が保たれるだろう。
デジタルウェルビーイングにアプローチする海外の事例
海外では、以下のような企業や団体などがデジタルウェルビーイングにアプローチしている。
ニュージーランドのBoringPhoneというスタートアップは、私たちがスマホに使う時間を減らし、他のことに時間をかけられるよう、便利な機能は残しつつ私たちの気を散らす余計な機能を取り除いたスマホことBoringPhone(退屈な電話)を開発した。
機能は、通話、ショートメッセージ、カメラ、GPS、ポッドキャスト、ミュージックプレイヤー、テザリング、計算機、カレンダー、時計、FMラジオ、ボイスレコーダーなどのシンプルなもののみで、Eメール、ブラウザ、ソーシャルメディア、アプリストアは搭載していない。
イタリア・ミラノの公立大学のリサーチセンターでデジタル社会における生活の質について研究を行うチームは、デジタルがもたらす良い面と悪い面のバランスを考えており、子どもを中心にさまざまなプロジェクトを実施している。
DIGITAL WELLBEING SCHOOLでは、責任あるデジタルの使用を促すため、課題解決のスキルやオンライン上での情報収集、適切なデジタルとの関係について学べるプログラムを提供。また、デジタルスキルとデジタルに関する適切な行動を促すDigital Competenceでは、学校や企業などに対して、デジタルスキルを測り評価するためのトレーニングモジュールを提供している。
UAEでは、2018年3月にThe National Program for Happiness and Wellbeingが、デジタルウェルビーイングプログラムをローンチした。このプログラムでは、オンラインのリスクや課題について啓発し、安全でポジティブなデジタルテクノロジーやインターネットの使用を促すものとなっている。
同プログラムでは、デジタルリテラシーとアウェアネス向上を目指すCapabilities、スクリーンタイムやオンライン上での風評の管理などデジタル社会におけるConduct、オンラインのネットワークで構築された関係におけるセーフティーネットとなるContact、そして価値のあるポジティブな使用を促すようなContentといった4つの柱に焦点を当てている。
コロナ禍でますます私たちとの距離が近くなったデジタルデバイス。必要なときには取り入れながらも、健康やメンタルヘルスを阻害しない使い方を心掛け、ウェルビーイングを保っていきたいものだ。
【参照サイト】西日本新聞 「ネット疲れ」女性の7割 通販の膨大な選択肢…便利なはずがストレスに
【参照サイト】Google Digital well-being
【参照サイト】Google IOS
【参照サイト】Apple launches iOS 12 with suite of digital wellbeing features
【参照サイト】DIGITAL WELLBEING Research Centre on Quality of Life in the Digital Society
【参照サイト】DIGITAL WELLBEING COUNCIL
【参照サイト】Digital Detox Japan
【参照サイト】楽天トラベル
【参照サイト】GIZMODO
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